...ねね

 

 全てフィクションです

【DRESS】 - 2002年12月29日(日)

母は焦っていた。
なんとか小学校にあがる前に僕を女の子にしたいと考えた。
きっとその頃には周りから、僕の服装を何とかしろと
毎日毎日引っ切り無しに言われていたに違いない。

だが、今でも性転換手術など、子供に施術する事は出来ないが
その頃はそういう手術があるなどと世間一般でも知られていなかった頃。
どうにかして性を変える方法を、母は必死になって考えた。

そんな時、母と同じ事を考えている女性が居たらしい。
自分の息子を、娘にしたいと。
どうやって知り合ったのかは分からないが
その女性がある方法を実行に移したいと母に話した。
母はその話にたいそう乗り気になり、自分が先に試してみると言った。


母は早速それを僕に実行した。

ある日の夕方
僕と母はいつもの様に風呂に入っていた。
「サチ、本物の女の子になれば毎日綺麗なお洋服が着られるのよ」
僕の背中を洗い流しながら母が言う。
僕は何と返事をしたらいいのか分からずに黙っていた。
「ママはサチがいつまでも可愛い女の子で居てくれたら嬉しいな」
母の穏やかな声に反して、顔は紅潮しまるで何かに興奮しているようだった。
僕の体をシャワーで流し「さぁ、お湯に入ろうね」と僕を促した。


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【DRESS】 - 2002年12月28日(土)

そんな幼少時代を送った僕でも
小学校には普通に通っていた。
良く覚えているわけではないが、多分小学校にあがる時に
母が僕のタンスから女の子物の服を排除したのだろう。
気が付くと僕はちゃんとズボンをはいて、
黄色いカバーをかけた黒いランドセルをしょって通学していた。
母が自分の意思でそんな事を出来たとは思わない。
きっと母方の親戚とか、近所の方達に説得されたか何かしたのだろう。

それでも僕は、元来の気の弱さと女として育てられたせいなのかナヨナヨとした仕草に
学校では「オカマ、オカマ」と苛められる事がままあった。
あまり事を重大に考えないタイプの僕は、
皆がそうやって囃し立てたりする事を大して気にはしなかったので
「苛められたトラウマ」なんてものは全く無かったわけだが。

これは大人になってから耳にした話だが
この小学校にあがる直前の頃、母には恐ろしい企みがあったらしい。

僕を、完全に女にする事。


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【DRESS】 - 2002年12月11日(水)

その後、僕がミユキちゃんの家を訪れても
ミユキの母は僕を家に入れることは無かった。
そして、外で彼女らに会ったとしても、挨拶する事すら無くなった。
ミユキの母親は、自分の娘と僕とを遊ばせようとはしなかった。
しばらくするとミユキばかりではなく他の子供達やその母親達までもが、
僕に奇異の目を向けるようになっていた。


「僕が他の子供とは違う事」
が原因だという事は、小さい僕にも容易に理解できた。
しかしそれは僕のせいじゃない。
何も分からない僕をそんな姿にして世間を騙してきた母が悪いのだ。
僕が悪いわけじゃない。
なのに僕には友達が居なくなった。
僕は、理不尽さを感じていた。

が、服装など自分ではどうにもできない。
小さな子供が母親の買ってきた洋服以外のものを身に着けることなど
出来るはずも無い。
僕のタンスには赤やピンクの花模様がいっぱい。
白いレースやフリルのドレス。

”男の子らしく生きる”事は望む。
だけど、
女の子である事を捨てれば
もうあの花模様の洋服は着られないんだ・・・


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【DRESS】 - 2002年12月07日(土)

ミユキの母親は、僕の体を無言で洗ったあと、
ミユキの兄の服を僕に着せた。
僕は、男の子の服なんてちょっと嫌だなぁ、と思っていた。

まだ自体を把握できずに呆然としている僕を連れて
ミユキの母親は僕の手を引いて僕の家まで歩く。
しかし、彼女は何も喋らない。
僕も何も喋らずに歩いた。
彼女は僕を見ようとしない。
少し顔を上げて彼女の顔を見るが、真っ直ぐに前を見ているばかり。
心なしか怒っているようにも見えた。


玄関を開けて、僕の母が顔を出す。
開口一番ミユキの母親が発した言葉は

「どうしてこんな事をなさるんです?」

少し激しい口調に、横に居た僕は少したじろいだ。
が、僕の母は何を言われているのか分からない顔をした。

「女の子みたいな格好をさせるなんて、かわいそうよ」

僕は可哀想じゃないよおばさん。
スカートは可愛いし大好きだよ。
そう言おうとしたが、その瞬間から大人二人の口から
矢のように言葉が飛び交い、不穏な空気を感じた僕は
二人の間をすり抜けて自室へと向かった。
陰から玄関の様子を伺ったが、
彼女達は僕がその場から居なくなったことにも気付かない様子で
何か言い争いをしているようだった。

もうやめて!喧嘩しないで!
心の中で僕がそう叫んだ時、
母の怒鳴り声が聞こえた。

「サチは!女の子です!」

そして、ドアがバタン!と激しく閉まる音がした。


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【DRESS】 - 2002年12月05日(木)

だけど、僕は女の子じゃなかった。

それは、友達の家でおもらししてしまった時に
はっきりと、自分は他とは違う、
なにかおかしな物だと言う事を自覚したのだ。

僕がおもらしをしてしまった家のお母さんが慌てて僕を風呂場に連れて行った。
友達のミユキちゃんにからかわれながら風呂場で僕はクスンクスンと泣きながら
脱がされるままに体を預けていた。
「泣かなくてもいいよ、さっちゃん。ミユキと一緒にお風呂入っちゃおうね」
そうしたら急に友達のお母さんは声をあげたのだ。
「あらっ?」
彼女の視線は僕の体の一点に注がれていた。

さっちゃん、おちんちんついてる!
おちんちんついてるよ!さっちゃん男の子だよ!

ミユキちゃんがそう叫んだ。
驚いた顔をした二人だったが、僕もそうとうびっくりしていた。
なぜこの二人に驚かれたのか分からなかったからだ。
おちんちんって・・・だって、ミユキちゃんはついてないの?
面食らっている僕をよそに、ミユキの母親は僕に言った。
「さっちゃんは・・・男の子だったのねぇ」


わたし、女の子だよ。だってママがそう言ったもん。
女の子におちんちんがついているのはオカシイ事なの?
わたしは本当は男の子なの?
でもママがわたしに嘘つくわけないもん。
だってずーっと可愛いスカートはかせてくれたし。
ママはいっつもわたしの事、可愛い女の子って言ってる。
でも、でも・・・おちんちんついてるのは女の子じゃ・・・ないの?


わたしは
なにか、オカシイの?



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【DRESS】 - 2002年12月04日(水)

父と離婚した母は、一人で僕を育てた。
一時は僕を妊娠した事が父に知れ、
また復縁しないかという話をされたらしいが
母は頑としてそれを受け付けず、どうにか一人で産んだそうだ。
その頃の話は、あまり聞いた事が無いので詳しい事は分からない。

僕は幼稚園や保育園などには行かなかった。
最初は自分でそれを疑問に思うことは無かったが
そのうち周りの同じ様な年齢の子供達が
運動会やお遊戯会などの話を始める時、
自分もオトモダチがいっぱい通っているらしい幼稚園という物に憧れた。

だが僕の母は
「サチにはママが居るでしょう?」
というばかりで、僕を家の周りより遠い場所に置く事は許さなかった。
今思えば、幼稚園などに僕をやれば
僕に男の子の服装をさせなくてはいけない。
だからなんだろう。


正直言って、その頃僕は自分の事を特異な存在だと思い始めていた。

生まれてからずっと、僕の服装といえば女の子の可愛らしいものだったし
母は僕に女の子らしい仕草や口調を求めた。
だが、僕はテレビを見る時は少女の出てくるアニメではなくて
なんとか戦隊とかなんとかレンジャーとか、
戦うロボットやなんかが出てくるものが好きだったし
公園で男の子達ががサッカーをやっていると
僕も仲間に入れて欲しくてうずうずした。

自分がまだ男女の性の違いを良く分かっていなかったときは
子供ながらに、自分はなんて女の子らしくない(母親の期待に添えない)
子なんだろうと考えたこともある。




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