...ねね

 

 全てフィクションです

【DRESS】 - 2002年11月16日(土)

「サチ、さっちゃん、可愛いわ。すごくよく似合うわ。」

フリフリのたくさん付いたスカートを着せられて
頭にリボンを結んだ、髪の長い「少年」が
母親と共に鏡の前に立っている。
満面の笑みを浮かべながらご満悦の母親。
そして、嬉しそうにスカートの裾をくるくるさせているのは・・・

僕だ。



僕の母親は、結婚して7年ほど子供が授からなかったらしい。
僕の父親の両親には石女と蔑まれ、親戚達には子供はまだかと催促され。
病院に行こうにも、本当に自分は子供を作れない体だと
宣告されるのが怖くて行けなかったそうだ。
守ってくれるべき夫は、日に日に冷たくなっていく。
ますます子供など作れる心理状態ではなくなっていく。

そして7年目
僕の父親は、妻に離婚を言い渡した。

そういう時代だったのかどうか
母は文句も言えずにすぐに家を出された。
だけど、その時には彼女の腹には僕が宿っていたのだ。
欲しくて欲しくてたまらなかった、子供が。
彼女が望んでやまなかった、「娘」が。

そう、母は娘が欲しかった。
エコー検査で僕が男の子だと知った時
子供が出来た時の嬉しさも薄れるほど嘆いていたそうだ。
僕の母は・・・
「子供」が欲しかったのではなく、「娘」が欲しかったんだ。



-

【DRESS】 - 2002年11月10日(日)

僕達は久々に街に買い物に出た。
今は街もすっかり雪で真っ白だ。
丁度今の時期は大通り公園でホワイトイルミネーションが始まっている。

凍りつきそうな冬独特の空気の中、僕達はビルの谷間を歩き回った。
途中でショーウィンドウが目に留まり、立ち止まる。
「綺麗だなぁ・・・」
ガラスに張り付いて食い入るようにそれを見つめる僕。
隣では妻も、そうだね、と言って吐息を漏らした。
ショーウィンドウの中には真っ白なウェディングドレス。
たくさんのレースとガラス玉に彩られた真っ白なドレス。
大きな百合の束を持ったマネキンが微笑んでいる。

「一緒にウェディングドレス、着たかったね」
妻が僕を見上げた。
うん。僕は君と一緒にドレスを着て結婚式をやりたかった。
だけどそんな夢はかなわないまま。
まぁ・・・当然か。
妻は「いつかもう一度、二人きりで結婚式を挙げましょう」
と言ってくれたが
だけど僕はもう40になってしまった。
きっと自分が見ても、僕のドレス姿は美しいとは言えない代物だろう。

「いや、いいんだ。君のドレス姿は綺麗だったからね」

妻はまだ何か言おうと口を動かしかけたが
僕は繋いだ手を引っ張って歩き出す。
そろそろ空が薄暗くなってきた。
公園のイルミネーションを見に行こう。
多くの電球をまとった木々は、さぞかし綺麗だろう。

まるで、光のドレスの様に。



-




↑エンピツ投票ボタン
My追加

 

 

 

 

INDEX
昨日  明日

Mail