僕らの日常
 mirin



  鳥かご@鳥羽

「また、そんな話?」
水滴の滴るガラスコップ。流れる雫を掬い取るように姉さんの指先はそれをなぞった。

「今月に入ってもう二度目ね」
前はそんなこと言わなかったのにと困った顔で笑うその声は、ぼくにはとても悲しそうに聞こえて、言葉を紡ぐ為に開いた
口に朝食のパンを放り込んだ。
「だいじょうぶよ。きっと、違うから、ね」

何が、違うんだろう。
何が、大丈夫なんだろう。

姉さんは、もっとぼくを責めてもいいのに
姉さんは、いつもそうだ
ぼく達を置いていった母のことも...
怒らないで、ただ何もかも諦めたように笑うんだ

少し前に姉さんが婚約をした。
相手の男の人は、背が高くて、人柄の良い、明るくて優しい人だった。きっと、この人なら心配いらない
姉さんが選んだ人なんだ。これからを一緒に歩むために

”おめでとう”

素直に呟いた言葉

”ありがとう”

交わした他愛ない挨拶とお祝いの言葉。
にこやかに笑う男の人を見上げて、握手をした次の日

姉さんは、婚約を破棄された。

「やめた?どうして?また、ぼくのせい?」
半ば相手に掴みかかる様に問いかけた体は、簡単に宙を
放り出されて、ぼくは思わず小さく呻いた。
片足を投げ出し、座り込むぼくに彼はちらりと目を向ける。
慌てて汗を拭う手は、何故か赤くて、ぼくは首を傾げた。
「マジかよ」
聞こえるか、聞こえないかの小さな声でそれだけを呟くと
彼は、そのまま歩き去る。

『薬指は、紅差し指っていうのよ』
昔、母の好きだった紅の色、こんなときに思い出したのは
今日、夢に見た母の唇が奇妙に弧を描いたのは、


2012年01月18日(水)
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