僕らの日常
 mirin



  天体観測の日@晴臣

強い日差しの下、庭園の水撒きに借り出されている
生徒達を階下に眺めた。

「今日もう夜、雨だよね」
「無駄だな、水が」

昼休み、渡り廊下から片腕をだらりと下ろしながら
ボクは何の因果かつい先程出会ったばかりの朝学組の
貴公子と話をしている。

「宇宙来るかな」
「雨が降っても授業はあるからな」
「…そっか」

ボクより少し背の高い宇宙より、更に背の高い相手を
ふと見上げてなんとなく尋ねて気づく

「………」
「………」

失敗だと思った、会話が続かない。
何より、周囲の視線が痛い。
いつもボクらの間に入る宇宙がいないのが珍しいらしく
貴重なツーショットだと、クラスメイト達が囃し立てる。

ふと、壁に凭れていた彼が顔を上げて
周りを一瞥する様に周囲を見ると
生徒達が一瞬にして、身を強張らせたのがわかった。

「おい、行くぞ」

そう言われるままにわけもわからず歩き出したボクは
これから一体何処に行くのか聞くわけにもいかず
黙って、貴公子の引き裂く生徒達の花道を分け入り通った。

2005年09月25日(日)



  終りを司る者@終司

母親は小さいときに死んだ。
病気だったらしい

どこが悪かったのかは今でも知らない。

オレが物心着く前に母親はもうベットの上に居たからと
それを聞こうにも父親は交通事故で他界していた。


その後に...
オレを引き取ったのは母の双子の妹だった。
優しい人だった。優しい家族だった。
自分の子供達と同じようにオレにも接して
いつも笑って、泣いて、叱ってくれた。

……もうその人も子供達もここにはいない。


どういう意味かわかるだろ?
もう説明の必要はないんだろ?

影が挿してた、いつもいつも

オレの傍に近づくな…
オレの周りをうろつくな


まだ生きていたいのなら、こっちを見るな。
振り返るな、名前を呼ぶな、知りたがるな、話しかけるな

大事なものはもういらない。
そう世界から、オレ自身を遮断してきた。


分厚い扉を抉じ開けるそんな相手が現れるとは考えず ―


オレが知っているのは白くて細い冷たい手
眠る寸前まで笑顔だった優しい母親の手がひとつ...

2005年09月24日(土)



  不可抗力@終司

白く冷たい手に触れた。
繋いだ指先から全身に小さな音が聞こえた気がした。

あれは、星の砕けた音だったのかもしれない。



目の前に暗い空
月も星もない、暗い灰色で厚い雲の天上

誰もいない屋上に今はオレ独り

気味の悪いくらい静まり返った今日の校舎は休校中。
補習や倶楽部絡みでここに来る生徒も少なくはない

時折、生徒達の足音や笑い声が遠くから聞こえてくる。


けど、それでも静かだと思えた...
呆けた頭で、左手で瞳を隠し、右手を空の方に伸ばす。

空しいくらい、何にも掠りもしない

後頭部の下の硬いコンクリートの冷たさを感じる。
オレは、天上に伸ばした手をそのままに目を閉じた。



『…柊…きみ、泣いてる?』


目を閉じてから、何も聞こえなくなった。
外にいるのに暗く閉ざされた空間のような違和感に
そっと手を下ろし、瞳を開く。

眼を開けば、よく見知ったアイツがオレを覗き込む様に
立っていた。

「誰が泣いて」
「きみが」

続けようとする言葉を遮る様に間髪入れずアイツが返した。

「涙出なくたって、泣いてるのわかるよ」
「…お前も泣けよ」
「泣かないよ。悲しいことなんてないから」
「嘘つけ」

少しの間。苦笑気味に笑ったアイツの表情に影が挿す。

「まぁ、当たり。やっぱり嘘かな」
「泣けよ」

「次限の補習に出ない?柊が来れば必要ないだろ」


宇宙の手を借りて、コンクリートから起き上がる。
軋んだ身体がパキだかピキだか妙な音を上げていた。

相変わらず、空は晴れない雲のままだ。
灰色で何も見せない雲の壁

自然と握るアイツの手、オレの右手に軽い重みが重なった。

2005年09月21日(水)
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