いつも最後の最後に余計なことを言ってしまうから、
美しく終われない。

カッコイイ振られ方なんてものがあるのなら、やってみたいと思うけれど。

結局いつもじたばたとして、見苦しいったらない。
楽しかったはずの日々を、
自ら汚して傷を深めて。

想いが深ければ深いほど、悪あがきしてしまうのかも知れないが、

あたしは自虐したいだけなのかもしれない。

しばらく喧嘩をしていない。
些細なことで声を荒げることもなく、
お互いを責めることもなく、
つつがなく、淡々と粛々と日々を暮らしている。

それは傍から見れば、円満ということなのだろう。
お互いが必要とするときに必要とする行動をとり、
お互いの果たすべき機能を役割分担している。

お互いが共有しているのは、守るべきもの。
それを守るために、自身の感情に蓋をする。

もはやそこにはかつての愛情など欠片もなく、
ただ諦めと惰性とで繰り返される日常。

意地を張る。

｢あたしは決して弱くなどない」

自身の強さを誇張すればするほど、無理が生じてしまうのを知っていながら。

それでも、例えそれが虚勢であっても、それはいつか真の強さに結びつくはずだから。

泣くもんか。

あと出しなんてずるい真似もするもんか。

きっとあたしが許せなかったのは、自分にない弱さ。
だからそれを嫌悪し、軽蔑したのだろう。

｢あたしはあの人とは違う｣

それだからこそ、自分の方を向いて欲しかったのに違いない。

あの時も。

あの時も。

あの時も。

それは大切な人を失くした時だった。

あたしはいつも、そのたびに、惑い、心狂わせ、
それはやがて身体をも侵食してしまう。

心と身体はリンクする。

いつも。

いつも。

いつも。

｢こんなこと頼まれたってするもんか。あなたにだけだよ｣

あたしだけのために、アナタが贈り続けてくれる気持ち。
他の誰でもない、アナタが、
あたしだけに見せてくれる優しさや、
弱さや、
ありのままの姿に、
あたしはいつも満たされ、癒され、幸せになる。

大切なものを失くしてしまったから、心に穴が開いてしまったのだろう。
それだけが原因の全てではないけれど、身体が悲鳴をあげている。

｢その穴の形はオレの形じゃないから埋められない｣

そう、それはアナタのためのスペースではなかったから、埋めようがないのね。

｢穴を埋めるのではなく、外側から小さくしていく。オレのスペースがどんどん広くなれば穴はどんどん小さくなる｣

開いてしまった穴が、いつかわからなくなるくらいに。
アナタのスペースがどんどん広がっていって。
全てが満たされたとき、心も身体も笑顔になれるのかも知れないね。

｢ずっとくっついていよう｣

｢街中でもいきなりキスしたり｣

｢もうね、常にいちゃいちゃするの｣

｢だってさ、大好きな人が隣にいるのに、どうしてくっついちゃいけないの？」

｢何も恥じることはないじゃんね｣

｢あたしたちの幸せを見せつけてやれ｣

｢暑苦しいくらい｣

｢周りがウザがるくらい｣

｢でもきっと｣

｢きっと？｣

｢ウザがるのではなく、羨ましがるよ｣

｢そうだね｣

｢だってさ、すごい幸せだもんね｣

｢こんなにイイ男に愛されてる｣

｢こんなにイイ女に愛されてる｣

｢バカップルだねえ｣

｢人目なんてどうだっていいや｣



想うだけで顔が緩み、他には何も見えないくらいに。

愛してる。

愛してる。

愛してる。

繰り返す言葉は想いを形にしたものには違いないのだけれど。
何かが違う。
何かが足りない。

こんなちっぽけな言葉では表すことは出来ない。



それでも。
伝えたいから言葉にするのではないのだ。
ただただ、その想いをどうにかして表したいだけで。
そうしなければ溢れ出す想いで、自分がはちきれてしまいそうだから。

愛してる。

愛してる。

愛してる。

愛してルルル。

いつものように、携帯を開く。
そこに届いた、いくつかのメールに。
心躍らせたのが、いつのことだったのか思い出せないくらい遠く感じる。

特別な着信の合図も。
特別な呼び出し音も。

全てリセットした。

もう、心を苦い想いで満たされることもないだろう。
もう、不安で身体を痛めつけることもないだろう。


｢自分を想って苦しむくらい、愛されてると想うと嬉しい｣


いつだったか贈られたあなたのその言葉は、愛情からくるものだとしても、許せなかった。
愛情と憎悪は紙一重だ。
そんな形で愛情を証明されて嬉しいなどとは、言って欲しくなかったのだ。
そんな形を作ってしまう関係に疑問を持って欲しかったのだ。



投げかけた一つ一つへの回答も、中途半端なまま、あたしに下駄を預け幕を引くことを選んだあなたは、最後の最後まで、あたしに甘えていることに気が付いているのかな。

私は満たされている。
アナタを想う時。
アナタは常にそこにいて、私を満たしてくれる。
手を伸ばせばすぐに触れられるところで、
いついかなるときも全てを受け入れてくれる、
絶対無二の存在がそこにあるというだけで、
この上もない安心感に包まれる。

満たされた想いで、
周りに愛を伝えよう。
幸せのおすそ分けをしよう。

｢自分の分はちゃんと残しておかないとダメだぞ｣

大丈夫。
健やかなる時も
病める時も
日の照る時も
翳る時も
嵐の夜も
晴れの朝も
アナタから届くあふれんばかりの愛情で、
私の中は無尽蔵に満たされるから。

それが真摯な想いならば、と。
きちんと向き合って応えるべきだ、と思っていたから。
望むような形は差し出すことは出来ないかもしれないけれど。
それだからこそ、いい加減な気持ちではなく、
きちんと応えたいと願ったものを。


悪いのは全て私で。
壊したのは私のせいで。
最初からあなたが望む形を勘違いしていたのも私で。
否。
わかっていても尚、違う形に変えたいと願ったのが私で。



ならばうまくいく訳がないじゃない。



突きつけられた言葉の真意もわからないけれど。

私を責めて気が済むのなら、責めればよい。
傷つけることで想いを浄化することが出来るなら、斬り付ければよい。
私は決して逃げない。
痛みを受け入れることで、あなたの想いが遂げられるのなら、
正面から向き合いたい。
逃げることは簡単だ。何もかも遮断してしまえばよい。
かつて彼の人が、私にそうしたように。

それでも。
全ての選択は自身で行ってきたのだから、その結果には責任を持ちたい。
だから。
決して逃げないで、痛みを受け入れたいのだ。

｢私は足りてないのかしら｣

｢そんなことはないさ。価値基準は人それぞれ。同じ事をしても感謝されたり、足りないと罵られたりするものでしょ？｣

｢じゃあ、私はどうすればいいと思う？｣

｢ひとりで出来る範囲で考えて実行すればいいだけ｣

｢それでいいの？｣

｢そう。そして、あなたはあなたでいつもあなたらしくあればよい｣

｢私らしく？｣

｢泣きたいときは泣けばよい。笑いたい時には笑えばよい。嫌なことは嫌と言えばよい。それがあなただと胸を張って言えばよい｣

｢自信を持って？｣

｢そう。思い切り跳んだら、着地点で待ってるから。何も恐れないでいいんだよ｣

この日が来るのを知っていたのだろうか。
約束の日を忘れていただけで、あらかじめ知っていたのだろうか。

ちゃんと知っていれば。
ちゃんと覚えていれば。

もっとずっと前から、自分を大切にしてきたかも知れない。

生まれてきてよかったと、心から思える。
生まれてきたことを共に喜んで祝ってくれるアナタがいる幸せを。

これだけの事をしているのだから、それに見合う報酬をよこせよ。

お前の一番大切なものをよこすだけの事をしていると思うのだが？

そう言うことなのか。

割り切って、差し出せば、気が済むのだろうか。

あいにくあたしはそんなに安くない。

｢あなたのために願うよ。俺がそうしたいから｣

あたしの幸せが自身の幸せに繋がるから、と。

感謝する。

きっと、ずっと、いつまでも。

お互いの幸せを願える関係でいられるよ、あなたとなら。

ただひたすらにアナタの名を呼ぶ。

そこに好意があるのを、わかっていて。
甘えてしまう。

甘え甘えられ、支えあう関係ではなくなっていると言うのに。

一方的に手を離したのは私なのだ。

独占欲に踊らされて、何もかもを叩き壊したいと願って。

ひどい言葉で傷つけ、己の正当性のみをぶつけ続け。

負わせた傷は計り知れないと言うのに。

それでも。

ありのままでよいと。

その言葉に甘える私は、とてつもなくずるい。

｢記念日おめでとう｣

届けられたメッセージに、満たされる。

｢いつまでもずっと祝ってあげたい｣

いつまでも祝ってよ。

特別な日を。
特別なアナタが。
特別な想いで。

これからもずっと変わらずに。

こはる ｜MAIL

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