(SleepWalking)



北国
 
あの人が何処に行ったのかわからないけれど、
わからないからこそわたし、北に走ったのよ

と、彼女は言った。
あの人は雪が好きだったそうだ。
それも、この国の最も北の岬で見るのが
大好きだったそうだ。

あの人は岬から消えた。
海に落ちたのかもしれないし、
船に切り刻まれたのかもしれないし、あるいは
誰かと東の国へ逃げたのかもしれないが

彼女はそれを知らないのだと思う。
あの人にまた逢えると信じているのだ
果たしてそれが叶うか叶わないかに関わらず
雪に触れに行ったのだと信じているのだ。

電話口の彼女は微かに震えて、けれど
まだ優しく笑っているようだった。
次の朝、彼女はこの町の西で死んだ。
珍しく雪の降った夜が明け、彼女を見つけたのは
他でもない、あの人の影だった。
あの人の姿は未だに見えないままだ

2005年03月31日(木)


にほんブログ村 散文詩

 
 
 
 



知識量ゼロ
 
何も知らないでいるのは只の惰性なのかも知れない
一つの意思表示もしないでいるのは只の傲慢なのかも
ほんとうは好きになって欲しいくせに
だけどそうしているのは
踏み込んで崩れる恐ろしさを忘れられない
只の愚かさだ
遠巻きに眺める笑顔のほうが自然に見えてしまうからだ

2005年03月29日(火)


にほんブログ村 散文詩

 
 
 
 



消えていく
 
つぶやくほどに薄れていくのはたぶん

あなたへのあいとか、そんな名前の

本当につまらないもので

そんなわたしはいまだに

あいというのは何たるかを知らない

抱き締めて感じるのはあいではない

ただの体温で

あなたがそれをあいというののら

あなたはわたしに映しているのだと思う

遠くに置き去りにした母を

ひとつになったぐらいで感じるような

くだらないあいはいらない

ほんとうにあいしているのならあなたは

わたしに触れたりしないはずだ

生きているあいだに、ただの一度も

2005年03月28日(月)


にほんブログ村 散文詩

 
 
 
 



くう
 
悲しくなるから、

もう期待するのはやめようと思った

わたしにそんな価値などないのだから

2005年03月21日(月)


にほんブログ村 散文詩

 
 
 
 



かすりあめ
 
目を凝らさないと見えないくらいの
細い絹糸がきらきらと光る
わたしの世界は
きれいなおりの中にある
その鉄は透明で
手をかざせば消えてしまう
けれど
けしてここから逃げることは出来ない
わたしのおりは美しい
閉じ込められた長いねんげつ
世界は遮断されたまま
どこかで汚くなっている
わたしはそれを知らない
汚れた雨のきれいな世界が
それを教えてくれるまでは

2005年03月11日(金)


にほんブログ村 散文詩

 
 
 
 



記憶の海
 
どうしても思い出せない何かを探しに

あなたはそこで死んでいるのだと知りながら

裸足のままで海に出た

腕を突っ込んでかき回す

あなたのなかみを抉り出す

あなたのきおくを抉り出す

私の記憶は欠けている

あの春の雨に消えている

小さな茶髪の頭にひとつ

咲いていたのはアジサイだった

季節はずれのアジサイは

海に埋もれて流された

淡いピンクは寂しい藍へ

それはあなたが死んだから

月が微笑む優しい晩に

冷たい海へと沈んでしまおう

はらはらとちる花びらのように

あなたと一緒に揺られよう

寂しい藍から優しい桃に

あなたにこいをしてるから

2005年03月09日(水)


にほんブログ村 散文詩

 
 
 
 

back  next  chronological  latest  index

芳   Mail  My Favoite