窓のそと(Diary by 久野那美)
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2008年04月10日(木) |
「・・で、最近は、何?」 |
8年ぶりに友達に会った。 最後に会ったのは20世紀の末だった。 だから、私たちはお互いの電話番号と住所しか知らなかった。
彼女とは、周りがみんな私たちより年上なのが当然だった頃に、お芝居の現場で出会った。大嫌いなものがよく似ていたので仲良くなった。それから年に数回会って、何時間も結論のない話をした。彼女と話をした時にしか考えないようなことばかりを延々と話した。そういう会話は、自分の内側も外側もぐんぐん軽くやわらかくほぐしてくれる。言葉を軸にして自分自身の位相があっちこっちぶんぶんと無秩序に飛び回るのが心地よかった。軸足がくるくる変わり、遠くへ遠くへと行けるのが心地よかった。
私がめずらしく忙しくしていた3年の間に彼女は日本を離れ、気がつくと会う手段が無くなってしまっていた。どこかにいるんだろうなと思っていたけれど、どこにいるのかわからないまま、8年たった。どこにいるのかわからない相手と話をする方法を8年前のわたしたちは持ってなかった。折に触れ、思い出してはいたんだけれど、機会がないままに時間がたってしまった。
突然どうしても彼女と話をしたくなって、どうしても彼女と話をしたくなって、手当たり次第に手がかりを探してみた。絶望的かと思えたのだけれど、8年の間に、世の中はおどろくほど狭くなっていた。インターネットやメールや国際電話の普及は空間だけでなく、時間の切れ目も埋めてくれた。探し始めて3ヶ月。飛行機で12時間の海の向こうからメールが届いた。真夜中に、時差を飛び越えた電話のベルが鳴った。
そして、大阪で再会した。 不思議な感じだった。 人と出会うということは、いったい、出来事なのか世界なのか?
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それなりに大人になった私たちには、困ったことや聞いて欲しいことがお互いにたくさんあって、久しぶりにそういうことを相談しあう時間を持ちたかったはずなのだけど、話し始めてすぐに、すでに言葉にも問題にもなって解決するほかしようのないそういった問題を交換しあうのが面倒になってしまった。そしてやっぱりだらだらととりとめなく話を続けることになった。思いついたことを思いつくまま、今思いつかなければ一生考えることもないだろうことばかり、延々と話し続けた。
そんな時間が一段落ついて。 たばこをふかしながら、彼女が言った。 「・・・で、最近は、何?」
昔から、彼女は会うたびにその言葉を口にした。 ―最近、いちばん気になっていることは何なのよ?教えてよ。―
「ひまわり。」 おもわず私は答えた。 そしてひまわりの話をした。 ひまわりの話はアルプスの話になって、スペインの話になって、椅子の話になって、帽子屋さんと靴屋さんの話になって、電気屋さんで待ち合わせをするひとたちの話になって、家電を買う話になって、「おばあさんマジック」の話になって、ガーデニングの話になって、映画の話になって、踊るペンギンの話になって、アーヴィングの話になって、セロトニンの話になって、80歳になったら実現させようというある企画の話になって、古いホテルの話になって、らいよんちゃんねるの話になって・・・・・・・・・
本人達以外にはほとんど何を話してるのかわからない会話なのだけど、それまでどこにもなかったことばがあとからあとから生まれてくるのがぞくぞくするほど心地よくて。時間がたつのはとても早かった。
とても中途半端な時間に、「じゃあまた」と梅田で別れた。 彼女は明日、東京へ発つという。そのあと海を渡るという。 私の行った事のない、遠く離れた国で、彼女は今暮らしている。 次に会うのはいつになるだろう。
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とりとめなさすぎる話をとりとめなく書くことはどうにもなぜだか難しくて、そんなわけで今日の日記はこんな具合になってしまった。 自分で読み返しても何がなんだかよくわからないのだけれど、なんとなく、記録しておきたいのでこのままにしておきます。
もう少し時間がたてば、少し違った言葉になって、別のものを理解したり発見したりすることに役に立つような気がしています。
そしたらまた書きます。
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