都心から私鉄で南に向かう。 車両は空いていたので、一番端をえらんで腰をおろした。
夏の疲れもあって少しウトウトしていたと思う。 ふと首をもたげ車両をみわたすと、 向こう側のシート、ちょっと左斜めにわたしが座っている。
一瞬だけど・・・自分を見た。 よく見るとあちらもこっちを見て呆然としている様子。
やっと飲み込めた。
あゝ・・・また彼女だ。
「なぁ〜んだ、びっくりした! いちこ!?」
それはこっちの台詞であって、驚かせないでよ、まったく・・・・。 彼女は、友人の久美江さんだ。彼女とは、雑踏の中でもけっこう遇う。 というか、自分と似ているのでよく目に留まるのかもしれない。
まだ梅雨が明けない雨の日、道玄坂を下っていて ガラス越しにビルの中を覗こうと足を止めたとき
そこにジーンズにブラックのカットソー姿のわたしを見た。
向こうは傘はさしていないが、片手に携帯をもって話をしていた。 目があって、お互い驚きのあまりしばらく声もでなかった。
「どうして、ここに?」
そう言いながらあわてて携帯をたたむ彼女。
ちょっとした用事と返答しながら思ったのは・・・
彼女はわたしなのかもしれない。 それともわたしが彼女なのか・・・
彼女のご主人も、わたしと彼女が似ていると言う。 わたしの夫は、そうでもないといっているけど・・・ね。
遠い世界にいるわけじゃなく、 すぐ近くにいて、ときどきこんな驚かせ方をする存在。 そんな存在も、あっていいのかもしれない・・・。
それは、ほんの一瞬だけど・・・ 自分を見たと思う瞬間、異次元を体験できる。
そして、
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