「来週休み取れたからどっか行かない?」 新宿の街は目にウルサイ。ネオンがこれでもかと光り輝いて、その厭らしさと言うか虚無感というのか、中身が何もない意味のない光がやけにこっちを見ては、全身をごちゃ混ぜにされた感じ、嫌いと言えたら楽な街だ。
「秀樹の為に休み取ったの!一緒に遊びに行こうよ」 地上より少し高い所にある…と言っても3Fだが、喫茶店で仕事帰りにコーヒーを飲みながら、又同じように仕事終わりでこれから1杯という人達が続々駅とは逆方向の繁華街に消えて行く。 僕と違うところはコーヒーか酒か、それと話しを聞いてくれる女か話しをしたがる女かの違いだ。
「そうだなーゆっくり温泉でもいいなあー」 楽しそうに話す女、聞いているフリだけする自分。 きっと神様は僕にとんでもないヤツをつけて僕を話し好きにさせ様としたのか、聞き上手にさせ様としたのか、どちらにしてもこの女をつけてくたのは明らかに失敗だった様に思える。
神様の言う事は聞かない。 「きっと忙しいからダメだ」 と外を眺めながら言った。新宿の夜は何とも綺麗だ、行き交う人々の足と目に飛び込んでくるネオンが一斉に交差する。 「そう…じゃあ違う人と行ってもいいの?」 「お好きな様に」 「本気で言ってるの?」 「本気だよ」
女は席を立ってどこかへ消えて行った。 と同時に話しを聞いてくれる女の元に電話をかける。 「今何してる?もしよかったら…」
喫茶店に入った。 まだ付き合っているとも、付き合っていないとも言えない女と。 ―今日こそは― と心の中で思っていた。 取りあえずタバコに火をつけ、落ち付かせようと肺に煙を入れて吐き出す。 吐き出した煙が一面に広がり目の前を遮った。 霧の様に前が見えなくなった、目の前にいる女の顔すら。
何秒経っただろうか?少しすると目の前が開け、 目の前にいる女性は老女に変わっていた。 「えっ?」 事情がが飲みこめない、トイレへと駆け込んだ。 綺麗に清掃されている手洗いの鏡には 自分ではない、だけど自分の様な年を取った老人が映る。 嘘だと思いたくて蛇口をひねり両手一杯に水を貯め鏡に引っ掛けたが 夢でもない嘘でもない老人の顔は何度掛けても一緒だった。
信じられなかった。 肩を落としながら、席に戻ると老女は 「さあ、行きましょうか、あなた」 ―…あなた???―
Happy Endなのか、 Bad Endなのか、分からなかった。 ただ年を取りもうタバコは吸えない体になっていた。 肺が煙を受け付けない、あの煙はもう出せない。
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