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2003年07月18日(金) 雨に乗せて

−雨上がってるよ!−

朝から嫌な天気だった。空はどんよりと曇っている。明らかに時間が経過するに従って雨は降り出す、そんな感じの雲だ。重そうで灰色をした空は好きにはなれない。ココ何日か続いているこの空模様にがっかりしながら晴れ間が見えることを密かに祈った。

−外に虹がでてるよ!−

案の定、昼前から雨は降り出した。今まで必死に耐えてきた雲も遂に雨の重さに負けて、雲の隙間から順序良く、そして止めどなく地面を濡らした。皆、当たり前のように傘は用意していたけど、それでも嫌な気分になってしまう。この辺りで溜息が一斉に漏れた瞬間でもあった。そんな溜息が空に吐き出され、それでも雨は容赦なく人の行く道に水たまりを作っていく。

−早く!出てきてよ!−

ゆっくりと優しく降る雨、ジメジメした風、Tシャツが背中に張り付く季節。どんどん気分は沈んでいく。仕方のないことだ。この季節は誰もが下を向いて、傘に落ちる雨の音を聞く季節だ。沈んでしまうのは雨のせいとしか言いようがない。晴れ間の期待できそうにないこんな一日は、どこに行けば少しは気分も晴れ間に近づくだろう?

−消えちゃうよ!虹−

暑さと、雨、憂鬱を誘うにはまず問題ない要素だ。
どちらかが一つでも欠けたのなら良いのだけど、そうもいかない今日の天気。この上なく憂鬱な日だ。それ以外には何もいらない。

−ねえ!すごく綺麗だよ!−

それから何日か過ぎた。朝起きたら、傘がなくなっていた。自分ではない方の傘が。隣にエリがいなかった。部屋の中にはいつも通り何も変わっていない。昨日二人で飲んだワインのボトルが無機質に意味もなくテーブルの上に置いてある。その横には二つ仲良く並んでグラスが。片方は半分くらい残っている。山のように積み上がった吸い殻と、AFNが大音量でいつものように流れていた。僕の間を。
そして傘だけが消えた。エリを連れて。

−ねえ、カメラ取って!そこら辺にあるでしょ!虹撮れないかな?−

普通なら飛び出してすぐに探しに行くのだろうが僕はそうしない。もう帰ってこないことは分かっているから。別れの言葉なんてどこにもない。ココには言い忘れた科白が部屋の中を浮かんでいる。ただ、別れだと感じたまでのコトだった。
強い雨が地面を叩きつけていた。起きたばかりで視界がぼんやりとしていたためか、エリが玄関で笑って立っているように見えた。

−消えちゃったよ、もう。−

出ていくのは何となく予感はしていた。全ては仕組まれた演技のように。きっとこの雨が上がってもエリは戻って来てはくれない。雨だけがリアルな演技を、嘘のない演技をしている。
アメガ エリヲ サラッタ・・・。
ボクハ エリヲ ムカエニ イキハ シナイ。
少しだけ雨の音が弱くなった。

−浩介!何してるの?−

エリの幸せを祈る。僕にはできなかった。
雨と一緒に僕も雲の上から地面へと投げ出してもイイ。けれど、エリは帰ってこない。この雨は、演技のない雨は僕をどこに連れていってくれる?
エリ!おまえはどこに行ったんだ?
意識のどこかで呼び起こす何かが僕に伝えた。
「エリ、まだこの声が聞こえるかな?」
傘も差さずに外へと飛び出した・・・。
エリ!

どこへ向かえば良いんだろう。雨はまたリズムを変えて一層細かいビートを打つ。僕はそれでも構わない。
・・・エリ。

−もう、バカね−

ファインダー越しから見たエリの後ろ姿はとても綺麗だった。
あの写真は今、どこにあるんだろう。
演技のないエリの後ろ姿が・・・。



2003年07月17日(木) 夏祭り

圭介とは小学校の野球のチームが同じで、クラスも一緒で一番仲の良い友達だった。
でも困ったことに同じクラスの美樹ちゃんのコトを二人とも好きになってしまったらしい・・・。

ある日曜日、野球の帰り道、そんな話になって、
「康は誰か好きな子いる?」
まさか美樹ちゃんとも言えずに、
「圭介はいるのか?」
と、聞いた。
「俺は美樹ちゃんがいいなあ!」
圭介のこの発言で自分がものすごく情けなくなった。恥ずかしさが勝って、美樹ちゃんが好きとは言えない自分に。なのに圭介は自分の前できっぱりと言える・・・。そして、その顔が真剣だった故に・・・。
蝉が鳴いている。汗が背中に張り付く。二人の顔は野球の練習でついた泥と、日焼けによって土色になっていた。そして圭介は少し頬を赤らめていた。もうすぐ一学期が終わる。その前に、圭介にも美樹ちゃんにも思いを伝えなければこのまま負けてしまう。夏休みに入る前に・・・。

運良く僕は美樹ちゃんの隣の席だった。その席替えの時間、圭介は僕を見てとても羨ましそうにしていたのを思い出した。この時、僕は美樹ちゃんを特に意識はしていなかった。隣になってから好きになりだした。今、考えれば圭介のあの羨ましそうな目が理解できる。ずっと前から圭介は美樹ちゃんのことが好きだったんだな。複雑な気分だ。でも美樹ちゃんを好きな気持ちは変わらない。
帰り道、圭介に
「俺も美樹ちゃんが好きだ」
と打ち明けたのは月曜日だった。太陽は雲に隠れた割と涼しい月曜日だった。蝉の音も疎ましく思わない月曜日だった。圭介はビックリした様子で
「本当かよ!」
と目を見開いて言った。少し怒った口調で。そんな圭介に負けないようにもう一度、
「美樹ちゃんが好きだ」
と言った。これで圭介と同じ土俵に立てた様に思った。すると圭介は
「じゃあ、今からライバルだな!」
と思わぬコトを言い出した。
「今度の夏祭りに二人で美樹ちゃんのことを誘おう。それでどっちに来てくれるか勝負だ!俺か康か、どっちに美樹ちゃんが来るか勝負だ!」
圭介の勢いに負けたくなくて
「いいぜ!」
と言ってしまった。体中の汗が噴き出すかと思うくらいの焦り、体が震えそうな程の恥ずかしさ、それに負けないくらいの勇気・・・。
圭介は
「それじゃあな!」
と言って走って行ってしまった。
・・・そういえばもうすぐ夏祭りがあるんだっけ。と小さく呟いた。
涼しいはずの今日が急に熱をもって僕の中を駆け回る。風なんか感じられないほどの熱が全身を回って最後には美樹ちゃんの顔が浮かんだ。

こうなったら夏祭りに誘うしかない。
圭介に負けたくない。野球も、美樹ちゃんのことも。
もうすぐ夏休みだ。学校にも来なくなる。美樹ちゃんにも会えなくなる。
夏祭りに誘うしかないな・・・。

国語の時間、美樹ちゃんの机に書いてみた。勇気しか持たないで。
「夏祭り一緒に行こう!」
誰かが教科書を読んでる声も聞こえない程、緊張していた。それよりも大きな勇気を持って美樹ちゃんの机の上に拙い字で書いた。
それから残りの授業中はずっと下を向いていた。夏の日差しが窓越しに机を照らし出す。机の半分で影と日差しにちょうど別れていた。こっちは天国でこっちは地獄で・・・僕はどっちにいけるのかな?
次の日、僕の机には
「いいよ!」とだけ返事が書いてあった。心臓が張り裂けそうな程の嬉しさ、可愛らしい美樹ちゃんの字を消すのをためらったけど、圭介に見られると嫌なので消すことにした。本当はずっと残したかった。ずっとずっと。僕が学校を卒業しても残っているように。

・・・圭介は美樹ちゃんに何て言ったんだろう?
美樹ちゃんには言ったけど、来てくれるかはまだ分からない。確かめるコトなんてできない。今、落ち込みたくもないし嬉しさに浸って圭介の悲しそうな顔も見たくない。

夏祭り、当日。
前日は当たり前の様に眠れなかった。戦争に行く前の兵隊のような気分だ。
圭介に勝てる気もしないし、美樹ちゃんとは机の会話をして以来会話らしい会話をしていない。圭介が何を言ったかは知らないけど、ずっと気になっていた。待つことしか出来ない自分は、もう美樹ちゃんには何も出来ない。
約束の時間が迫る。
1時間前、30分前、20分前、10分前、5分前、3分前、1分前・・・・・・。
ずっと下を向いて待っていた。飾り付けされた提灯や太鼓の音は僕には全く関係なかった。ただ、ひたすら歩いて餌を探す蟻のように、ただ待っていた。

「康くん!」
後ろから声が聞こえた。振り返ると美樹ちゃんが笑顔でこっちを向いていた。
「元気?」僕はその声にすら何を返せばいいのか忘れて、美樹ちゃんの瞳を見ていた。美樹ちゃんは少し不思議な顔をしてから、
「行こう!」
と一言。僕は
「あっうん」
としか言えなかった。

圭介はどうしているのだろう。目の前には美樹ちゃんがいるのに変な心配をしてしまっている。美樹ちゃんは自分を選んでくれた。圭介に勝った。それでも圭介のことが気になった。けれど・・・。

「康くんって圭介くんと仲が良いよね?今日は一緒に夏祭りに行かないの?」
意味が分からなかった。圭介の誘いを断って僕の所に・・・来てくれた・・・?
「ねえ!圭介くんってどんな人なの?」
分からない。どうしてこんなコトを言うのか・・・。
「圭介くんって野球上手なんでしょ?」
ん?もしかして・・・圭介は美樹ちゃんを・・・。
「圭介くんって・・・」
やっぱりそうだ。圭介は美樹ちゃんを誘ってないんじゃないか・・・。
「圭介くんって好きな人がいるのかな?」
どうしていいのか分からなくなってしまった。僕のことを思って圭介は美樹ちゃんを誘わなかった。圭介は美樹ちゃんのコトが好きで・・・けど僕に・・・。どんな顔をして美樹ちゃんに接して良いのか分からなくなった。そして、
「美樹ちゃんは圭介のこと好きなんだね」
顔を赤くしてちょっと微笑んだ、美樹ちゃんの顔が忘れられない。
「誰にも言わないでね」
と一言。一瞬にして僕の恋は終わった様だ。

夏祭りの太鼓の音はヤケに人事の様に思えた。もしくは圭介と美樹ちゃんのことを祝うような音のようにも聞こえなくもなかった。出店の照明はどこに向け照らしているのだろう。僕以外の人は皆楽しそうにはしゃいでいる。まるで違う世界にいるような・・・。圭介は僕のことを思って誘わなかった。嬉しかった、けど妙に悲しい一日となってしまった。

帰り道、じゃあね、と言って別れた。
あの日、圭介に美樹ちゃんが好きだと告白した場所でもあった。今では昔のコトのように思える。別れ際、
「美樹ちゃん、圭介も美樹ちゃんのコト好きだと思うよ」
美樹ちゃんはとても嬉しそうに
「本当に?よかった!」
今度は僕が圭介を後押しする番だ。苦しいけど、悲しいけど。
「前に美樹ちゃんのこと好き!って言ってたから」
涙が出そうで、途中詰まりながら言った。街灯の影で美樹ちゃんには見えなかっただろうけど。僕が涙目になっていることを。
「だから、がんばってね!」
上を向くしかなかった。涙をこらえることしか。圭介も同じように 辛かったんだろうな。
「今日はありがとう!じゃあね!」
走ってその場から逃げ出した。

途中聞こえてくる蝉の鳴き声と太鼓のリズムが上手く合わさって夏を演じていた。
好きな人をどんなに想っても届かないもの。
圭介にありがとうって言わなくちゃ。でも美樹ちゃんと仲良くしているところを見たくないな。立ち止まった。空を見上げた。綺麗な夜空だった。
きっと明日も同じように、今日と同じように晴れるんだろう。
きっと今日のコトを僕は思いだして、明日も泣くんだろう。
きっと明日も。

いつまでも
「圭介くんって・・・」
の声が耳から離れなかった。






2003年07月16日(水) 知らない世界

僕にとってはあまり関係のない世界だと思っていた。
旅行に行くときも、カメラは持っていかない。
だから日常には関係のない世界だと思っていた。

それが友人の依頼で撮った写真の題名を考えたり、
キャプションを考えたりすることになった。
そのうちに写真を観るようになった。知らない世界がそこには存在した。
新しい世界が開けた感じがした。

一枚の写真の奥を観ようとした。
被写体を撮影するように、じっくりと一枚を見つめた。
その場所での音を感じ取れるようにしてみる。風景から感じることの出来る音を。
写真=音。音を感じることが出来るのが写真だと思う。
そこにある一枚の写真かた様々な音を拾う。
シャッターを閉じる前に全ての音を入れられるか。
そこだと思う。

写真のことは何も知らないけど、
依頼されて良かった仕事だった。(ボランティアだけど・・・)

依頼してきた彼が個人で写真を楽しむことを選んでしまったので、今回が最初で最後の依頼となってしまったが、垣間観ることの出来た世界を感謝している。

人差し指に全てを閉じこめる瞬間、世界は止まる。
カシャという音の刹那に、尊さを感じる。



2003年07月15日(火) 老いていく自分

最近、鏡をみたら感じた。
額のしわが増えたな・・・。

年を取ったと言うことだろうな。どうも鏡の前に立つと思わず目が額へと行ってしまう。
高校生になった頃、口の上の毛が気になり始め、剃ったりしていたが
途中から気にしなくなった。
今ではその場所は無法地帯と化している。

今回もそうなのかな・・・。
額に手を当てて仕方ないなーと独りゴチル。
鼻から息を吐き出して。

年を取っていく分、老いていく分、
他の部分に芽が生えれば、と思う。
可能性だったり、才能だったり。

蓄積されていく一番上に新しい風を入れて、
老いた自分の姿を誇らしげに思えれば鏡の前に立つことも億劫じゃなくなるンじゃないかな、きっと。



2003年07月08日(火) 黒いシャツ

目の前は白だった。だんだん汚れていった。
気にすると止まらなくなるから。
ずっと気にしないでいたらいつの間にか黒になった。

人生は初め真っ白だ。
何も期待も夢も描けない頃は。
だんだん自我に目覚め、ある程度の知識を詰め込み、
ある程度の期待と夢を抱く。
そうすると汚れてしまう。

掴もうとしていたモノがそうでなくなると汚れて洗濯したくなる。
時間は洗濯出来ない。心だったり着ているシャツは洗濯できるけど・・・。

少し、また少し月に隠れて目の前が黒くなる。
白に戻ることは?

ただ君の胸の中で眠りについていたいのに・・・。

黒になっていた。人生って何?ってきかれた。
「シャツを汚すことだ」と答える。
それでまた
「洗濯したら白を着る」と言う。

やわらかな夜に。



2003年07月06日(日) 女の憂鬱

朝・・・。
男が起きると隣には女が寝息を立てて幸せそうに眠っている。

−早く行かなくちゃな−
男はベッドから女を起こさないようゆっくり離れ、自分の服を取って洗面所に向かって行った。
−起きない内にココを出なきゃな−
独り言が洗面所に響いた。顔を洗っているが、終わったらすぐ服に着替えて出ていこうとしている。歯は磨かないらしい。テーブルの上に何かを置き、その場から立ち去った。ゆっくりとドアを閉めたはずだった。

−白々しい−
女は閉まるドアの静かな音を聞くなりベッドから起き出した。
−分かってるわよ−
男が逃げるようにして行くのが分かっていた様だ。女は何も着ずに洗面所へと向かった。長い煙草を加えて。自分の顔を眺めて何かを言っている。聞こえないが、特に思い詰めて何かを言っている訳ではなさそうだ。むしろおしゃべりを楽しんでいる様子に見える。一人のおしゃべりを。

−快楽の追求なんてもう、うんざりだわ。”心”をくれる誰かを見つけたいモノだわ。もう少しイイ男・・・と言っても、内面がイイ男よ!もう体だけの関係なんて飽き飽きだわ!−
女は戻ってきてから服を纏った。とてもスリムで誰もが羨ましがるようなスタイルだ。着ているモノもおしゃれで、それでいてそれを着飾ることはしない。本当のおしゃれを知っている女なのだろう。また、それが男を魅了することも女は知っている。

−さて、次は誰かしら?−
テーブルの上の5枚の1万円札を掴んで4枚を財布の中に入れた。
残りの1枚は誰かが読んでくれることを祈ってメッセージを書いてテーブルの上へ戻した。
「心を下さい」


 < past  INDEX  will>


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