喫茶店の片隅。僕は小説を持ち込み暑い日差しから逃げるように駆け込んだ。 少しでも外にいれば背中がジットリと濡れてくる。
席に座ってすぐにウェイトレスが水を運んできた。 「ご注文は?」 「アイスコーヒーを」 喫茶店での常套句だ。彼女は一日何度アイスコーヒーを注文され、 何度運ぶのだろう?その度に、愛想笑いなどしたりして・・・。
煙草に火を点けるとようやく落ち着いて、汗も引いてきた。 するとすぐに横に座っている夫婦の会話が耳に入ってきた。
「あの子もとうとう家を出ちゃったわ、これで3人とも私たちの手を放れたのね」 「アッという間だったな、もう20歳だ。あいつも一人でやっていける年頃だろう」 「何言ってるのよ!まだまだ子供だわ!私にとっては3人ともいつまでも子供 よ!いくら手が放せたからと言って・・・」
その子は結婚でもしたのか、家を出たのか、はっきりしていることは夫婦だけでこれから生活をしていくようだ。二人ともどこか淋しげな表情を浮かべ、アイスコーヒーを飲んでいる。
「あの子、ちゃんとやっていけるかしら、心配だわ」 「そうだな、たまには帰ってきて欲しいな」 「あら、あなた家にいてもあの子と話なんかしないじゃない!」 「いや・・・居るってことが大切なんだよ。何でこうも子供は家から出て行きたがるかな」 「親の気持ちなんて分からないのよ!子供には。でも子供には精一杯のことしてあげたいの。そうでしょ?」 「だから一人暮らしも許したんだ。あの子には”大人”になってほしいしな」
どうやらその子は一人暮らしを始めたらしい。 Gパンにポロシャツという出で立ちから引っ越しの手伝いをしたのだろう。どうもその帰り道らしい。意味もなくさっきから何度も溜息をついては煙草を吸っている。 どうとも言えない感情が二人の間を取り巻いていた。 手が放れたのは決して嬉しい出来事ではないようだ。むしろ負の感情だろう。 そういう顔をしている。安堵の表情とはほど遠いと言ったところだ。
僕は運ばれてきたアイスコーヒーにミルクを落として飲んでみた。 いつもより苦く感じた。小説に逃げ込むこともできなくなってしまった。 ぼんやりと煙草をふかして、故郷を思い出していた。
例の夫婦は仲良く3本ずつ煙草を吸った後、半分ほどコーヒーを残して最後に、 「淋しくなるわね」と溜息混じりで小さく呟いた。
僕も後を追うようにして店を出た。 夕食の支度でもしてるのだろうか? 携帯のアドレス帳にある実家の電話番号が画面に表示されている。 「もしもし、米田です」 相変わらずの母親の声。 「久しぶり、元気にしてる?」
僕たちは同じ歩幅で歩いているだろうか? 君が手を伸ばせば僕はしっかりとその小さな右手を掴んであげられているだろうか? 離さずにいてくれるだろうか?
悲しそうな顔も。 嬉しそうな顔も。 僕は君の弱い部分も、強い部分も全て受け止めている。
飾らない笑顔も、 ふと流してしまう涙も、 君の前だからだ。
・・・恥ずかしい話、こんなに僕は誰かを想うことを自分自身ですら ・・・知らなかった。
昔ならこんな事を書いては自分に納得させていた。(恋に恋するというか・・・) けど、今は違う。 それが、今。
人間と他の生き物の命は違うのですか? 人間が他の生き物の命を弄んでいいのですか? 人間はそんなに偉いのですか?
ある愚か者が掲示板にて猫を公開虐殺したという話を聞いたとき、どうしようもない思いが交錯して、胸の中を駆け上がって頭まで瞬時に登ってきた。そしてでてきた言葉が序文だ。どうしたらこんなコトができるのか?分からない。自分より弱い者を見れば落ち着くのか?そして、どうしたら命ある者を殺せることができるのか?理解できなかった。いや、したくもない。
愚かという言葉が最も当てはまる。 僕は動物愛護でも人間が生物の中で最も偉いとも思わない。
ただ、一つ思うことは「同じ命」ではないか?ということ。 僕たちは色んな生き物の恩恵を受けて生き延びている。 だからこそ、大切にしなければいけないのではないか?
同じように接することが出来ないものかと・・・。 「同じ命」でしょ?
フロントガラスを雨は容赦なく打ち付けた。 雨粒の一つ一つがワックスによってはじかれ、 ワイパーによってその存在を消滅させられた。
不協和音のような耳に残る音と、一定のリズムで視界を広がらせてくれる。 エンジン音は穏やかな大地と共鳴し、 生きていると証明するかのように車体を上下に揺らしている。 5秒後には通り過ぎる道をライトはぼんやりと照らしている。 5秒後には過去になる未来をただひたすら照らし続けた。
傘をさしながら自転車に乗る男、 傘をさしながら買い物袋を抱えている女。 一瞬、すれ違っては永遠と出会うことのない人達を横目にして、前をむき直す。 徐々に人気のない道へと進んでいく。
−いつの頃か、車に乗ってどこかに行くときは必ず助手席の後ろを陣取った。 運転する父親の姿に僕は憧れていた。ハンドルを操作する姿をじっくりと見つめ、いつしかこうなりたいと幼心に思ったモノだった。格好良い父親のヒトコマだった。−
トンネルに入ると一時だけど雨は凌げる。ワイパーは動いたままだった。 シガレットライターを押した。 無数のオレンジ色した光が車内に向け差し込んできた。思わず目を逸らしてしまいそうな光の洪水、エンジンの回転音、タイヤが地球と接している感触。 口に煙草を加えた。 トンネルを出ると同時にシガレットライターは音を立て僕に知らせた。 煙草に火を点けた。窓は開けることは出来なかった。
トンネルを出ても雨は止んでくれてはなかった。 今日は花に水をやらなくても十分だと思った。 アクセルを踏み直した。 その時、灰がズボンの上に落ちてしまったが、気にしなかった。 花は喜んでいるように見えた。
男ってのは非常に単純で、バカな生き物です。 単純だから、バカって言えるのですが・・・。
女性と目が合うと「おっ!」と思って、 もう一度目が合うと「ん?まさか」と思って、 3度目には「やっぱりな!」 と、大バカ野郎の、勘違い野郎に早変わり。 自意識過剰というか、バカ正直というか・・・。 悲しい生き物でもあります。
根底にはもてたい!と言う気持ちが少なからずあるように思います。 あと、男としては頼りがいのある男になりたいとか、 困っている女性には手を差し伸べてあげたいとか、 当然その中に下心は必ず含まれています。 だから男は恐い。バカだけど恐い。 男は狼だ!というお母さん方の気持ちは分かる気がします。最近になって良く。
女性諸君、男を落とすのなんて簡単です。 ”ちょっと相談事聞いて欲しいんだけど”と言ってみましょう。 ”お酒でも飲みながら・・・”なんて言えば大概の男は「よし!」と思うでしょう。バカだから。 ”誰にも相談出来なかったんだけど・・・”と言ってから話に入っていけば確実に4分の3の男は落ちるでしょう。 残りの4分の1は相当お堅いのか、嫌われています、貴方が・・・。 でも、4分の3は貴方のことが好きだから気にしないで行きましょう!
男ってバカだもん。 もてたいもん。 頼られてたいもん。 力になりたいもん。 相談事のりたいもん。
だからって女性諸君、嘘はダメですよ! 男ってバカだから凄く傷つくから。 好きな男だけに・・・お願いします。
PS:だからって僕はもてたくないですよ! 誤解シナイでね!
地下室とは考えたものだ。 いったい誰が作ったのだろうか?避難所とは言うけど、 何か起きてからでは遅いのに・・・。 そんな所逃げ込む暇なんてないよ!
地下室の利点・・・どんな大きな音を出しても迷惑を掛けない。 気付かれない。例えば、誰かを殺しても、自殺したりしても。
オーディオのスイッチを入れた。音楽を流す。 なんでも良いが、ここは壮大なスケールを感じさせる交響曲が似合う。 クライマックスは静かに逝きたいと思うから。
右手にはピストルを、左手には人生の全てを握って。 天秤に掛けたら右手の方が重い。人生の全てと言ってもそのくらいの程度だ。 簡単に引き金だって引けてしまう。 全てがこの一瞬で終わりにできるのはとても楽だ。 背負ってきたモノを一気に解き放つことができるから。
「もういいや」ボリュームを上げる。体のボリュームも上がる。 全身が震えている。これは恐怖なのか?喜びなのか? 体が言葉にならない感情を表現している。 心臓はピッチを上げて、全身に血液を送り出す。 右手を震わせながら銃口を頭に突きつけた。
「さ、逝こうか!」人生の重みはどこかに埋まるだろう。震えは止まる。 その時、全ては静寂に包まれた・・・23秒の沈黙の後、 聞こえてきたのは幼い頃、母親が私にいつも隣で聞かせてくれた子守唄だった。
再び時は動き出した。私だけを置いて。
”遊んでいる”と思っていたが、実は遊ばれていたりする。
別れた女とは会わない方が身の為だと思ってはいたが、身体は正直になる。 少し時が過ぎるとそんなことも思わなくなってしまって、 −もしかしたら寄りを戻せるかも− なんて思ってしまう。 まあ、こっちとしては実にラッキーなコトなのかもしれない。 恋人時代とは違う気持ちで身体を重ねることが出来るから。
が、しかし女はそんなこと一つも思っていなかった。 愛情なんか、もう感じることもない。欠片もない。 ただ、無言で訴えていた。 −早く私が貸したお金、返してよ!−
この男、かなりの額を借りていた。おまけに仕事もない。 バイトらしいこともしない。このことが別れの直接の原因ではないが、 引き金だったことは間違いない。 友人にも借金をしている。全てを足してみると10万は軽く越す。 返すアテもない金なのだ。
女は毎夜、この男に身体を預けていた、当然無賃で。 いつしかこの男が自分の思っていることを、心の中を知ってくれると信じて。 愛情はない、ただ身体を。
男は女の手の中で転がされていた。 そんなことも気付く分けない男は今日も女を抱く。 男が眠りにつくと、女は溜息をついて急いで部屋を出る。 「いい加減返してよ!」 と、捨て台詞を吐いて。 当然、男にはその声は聞こえない。 夢の中で違う女を抱いてたり・・・。
曇り空しか見ていないような気がした。 もうすっかり梅雨と言ってイイ。 爽快感溢れる春はどこにいったのか?少し首を傾げながらそれでも夏を待つことしかできない。 ジリジリと。
ため息ばかりこだまするこの部屋の中で、不埒に考えは行ったり来たりしている。 僕の中で何も動きはしなかった。何一つ考えることなどできなかった。 地面に落ちる雨の憂鬱さといったらきりがない。際限なく落ちていく。 この僕をどこかに導いてくれないか?
降り出しそうな雨のことを憂い、雲の遥か上に存在する太陽をここまで導いて欲しい。 僕の声、聞こえるかな? 届いたら、晴れ間見せてください。
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