おいらの遠い昔の、昔の、昔の、昔のじっちゃん・・・。 まっ先祖ってヤツなんだけど・・・。 そのじっちゃんは人を殺して、自分は生きようとした。 そんなん仕方のないことだったんだ、少し昔までは。 何人も何人も殺して来たんだ。 もともと人間は「狩り」をしながら生き長らえてきた訳で・・・。 つまり、おいらもその「狩り」をしていたじっちゃんの血を受け継いでるんだ。 ・・・生き残りがおいらなんだ。
おいらは「狩り」に出るんだ! 生き長らえる為に。 生きるんだ。
「健二?おいらだよ!おまえ今どこいるんだよ!聞いてくれよおいらの話。昨日夢でさ何か変なこと聞いたんだ。あそこの森あるだろ?そこに銃が落ちてるから取りに来い!って遠くの方で誰かがおいらに言ってるんだよ。何回も。嘘じゃネーよ!本当だって!もし嘘だったらおいらをその銃で撃ってもいいんだぜ!まっだからよ、来いよ!森に。学校なんてどうでもいいから!来いよ!森だぞ!急いでな。おいらはもう向かってるから。じゃあな!」
森へと少し急いだ。少しまだ風が冷たくて心地よかった。まるで風までもおいらのことを後押しするように。何とも言えない胸の高鳴りを抑えきれずに森へと急いだ!狩りをするじっちゃんはどんな気持ちでいたんだろ?こんな気持ちはあったんかな?ぎゅっと握っていた手のひらはジットリと汗で濡れていた。もう少しでじちゃんを越えられる気がしてならなかった。
「健二、遅えよ!待ったぞ。そんでよ、夢ではこっから20分くらい歩けばあるって言ってたんだ。大きな木の根本にあるから!って。大きな木って言ってもな・・・っこらへんそんな木ばっかじゃねーか!探してみようぜ!とりあえず20分ぐらい歩いてみっか!」
「健二、あったぞ!マジであったよ!おいらの行った通りじゃネーか!おまえ疑ったよな!信じてなかったろ?おいらは今からじっちゃんの様な猟師になんだ!健二、おまえはそういう血が流れてねーのか?おいらは健二を殺せるんだぜ!この銃で。どうするよ?恐いか?」
一人目の仕事が終わった。おいらこれから猟師として、生き長らえるためにこれからもこうしてやって行くんだ!戦え!生きるんだ!そして猟師を全うしたら死んでも構わない。
人間は進化していった。殺しのない世界を願った。平和を祈った。 科学はどんどん進歩した。ある日、小さな発明家は小さな発見をした。 それがどんどん大きくなって大きな発見となった。 やがてその発見は恐ろしい凶器を生み出してしまった。その凶器は人を殺すことができる。おいらにはその発見はできないけど、その凶器を使うことは出来る。そして、その凶器で人を殺すこともできる。 ちょっと引き金を引くことで・・・。 自分の命だって・・・。 人間は進化していった。本能の「狩り」をすることを忘れるように。すこしづつ進化し、変化していった。ある日その「狩り」を思い出すことがあるけれど、それはほんの、本当に一瞬で、進化によって生まれた脳でそんなことは止めようと踏みとどまる。おいらは少しだけ他の人と違っていたのか? それともおいらの全ては変化や、進化を拒んだのだろうか?
・・・今おいらは自分のこめかみに銃を・・・。
時として、この躰が凄く要らないモノの様に思えて仕方ない。 どうしようもなく必要がなくて、壊したくなる。 邪魔になる。全てを停止させてしまうのが一番だとすら思えてしまう。
そんな時はただ、ひたすら歩いてみる。何か考えているようで何も考えることは出来ない。その時の自分はすべてから孤立して「孤独」を味わうことをただ、追求する。
この肉体が重すぎて僕は飛べない。 この手は力がなさ過ぎて掴めない、何も。 この頭は不埒に入ったり来たりしている。
「生」とは個人、その人にしか分からない。故人になってからでは遅い。 どんなときに、何をすれば「生」を感じることができますか? 躰は何も反応してくれない。僕は苛立って仕方ない。
躰の中心にある心だけがヤケに熱くなるのを僕は抑えることが出来ない。
神様からプレゼントをもらいました。 神様ははっきりと言いました。 「逃げたら終わりだ!その言葉を言ったら負けだ」と。 ぼくにはその言葉の意味が分かりませんでした。 左手にしっかりプレゼントを抱えました。誰にも取られないように。そして二発だけ弾を入れました。最も二発しか神様は弾をくれなかったのですが・・・。
その次の日にぼくはビルの屋上に登りました。 その屋上は地球の人みんなを見渡せるコトのできるビルの屋上です。はっきりとは見えないので、ぼくは世界で一番よく見える望遠鏡を買いました。世界一だから当然高かったです。でも買いました。自分の力を誤魔化して買いました。 だから分かってました。ぼくはこの場所でみんなを殺してから、それから死ぬことを。最高の死に場所だと感じました。みんなの上に立って、一番高い所で死ぬことができるから。
望遠鏡を首に下げて、左手にはもう弾が入っていない神様からのプレゼントを持ちました。ゆっくりと照準を合わせました。それから打つマネを何回もしました。上から知らない人を何人も撃ち殺しました。ぼくはその時、神様になっていました。 他人の命を弄ぶ悪い神様になっていました。 それでも打つマネを止めませんでした。色んな人を眺めてはそれから狂った様に何発も打ち込みました。そのうち左手が疲れてきたのでプレゼントを置いて、望遠鏡で自分の家を見てみました。
誰もいませんでした。お父さんも、お母さんも。 いっぱい血が流れていました。誰に殺されたのか気になったけど、ぼくもどうせこの場所で死ぬのだからいいやと思って泣くことはしませんでした。きっと誰かに撃たれて、お金をたくさん奪われたのだろうなと思いました。
地面に向かってダイビングしてみました。 きっと痛かったんだろうな。 左手は神様からもらったプレゼントをしっかり握っていたのかな? ぼくは逃げたかな?
-もう、僕を許してくれますか?- そんな手紙の書出しだった。 春の暖かい陽気にもすっかり慣れて、そろそろ入梅か? そんな時に届いた一通の手紙・・・。
長いようで短い彼との付き合い・・・。 -きっと忘れない、でも戻れない- そんな想いを胸に別れを切り出したのは私だった。 彼の動揺を隠し切れない微妙な表情を忘れることはできない。 「もう終わりにしよう・・・」 精一杯の言葉だった。必要な言葉はそれだけだったように思えた。 二人の間には涙ということでしか表現できない感情が取り巻いていた。
あれから二度目の春を迎えた。もう、忘れた・・・というのは嘘にしか思えない。 「・・・元気にしてますか?」 二言目にはもう、二人の思い出が甦って、自然に涙が頬を伝っていた。
-きっと忘れない、でも戻れない- 雨が道を濡らし、歩いていく人たちの足を止める。 思い出が心を濡らし、過去の私をもう一度プラスの方向に向けてくれる気がしていた。
いつからか煙草が手放せなくなってしまった。 18歳から吸い始めた・・・(?)・・・何が悪い? 途中で止めたりしていたが、どうもダメになってしまう。 吸っちゃいます。
銘柄も初めは別に気にせず吸っていたけど、今は 「KOOL」(mildね) Kiss Only One Lady の頭文字をとってこの名前が付いたらしい。
僕にとっての煙草ってのは・・・もう切り離せないけど・・・ きっと暇つぶしの為の様な気がしてならない。 だからって簡単に手放すことできたなら、もうとっくにしてますよ!
Kiss Only One Lady 浮気はしないよ!もちろん君だけ。 吸い続けます。
・・・すっかり春と言っていいんだろう。 朝寒くて起きることもなくなった。コタツを点けたまま寝ることもなくなった。 暖かくなった証拠なのだろう。 もう一つ変わった・・・。隣にいるハズのいつも隣で寝ているハズの赤畑志紀がいなかった。何度呼んでも何処にもいなかった。二人で迎えるハズの2度目の春が別れという形で訪れようなんて考えもしなかった。桜を見に行こうと約束した翌日のことだった。
約束の時間になっても来ない。昨日サークルの飲み会だと言っていたので、もしかしたら二日酔いでまだベッドの上なのかもしれない。いや・・・もしかして他の男と・・・よぎらない訳ではなかったけど、敢えてそう言うことは考えないようにした。しかし、今になってみるとその考えはあながち間違ってはいなかったのかもしれない。約束の時間を30分過ぎた頃、ようやく着信音が鳴った。さっきから気になって何度も携帯の待ち受け画面を眺めては、メールの問い合わせなどして待っていた。携帯に弄ばれている様に感じた。しかし、現実とはいつも残酷だ。 題名は無題のままだった。いつもなら何かしら題名も入れてくるのに今日は無題のままだった。急いで打ったのかと思い本文に目をやる。 「ごめんなさい。もう会えない。」 冷たく、そして機械的な文章だった。画面に映る文字は感情さえ届けてくれない。ただ事実を、冷酷さを伝えてくれるだけだった。
気候はどんどん暖かくなっていく。ぬくもりはどんどん消えていく。一人の夜が多くなった。後ろを振り返ることが多くなった。 −何もしてやれなかったな− 心残りだった。 2年という長い付き合いの中で居心地のいい場所でずっと安心していた。志紀がいたから志紀だからここまで二人でやってこれたんだ。涙は出せない。今泣いてしまうと心の中でせき止めているモノが全て溢れてしまって、いつ泣きやむか分からない。誰の為に流す涙かも分からない。もし自分の為に流す涙ならばここで死んでしまった方がまだましだ。自分に同情するのは一番やってはいけないから。
何の連絡も来なくなった。当然だが、その事実が二人の関係が終わったと言うことを如実に表した。訪れる者のいないこの部屋を一人で生きていくにはあまりにも広すぎる。洗面所の歯ブラシも洗い桶の箸もまだ二本ずつ置いてある。律儀に志紀と書いてある。必要ないと一度は捨ててしまおうかと思ったが、いつでも帰って来てもいいように、そのまま置いておくコトにした。ある種の願いだった。希望だった。僕には待つことしかできないから・・・。今の事実を受け入れる程、賢くはない。想いがそこに残っている。
「出会いは偶然、別れは必然」と誰かが言っていた。確かに結婚してもいつかはどちらかが先に死んでしまう。別れはしかるべきモノだ。でもそんなコトを思いながら付き合うのは間違っている。それを気付かせてくれたのが志紀だった。真正面から僕のことを見てくれるのは志紀しかいなかった。志紀が初めてだった。愛とか恋とか信じていなかった自分が志紀にはそれを素直に伝えることが出来た。唯一の存在だった。大事なモノは失ってから気付く。・・・が遅い、遅すぎる。そんなことは分かっていた。どうすることも出来ない。僕は手紙を、手紙に想いを、願いを込めて書くことにした。拙い文章を。
赤畑志紀様 「志紀を失ってから日にちが過ぎた。一人になるときに隣にいない淋しさを感じる。志紀の存在が大きかった。時間を戻せるとしたら、少し針を逆に回しにできたらと、願ってみるモノの余計淋しさがこみ上げ来てしまう。何もしてやれないけど戻ってきてくれないか?志紀だけは失いたくない。気付いたんだ、大切さに、重要さに。もう一度二人でやっていこう。戻ってきてくれ。まだ志紀のことを大切に想っているから。 時田基弘」 二百字にも満たない拙い文章を志紀に伝えたかった。ただそれだけだった。返事など期待していない。想いをここでちゃんと伝えることさえできればいーんじゃないかって。自己満足で構わない。・・・ペンを握っていた右手が汗でべっとりとしていた。
二週間ほど経った。手紙を出してから。届いたのかも、読んだのかも分からない。窓を開けた。春の匂いがした。厳しい冬を越え柔らかな風を運んでくれる。桜はもう散ってしまって葉桜になってしまった。代わりに地面に桜が綺麗に咲いている。また来年美しい花を咲かせるための準備に入ったんだ。 僕もそろそろ新しい道を歩んでいくのが良いのかもしれない。新しい花を咲かせるために、前を向くしかない。 −前を向くんだ− 桜は無言で僕の背中を押した。全てを洗い流すのではなくて、今まで目を逸らしてきた自分と向き合ってサヨナラを言うんだ。ラジオからBUMP OF CHICKENの「ロストマン」が流れていた。 ”強く手を振って君の背中にサヨナラを叫んだよ”
それから何日か経った後ポストを見たら合鍵が落とされていた。取り出して手の上に乗せてみた。思い出が詰まったオモミがあった。目をつむってゆっくりなぞってみた・・・。想いは想いと交差しいつしか一つになった。そしていつか元に戻ってしまった。二人で過ごした長い年月がこの鍵の錆が証明してくれていた。それと同じくらいの思い出を頭の中で反芻した。戻って来てくれないという事実をまだ受け止めたくはなくて、まだ拒否していた。 「元気かな?」誰もいない部屋で君に言ってみる。笑顔の志紀が後ろにいる気がして振り返ったけどいるはずもない。 「愛していた」という想い出をゆっくり胸に落とした。それから静かに涙を流した。本当のサヨナラするための涙を。そしてようやく前に進めそうな気がした。
君のいない部屋に少し慣れてきた。もう朝も迷うこともない。窓を開けて空気を吸ってから一日を始める。 「よし!」と言って靴を履いて春の日差しの下へ飛び出した。
なくしちゃいけないモノがあるだろ。 それを掴んで離すな! それだけだ。
落としてきたモノは振り返って拾おうとするな! おまえは前を向いて強くなるためにまた、前を向くんだ。 必要なのは、勇気と少しの希望だ。
悪というはっきりしたモノが今回はぼんやりしたまま終わって勝った気でいる。 僕たちは正義のヒーローでもないし、勝利者でもない。 被害者でも、加害者でもない。 ただの傍観者。金だけを与えて、ぼーとしている。ただのたちの悪い集団だ。
遠い国で戦争が起きました。 はっきりとしないまま終わりそうです。 勝った気でいるのは誰でしょうか? 気持ちの悪さだけ残った、何とも後味の悪い戦争だったように思います。
俺はそこに立ち止まった。 ただそこに。興味が立ち止まらせた。 意志よりも確かな興味だった。 そいつが俺を立ち止まらせた。 誰かに笑われようが、俺はそこに立ち止まって、凝視したんだ。 じっくりと。
他人は関係ない全ては俺の意志で、興味なんだ。 何も感じることの出来ないオマエラよりましだ! おれが凄いんじゃない。 オマエラがダメすぎなんだ。 俺はそこに立ち止まっていた。ずっと。 興味がずっとそこに立たせた。 立ち止まったのは俺だ。
月曜日から土曜日まで6つのストーリーを書いてみた。 それぞれ違うようでどこか交差している様にも思える。 人それぞれ曜日に感じることは違うだろうけど、僕なりに書いてみた。
だから、日曜日はあなたのストーリーを作ってみて下さい。 好きなように過ごして、感じてみたことを文章にしてもイイのではないでしょうか?きっと新しい発見があるはずです。
来週も貴方にとって素晴らしくあることを願っています。
by not ready
目覚めは思ったよりも早かった。小学生の頃を思い出す。 土曜の朝は何も用事はないのに、何故か早く起きてしまう。親たちはまだ寝ているのに自分だけが朝を支配しているように思える優越感に浸っていた。 そして今日と明日の休みをどうするか考えるだけでワクワクしていた。 と、言っても子供の頃と違ってそこまで早く起きたわけではない。いつもより3時間の寝坊だ。朝の10時、カーテンの隙間から光が漏れている。外はイイ天気に違いない。近くにある公園から子供の声がする。笑い声がココまで聞こえてくる。親子でキャッチボールでも楽しんでいるのだろう。 私にはない世界だ。羨ましむこともなく、自己弁護するわけでもなく、ただ、私にとっては今は、感じることの出来ない世界なのだ。・・・今は。
今でも本棚の上に飾ってある写真がある。普通の写真だ。犬の形をした写真立ての中に笑顔で男女が寄り添って写っている写真。・・・5年前の。 社会人になってすぐに同棲を始めた。ある女性と。上手くいっていた。ものすごく。一緒に暮らしてから2年目の夏に子供が出来た。彼女は嬉しそうに僕に言った。彼女も、当然僕も産むことを望んだ。本当に幸せだった。これからの家族の為に色んなモノを用意して待っていた。週末になるとベビー用品売場に何か買いに行くことが習慣となった。その時間が凄く嬉しくて、幸せだった。自分もようやく一人の大人になれるのではないかと思った。 しかし、神はそんな2人に微笑んではくれなかった。私は1度に2人の大事な命を失ってしまった。私だけがこの世の中に生き残ってしまった。世界で何よりも大切な二人を神は私から離した。恨んだ、自分の運命を、憎んだ、神を。 −あれから5年の月日が流れた−
誰よりも愛していた二人を失った傷は未だ癒えてない。寂しい独り言が部屋に積もった。時々窓を開けなければ積もってしまって開かなくなる。悲しみと共に外に出さないと涙が溢れて仕方なくなってしまう。その前に窓を開ける必要がある。土曜日に開けるのは気が重い。楽しそうな声が聞こえてしまうから。
5年前から一歩でも前に進んでいるのだろうか? あの日から立ち止まったままだ。沸き起こる感情を一つ一つ処理するための時間を独りで過ごしてきた。 −もう少し前へ行ってみようか− 開け放った窓の外には雲がいくつか並んでいた。土曜日の親子を象徴するように楽しそうに泳いでいる。穏やかに。 −もう少し前へ−
金曜日は何処にも寄らないで家に帰ってゆっくりしたい。しかし理想と現実は上手くは重なってはくれない。それが金曜日の宿命でもある。
仕事を終えデスクを立つと上司が手で形作ったグラスを口に持っていく仕草を二回繰り返す。『飲みに行くぞ!』の合図。金曜日になるとデスクを立つのが嫌になってしまう。毎週、今日こそは誘いは無いように!と願ってから席を立つのだが、いつも引っ掛かってしまう。今日もデスクを立つと当然の様に上司の姿が・・・。 飲みたくもないアルコールを飲まされ店をハシゴする。結局帰る頃には終電がなくなって酔いも醒める様な寒さの中でタクシーを待つ。金曜日はこんな人間ばかりだ。寒さの中で人生の苛立ちをおぼえる。 自宅まで1時間弱、タクシーの運転手はさほどおしゃべり好きではないようだ。 徐々にスピードを上げていく。しかし、運転が荒い訳でもなく、むしろ後部座席に座る自分への子守歌代わりの緩やかな揺れを感じさせてくれた。その誘いにつられてしまう。街灯の光がだんだん薄くなっていく。瞼は重力に耐えきれなくなっている。−いつの間にか夢の中へ連れていかれた様だ−
目を覚ました時にはもう朝だった。しかも自分のベッドの上で。タクシーに乗っていたハズの自分が??? テーブルに目をやると置き手紙があった。 ”お疲れのようですね。今日はゆっくり休んで下さいね。さすがに少し重かったです。熟睡されていたようなので、背広のポケットから鍵をお借りしました。ここに置いておきます。お代の方は今度私の後部座席に乗ったときにまとめてお願いします。次回は寝ないように!親切なドライバーばかりではないですから。それでは失礼します。ドライバー倉橋。”
ビックリした、本当に鍵は置いてあった。−参ったな− これで金曜日の上司からの誘いはますます断れなくなりそうだ。 来週は私からグラスを手に持つ仕草をしてみよう。
窓を開けると爽やかな風が吹き込んできた。クラクションの音が2回鳴り響いた。心地よい目覚めだった。
3限の授業をさぼった。 照りつける日差しの下、スーツを着たサラリーマンは汗を拭きながら信号が青になるのをただひたすら待っている。少し苛立っている様子にも見える。
目の前にあるアイスを幸せそうに食べている彼女はさっきから『幸せ』を連発している。クーラーの効いた店の中でキャラメルマキアートを飲みながら、外の暑さに嫌気を感じていた。汗だくのサラリーマンを哀れと見下し、午後1時のティータイムを過ごしている木曜日。
週の真ん中辺りにはいつもこうやってティータイムを過ごす。それが木曜日と相場は決まっている。水曜日までのやる気のなさと、金曜日からの忙しさを溶かしてくれるのが木曜日だから。こんな午後のゆっくりとした時間を最高に至福の時間と思い、神に感謝している。
目の前には幸せそうな彼女もいるし。世界の中で特別な時間を過ごしているのが自分たちだけのような気がする。外とは別の世界でゆっくりと時間を過ごしていることがどれだけ幸せなコトと僕たちは笑顔で証明してみる。
食べ終わった彼女は『あー週末は忙しい・・・』と窓の外をぼんやり見つめている。疲れたような、どこか幸せそうな顔をして。
また木曜日にココに来ようと約束してから、照りつける暑さの下、外に飛び出した。点滅している青信号を走って渡りきった。
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