「りりかがいなくなってしまいそうで、不安」
栄から言われた。
しかも、仕事中に。
暇なアイドルの時間。
いつもならお互いに仕事に没頭しているんだけど。
栄が手を止めて、事務仕事をしている私にそう言って来た。
「仕事中だよ」
「分かってる。ごめん」
「なら、仕事に戻りなさい」
「はい・・・」
冷静に言ったけど。
すごくドキドキしてた。
心臓が止まるかと思うくらいに。
私のほうが上がる時間が早かったから。
逃げるように帰って来てしまった。
こんな避けてるばかりじゃ、話なんか出来っこないのに。
ハルには夜の電話で。
「例の人には、話したの?」と聞かれ。
「まだ・・・言えてない」
「そっか。今二股状態って事だね」
「・・・二股」
「別に責めてないから」
声のトーンが、充分責めてるってば。
「明日、仕事が終わった後。時間を作ってください」
栄にメールをした。
「分かりました」
敬語で返ってきた。
今度幸せだと思ったら。
大事にするって決めたのは、私。
ハルが不安にならないように。
大好きだって事を、いっぱい伝えなきゃ、と思ったのも、私。
ちゃんとしなきゃ。
2005年06月12日(日) |
土曜日後半と日曜日。 |
下で待っていたハルと部屋に入り。
ご飯を食べて、飲んで。
最初はお互いに何となくぎこちなかったけど。
ハルは私の頭を撫でてきた。
私はハルに寄り掛かったりした。
「こんなのも、久しぶりだね」
なんてハルが言い。
私も頷く。
色々な話を、聞いた。
こんな事があったよ、とか、従姉妹の子が結婚するんだよ、とか。
たくさん話して。
いっぱいくっついて。
手を繋いだまま寝た。
日曜日は、実家から帰ってきた子供たちを駅まで迎えに行き。
子供たちはハルを見て。
「やっぱり仲直りしたんだー」
と言った。
ハルへの誕生日プレゼントで、子供たちは勝手にハルの家に送ろうと思っていたと言って、用意していた物を渡した。
下二人はマッサージ券で、お姉ちゃんはバスタオル。
ハルはすごく嬉しそうに。
「マジでありがとねー」と言う。
5人で買い物へ行って、ハルから子供たちへのお返しで、ゲームのソフトを買った。
みんなで出来る人生ゲーム。
夕飯の材料も買い。
私が夕飯を作っている間、4人はゲームをしてて。
ホント、いつも通りだなぁって思う。
これで良かったんだろうなぁって。
ハルも子供たちも笑っているし。
私も、楽しいし。
帰り道に電話をかけてくるのも。
家についたよ、ってまずメールが来るのも。
そして眠る前に電話が来るのも。
いつもと一緒だ。
戻っただけだ。
栄のことさえ、除けば。
なんてラブラブっぽいことを昨日の日記には、書いたけど。
実際、問題は山積みなわけで。
子供たちやお互いの親に別れたことを言ってしまったわけだし。
栄の事もそう。
さぁ、どうしよう。
今日は子供たちが実家へ行っている。
仕事が終わった後、栄と会って話そう、と思っていた。
でも、ハルから「今から行くね」と言う電話。
とにかく。
ハルが来る前に栄にだけでも話そう、と思い。
電話してみたら「一人突発(急に休むこと)で残業中」って言われ。
なんてタイミングが悪い・・・と思っていた。
ハルが「あと10分くらいでつくよ」と電話をしてきて。
うちに飲み物とかないから近所のコンビニへ買いに。
コンビニの帰り道、仕事帰りの栄とばったり。
「やっと終わったんだよ。こんなところで会えるなんて偶然だー」って純粋に喜ぶ栄を見ていたら。
こんな時間がない中で言えない・・・と思う。
そしてハルから着信。
「ついたけど、どこにいるの?」
「コンビニ・・・」
「あ、俺も今行くよ」
「買う物あるなら、私が買って行くから」
「じゃー、適当になんか食い物」
「分かった。ちょっと待ってて」
「早くねー」
電話を切ると栄が。
「誰か来るの?」
と聞いてきた。
「うん、あの、うん・・・」
完全にパニックになっていた私は、どもりっぱなし。
「じゃぁ、早く帰らなきゃね。呼び止めてごめん」
「あ、うん」
「おやすみ」
「あのさ、今度時間作って。話したいから」
「良い話?悪い話なら、時間なんか作らないけど?」
「・・・」
「待ってるんでしょ?早く行きなよ。おやすみ」
栄は勘のいい人だから。
何か勘付いただろうと思う。
その証拠に、その後メールは来なかった。
「電話してもいい?」とか言うメールもなく。
今日は突然かかって来た。
ずいぶん、酔っ払っているときのハルだ。
声で分かる。
そして、いつもみたいに愚痴を言い出す。
これも、いつも通りだ。
私も、いつも通り「うんうん」って聞くだけ。
一通り話し終わった後。
「吐き出せる場所が、ない」
小さい声で、ハルはそう言った。
私は、胸が縮むみたいな、なんだか変な感じになった。
私でよかったら、聞くよ。
いいよ、吐き出しても。
何度も「ごめん」って言われる。
何度も「ホントに、ごめん」って言われる。
「やり直そう」
そう言ったのは、私。
ハルは「だめだよ。りりかのこと、今一生懸命考えてくれる人いるじゃん」と言った。
「そうだね、でも。やり直そう、一から」
長い間お互い黙って。
そして先に口を開いたのは、ハル。
「結婚とか、そういう事は、考えてあげられないよ?」
思わず噴出しちゃった。
「それでいいよ」
「何で笑うんだよ」
「だってさぁ・・・」
「りりか」
「何?」
「愛してる」
うん、知ってるよ。ずっと前から。
半休の今日は。
真っ直ぐ帰ってきて、あとはだらだら。
久しぶりに昼寝もしちゃった。
夕方。
帰宅した栄と会った。
どうでもいい話をしながらのドライブ。
自然に過ぎていく時間が、すごく楽しいと思える。
「りりか。大好きだよ」
耳まで真っ赤にして、そんなことを言う。
私は「何か照れるね」とか言いながら曖昧に笑うだけ。
私たちは、何もない。
キスもセックスも。
手は、引っ張られる形になって、そのまま繋いでいたことはある。
でも、その時一回きり。
私から、好きとか言う言葉を出したこともない。
「りりかがいいよって言うまで、色々と我慢する」
「色々と?」
「うん、色々と(笑)」
その「色々」をしてしまったら、どうなるのかなぁと思う。
30代の大人同士だし、当たり前の事かもしれないんだけど。
今のままでいいかな。
夜、ハルから。
「今から電話してもいい?」
とメールが来た。
「ごめん。出来ないよ」
と返した。
それから返事は来なかった。
こうやって、ちょっとずつ、距離を置いて行かなきゃならない。
私とハルは、もう交わる事はないのだから。
そう思ってた。
「昨日はごめんね」
ハルからの朝一のメール。
「何がごめんねなの?」
「バカみたいなわがままを言ったから」
「酔っ払っているときのあなたは、いつもそうね(笑)お誕生日おめでとう」
「ありがと」
誕生日、おめでとう。
出会ったときは22歳だったね。
それが今日で26歳だよ。
22歳から26歳までの間、私と付き合ってたせいで、無駄になっちゃったかな?
貴重な時間だったのに。
ごめんね。
本当に、ごめんなさい。
今度はちゃんと。
好きになった人に、好きだって気持ちを伝えたい。
いつも、好きだって分かってて欲しい。
ハルが、私にそうしてくれたように。
私は一度だって「私の事、本当に好きなのかな?」なんて不安を感じることなんかなかった。
それって、すごい事だよね。
いつだってハルが支えてくれる、そばにいてくれるって安心があった。
それも、すごい事。
私も、同じようにしたい。
同じように、誰かを一生懸命愛して、安心させて、あげたい。
それを教えてくれたハルに、そう出来なかったのは、後悔してる。
でも、それ以外のことで。
私とハルのことで。
私は、後悔なんか一個もない。
あなたと出会えてよかった。
やっぱり、あなたは。
私の中で、ずーっと特別だよ。
二日振りなのに、こんなに久しぶりに感じるのは。
きっと、昨日一日ぼんやりと過ごしていたから。
時間の流れが、きっと遅かったせいだね。
仕事の帰り道、たくさん咲いてた。
これって夕顔だっけ?
多分・・・。
りりかも一応女性なんだから、そう言うの知ってなきゃ。
・・・それって偏見じゃないの?しかも、一応って何なの?
(笑)
やっぱり。
夜ハルから電話が来た。
明日はハルの誕生日。
「おめでとう」
「明日言ってよ」
「明日は遅くまで勤務だから、メールでね」
「ちゃんと。声で聞きたい。電話でいいから」
「どうして?私たち別れたのに」
「友達だって、そう言ってもおかしくないじゃん」
「・・・なら出来たら」
「あとプレゼント」
「何が欲しいの?」
「今度休みが取れたら、りりかも休みだったら、一日ちょうだい」
「だから、どうして?」
「友達だから?」
「おかしいってば」
酔っ払っているハルは。
「全然おかしくない」
って言い張った。
「誕生日くらい、わがまま言ってもいいじゃん」
とか。
私は。
「考えておく」
と言って、電話を切った。
それから30分位してハルからまた着信があったけど、出なかった。
どうして?
無理だって言ったのは、あなただよ?
あなたは、どうしたいの?
ハルが帰ったのは、朝。
私は、具合も良くなって、仕事へ行こうと電話をした。
でも、今日はもう休んで、と言われて家でおとなしく。
夕方、仕事が終わったハルから電話が来た。
いつも通りだった。
私は、その「いつも通り」がやっぱりおかしいと思った。
だから。
「早く、何でも話せる彼女を探さなきゃね。そのためにも、別れた彼女になんか電話している暇があったら、出掛けなきゃ」と言った。
ハルは無言になって。
しばらく黙ってから。
「りりかといるとなんであんなに落ち着くんだろう」
と言った。
一緒に寝なくても。
手を繋がないでも。
抱き締め合わなくても。
一緒にいるんだって言うだけで。
「私は、栄に惹かれてる」
「嘘だね」
「ホントに」
「嘘だよ」
嘘じゃない。
本当の話。
ハルは夕方前にやって来て。
病院へ行こうと言ってくれたけど。
私も昨日よりぜんぜん具合が良かったし。
大丈夫だから、と言い張り。
なら、家でゆっくりしようと言うことになった。
私が具合が悪かったから。
子供たちは朝から元旦那が遊びに連れて行った。
明日の学校前に送って来てくれると言ってた。
だから子供たちはハルが来ていることは知らないまま。
ハルが夕飯を買ってきてくれて。
一緒に食べたりして。
テレビ見たり、ビデオ見たりして、過ごした。
夜8時くらいに。
栄から電話が来て。
「夕飯食べたの?何か買って下まで持って行こうか?」
なんて内容で。
ハルが来ている、とは言えず。
「大丈夫だよ」とだけ返す。
「明日は俺が出るから、あなた休みなよ」
「え!大丈夫だよ、出るよ!」
だって栄は私の代わりに明日出ちゃったら、休みがなくなっちゃう。
それでも栄は「大丈夫だよー」を連発した。
結局押される形になって、お願いして、明日は急遽休みに。
隣で電話を聞いていたハルが。
「結構、いいやつだったんだね。そういう人がいるって言うのは、ちょっと安心」
って言った。
私が黙っていたら。
「きっとりりかも好きになるよ。てか、もう好きになっているんじゃない?」
なんて言う。
「どうなのかなぁ。でも、すごく優しい人だよ」
って返した。
咳をすれば背中をさすってくれるし。
「ちょっと熱いなぁ」と言いながら、熱冷シートを貼ってくれるし。
うとうとし出すと、頭を撫でながら背中をさすってくれるし。
いつも通りで。
いつもと一緒なんだけど。
なんだか。
しっくり来なかった。
来る前までは、あんなに嬉しかったのに。
念願の、大好きな人が一緒にいるって言う状態なのに。
会ってみたら、変な溝があるって事が、分かっちゃった。
もう、前みたいには、なれないんだなぁって。
分かっちゃった。
だから。
わざわざ私のベッドの下にハル用の布団を敷いて。
ハルも何も言わず、そこに寝て。
手を繋いで寝るとか、そう言うのもなくなって。
だから。
夜遅くに、ハルのお父さんから。
「明日昼過ぎから仕事」って言う電話が来て、朝帰らなきゃいけないってなった時。
正直ホッとした。
何でホッとしたのかって聞かれたら、うまく言えないんだけど。
明け方。
一人で起きてた。
なんとなく、ハルの寝顔を見てた。
なんとなく、悲しかった。
朝から喉は痛かったんだけども。
勤務終了まであと1時間くらいのところで、声が出なくなった。
小さい声なら辛うじて出るんだけど。
そんなこんなで、帰ってきたらライラに。
「ママの声、お相撲さんみたい」
って言われた・・・。
布団の○八か?(古い上に微妙に伏字になってないし)
ハルとメールのやり取りをしていたら。
いきなり電話がかかってきた。
メール打ち込んでいる途中だったって言うのに。
「何その声!?聞き取りづらいし(笑)」
爆笑されちゃったよ・・・
「明日見舞いに行くよ。月曜仕事が遅いから」
「・・・え?」
「どうせ病院も行ってないだろうし、行く気もないだろ?明日やってるところある?」
「分からない」
「そっち行ってから探すわ。今日は寝なさい」
「大丈夫だけど・・・?」
「うるさいなぁ。大丈夫じゃないじゃん」
「いや、ホントに」
「具合悪いときは甘えなさい」
えぇぇーーっと・・・。
え?
えええ?
どゆこと?
つい先日「もう助けてあげられないんだよ」なんて言ってなかったっけ?
「無理だよ?」なんて言われたよね、私。
とにかく。
明日ハルが来るそうです。
そして。
すごく嬉しい気持ちでいる私がいました。
でも。
少し焦っている私もいたりしました。
今日は他店だけど、長年働いていた何気に仲良くしてたバイトさんの送別会。
さっきから何度もメールが来てる。
「マジで来ないんですか?」
とか。
栄からも電話が一度来た。
「来れないの?足ないならタクシーで迎えに行こうか?」
「そうじゃなくて、明日も早いから」
「そっか。無理しちゃまずいしね」
今日は早朝から勤務で、夕方6時には帰宅したけど。
なぁんだか。
出かける気力とかない。
みんなでわいわい騒いでーなんて気分じゃない。
一昨年買った、ハルとお揃いのマフラーが、冬物をしまっていたら出てきた。
去年の冬は一度もしなかった。
すっかり、忘れてた。
バーゲンで安かったんだけど、ハルと一緒に指輪を選んでいるときに見つけて。
私が買ってあげる!って言って買って。
そのマフラーをしたまま、昭和記念公園のイルミネーションを見に行った。
すっかり、忘れてた。
あの時すごく気に入って、白だから!って汚さないように気をつけてたのに。
気に入ってたから、冬物の奥深くにしまっちゃったんだった。
自業自得なのに、こうやって大事なものを忘れちゃっていた事は、悲しい。
マフラーは、来年またすることが出来るけど。
もう、手に入らない大事なものだって、たくさんある。
幸せが消えてしまうのが、怖かったのは、私。
消えてしまう前に、消したくなったのも、私。
今度、幸せだと思える事が見つかったら。
手放さないで、仕舞い込まないで、忘れないで。
ちゃんと傍に置いておこう。
大事に、しよう。
やっぱり、あなたじゃなきゃだめなんだと思ったりするよ。
私がさっきそう言った時、あなたは。
「無理だよ」
って、言ったね。
何度も、私も言ってたくせに。
いろんな場所で、いろんな時に。
「無理だよ」
なんて、簡単に口に出してた。
なのに、実際に言われる立場になると、悲しいね。
言われて初めて気付いたよ。
「俺ら友達だろ?友達は、別れるとかないんだよ」ってフォローしてくれたね。
「明日も早朝出勤だろ?早く寝なね。明日も頑張ろ」
切る間際にそう言ってくれるのは、いつもと一緒だね。
「今度休みが取れて、りりかの休みと重なったら、友達として温泉にでも行くか」
今来たメール。
「楽しみにしてます」
って返したけど。
行かないだろうな、きっと。
電話やメールでは普通にしていられても。
実際に会うことになったら、躊躇するだろう。
恋人から友達なんて、簡単に戻れるものじゃない。
本当に、大好きな人だから、なおさら。
それこそ、無理なんだよ。
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