二人して休みなんて言うレアな日を活用しなきゃじゃん。
栄はそう言った。
朝は小雨が降っていたのに、午後はこんなに良いお天気だった。
あちこち走って、たまに車を停めて食事したり、コンビニへ行ったり。
栄は散々引き止められながらも、6月いっぱいで辞める事になった。
みんなに好かれていた栄だから、送別会は盛大になるんだろうな。
元奥さんに「幸せそうだけど彼女でも出来たの?」と言われたらしい。
「大好きな人なら出来た」と言ったら「今度こそ大事にしなきゃね」と言われた、なんて笑う。
「あなたに好きになってもらえるような人間じゃないよ、私」
「それは俺に対して失礼だよ」
「何で?」
「どうしようもない人間を好きになった俺もどうしようもないって事じゃん」
何度も間違えそうになる。
今隣にいるのが、ハルだって錯覚しそうになる。
名前まで、間違えそうになる。
最悪、最低だ。
優しい人に寄りかかりたくなるのは、仕方ないこと。
しかも疲れているときにそばにいたら。
しかも寄りかかって欲しいなんて言われたら。
絶対に寄りかかりたくなる。
でもそれって最終的には、その優しい人を傷つける。
だって、利用しているだけなんだから。
分かっているくせに、ね。
夕方。
「これから帰ります。りりかはまだ出かけてるの?子供たちは一緒なの?」
と言うメールが来た。
夜になってから、電話が来た。
「無事に着いたよ。高速混んでなかったから助かった」
「良かったね」
「りりかが会ってくれなかったことで、何か踏ん切りみたいのついたよ。うざいことして、ごめん」
「うざくなんかないよ。私も、ごめんなさい」
たくさん、話した。
2時間くらい。
いつもみたいに。
何も変わらず。
不意にハルが。
「恋人には戻れないけど。友達には、戻れるかな」
なんて言った。
私も「うん」って言った。
ハルのことが、すごく好き。
でも、私は今までされて嫌だったくせに、ハルを非難した。
ハルも侮辱した。
あの時の私たちは、どうかしてたんだろう。
だめだと思いつつも、お互いに罵倒しか、出来なかった。
そして、疲れて。
どんどん、すれ違って行って。
それでも何とか繋がっていようと、必死になって。
聞かなかった振り、言わなかった振りを、少しの間続けた。
だけど、別れるとかそういう話が出たあの日。
私がまだハルの所へ行くのはまだちょっと・・・と言った日。
また、ぶり返した。
きっとね。
聞かなかった振り、言わなかった振りをしてもね。
また喧嘩とかなんかあった時に、ぶり返して。
その度にどんどん傷つけていくんだよ。
傷は深く、大きくなっていくの。
だけど、繋がっていたいのはお互いの本音。
だから、友達なんて言う、曖昧な線引きで一緒にいることになる。
「りりかちゃんとハルちゃんは友達にはなれないよ。愛し過ぎたよ、お互いに」
ひなが、そう言った。
私は「なれなくてもいい、そういう意味のある関係でいると言うだけで」
と言った。
次女とライラの小学校の運動会。
暑くもなく、寒くもなく、本当に良い運動会だった。
次女は小学校最後の運動会と言うことで、ずいぶん張り切っていたし。
元旦那も一緒に観戦して、お弁当を5人で食べて。
夕方、実家へ泊まりに。
妹と赤ちゃんも来て、みんなでスーパー銭湯へ行った帰り道。
ハルから電話が来た。
「今、東京に向かってる」
色々なことを考えた。
会いたいか、会いたくないかと聞かれたら。
絶対に会いたいに決まってる。
このまま自宅へ戻るか。
ハルが来る前には着くんだし。
会いたい。
会いたい。
「私は、外だから。会うのは無理だよ」
気持ちとは逆な言葉が出る。
実家だと言えば、ハルは来てしまうだろう。
だから、あえて「外」と言った。
実家について、変なテンションで妹と話して。
子供たちと大笑いして。
運動会のビデオを見て。
楽しい時間なのに。
時計ばかり気にしてる。
「もう、着いた頃だな」
たぶん、友達の家へ行っただろうと思う。
「会いたい」
夜中に一言だけメールが来た。
返さなかった。
私たちは、今更会ったって、傷つけあうだけなんだよ。
元に戻れない事だって、あるんだよ。
私たちは、言ってはいけない言葉を、お互いにたくさん言ってしまったから。
手を繋ぐ。
抱きしめ合う。
キスをする。
セックスをする。
するなら、誰と?
そんな心理テスト、今はしないで。
答えはきっと。
全部同じ人だから。
笑う。
怒る。
泣く。
喜ぶ。
幸せだと、感じる。
不幸だと、感じる。
私の中の色々な感情が。
今はちょっとだけ、ストップ中。
淡々と過ぎていく毎日。
「別れたなんて信じられなくて、たまに、あれ?今までのは夢?なんて感じちゃうことが、あるんだ。夢だったらいいのになぁ(笑)」
今日の「独り言」は、こんな内容。
お願いだから、私の気持ちを揺らさないで。
りりか。りりか。
ほら、こっちだよ。
気付くと、いっつもぼんやりしてるんだから。
危なっかしいな。
そりゃ、ぼんやりもするよ。
すごいんだもん。
「ずっと向こうが葛西の観覧車。で、右側のがお台場」
「あれは新宿周辺」
「そっちが六本木ヒルズ」
六本木ヒルズ。
ずっと前に。
行ったよね。
やっぱりこの時期だったよね。
前より数は減ったけど、毎日ハルとはメールする。
夕方から、頭が痛かった。
「やばい、頭が痛い。風邪かしら?」
そんなメールを夜送った。
「俺は、もうりりかの力にはなれないんだよ。精神的に楽にしてあげたり、治してあげることは、出来ないんだよ」
「分かってます(笑)」
(笑)なんて打ったけど。
正直、ショックだった。
勝手な人間だわ、私は。
痛み止めを飲んで、寝た。
「本当は今すぐにでも会いに行って、大丈夫だよー、って言ってあげたいんだけどね。したいことが出来ないって、辛いね。りりかの事を、いつだって考えてる。別れたくせにおかしな話なんだけど」
「独り言」
って言う題名のメールが、夜中に来た。
メール着信音で目が覚めた。
返す言葉が、見つからなかった。
もう週も半ばになり。
当たり前だけど、毎日仕事で。
今日は半休だったけど。
帰りは遅かったりすることが多々ある。
これからはもっともっと、増えるかな。
まぁ。
子供たちに、金銭的に苦しい思いをさせたくないし。
仕方ないっちゃ、仕方ない。
ハルからは、一日に数回メールをする。
あ、月曜は少し話もしたっけ。
お金は結局受け取ってもらえず。
定期を解約しちゃったもんだから、普通預金に入れてある。
ハルは「今まで通りお金を渡すから、愛人契約する?(笑)」とか笑えない冗談を言ってくる。
栄とは、職場で毎日会う。
今まで通り会うけど、やっぱり違う。
メールも仕事のこと以外はしなくなったし。
夜会うことも、しなくなったし。
でも、ロッカーには手紙が入ってた。
内容は、よく分からない。
全然不安定じゃない。
寂しいとか、悲しいとか、そういうのも、ない。
何にも縛られず。
自分と子供たちのことだけを考えて、生きていけばいいだけ。
ものすごく、安定してる。
強がりとかじゃなくて、素直な気持ち。
日曜日の朝は、大好きだった。
ハルが隣にいてくれることが、多かったから。
今日は、いない。
夜中に、話をして。
私はもうやり直す気持ちがないことを告げて。
ハルは、友達の家にそのまま行った。
「車は明日の昼間にでも勝手に取りに来るから。顔は出さないよ」
と言い残して。
子供たちを実家に泊めていたから、迎えに行く。
家を出たとき、まだハルの車があった。
まだ、東京にいるんだなぁと思ったら、なんだか嬉しかった。
実家に行く途中で、栄から電話が来た。
「ハル君と、話したの?」
「話したよ」
「うん、それで?」
「別れたよ」
「そうか。うん。これからは、一緒に、ずっといようね」
「・・・ごめんなさい」
昨日、ハルと会ったときから決めてた。
私は、やっぱりハルが好きで。
私の中で、ハルがいつだって基準で。
誰もそれを超えられない。
超えられないって分かっているのに、私は栄と付き合ったり出来る?
栄を好きになったり、出来るの?
結果「出来ない」って言う答えに達した。
「ちゃんと、いつか誰かを好きになったりしたら分からないけど。今は一人でいいかな。他の人を好きになれる気がしなくて」
徐々にでいい、とか。
寂しいのを埋めるためだけでいい、とか。
いっぱい、言ってくれたけど。
やっぱり、無理だよ。
「まだ、何も始まってないじゃん。これからじゃないの?」
「これからの事、今は考えられないの」
「一人で寂しくないの?」
寂しくないよ。
一人じゃないもの。
子供たちだっているし。
好きだって思える人もいるし。
友達も、親も、兄弟も。
何か、ぐちゃぐちゃし過ぎちゃって、疲れちゃった。
後悔するかもしれないし、しないかもしれないし。
それは、まだまだ遠い未来の話だから、考えるのは止めよう。
ハルに返さなきゃいけないお金とか。
うちに置いてあった洋服とか。
そういうの用意して。
「もう出たよ」って言うメールをして来たハルが来るのを待つ。
電話が来て。
「下についたから、降りてきて。出掛けよう」
って言われる。
なぜ?どこへ?と思いながら、慌てて出掛ける。
ハルの車に乗るのは、これで何度目かな。
これが最後かな。
そんなこと、考える。
「どこ行くの?」
「りりかの好きなところ」
「どこ?」
「そのうち分かるよ」
走っている途中で、ハルが連れて行こうとしている場所が分かった。
よく一緒に行った夜景が綺麗な、坂の上の公園。
「どうして?」
「ここで少し話そう」
なんて言って、車を停めているうちに、雨が降り出した。
車を停めた場所から少し歩かなきゃならないし。
公園の中は、雨宿りする場所はない。
「あーあ・・・」
ハルはため息をつく。
結局少し待ってみたけど、雨は止まず。
「ご飯行こうか」
って言うハルの言葉で、再び車は走り出す。
いつもみたいにまず。
「何食いたい?」
とか、聞いてくれる。
「なんでもー」
って言う私の返事も、いつも通り。
「じゃぁ。りりかの好きなパスタで」
とかハルが言うのも。
何してても、いつも通りで。
何も変わらないから、困惑した。
私たちって、今どうなってるんだっけ?なんて。
ご飯を食べて。
うちに一緒に帰ってきた。
ワインをハルが買ってきたから、それを飲みながら話すことに。
色々と話した。
今まで色々とありがとね。
とか。
ちゃんと、ハルの思ったとおりに出来なくてごめんね。
とか。
ハルは。
「謝るのは、俺です」
とか言う。
そして。
「すげー。後悔してる」
とも。
酔って、カチンと来て。
そして「別れよう」と言ってしまった事。
自分のところに呼ぶ事を焦ってしまっていた事。
だから、ごめんなさい。
撤回して欲しい。
今、そう言われても。
私は、もうハルの元には戻れないって思った。
気持ちが、ハルのそばにもうないから。
違う。
あるのかもしれない。
きっと、ある。
でも、栄の事を好きになろうとした。
だから。
「ごめんなさい」
ずっと一緒にいると思ってたなぁ。
ハルとは、なんだかんだで、ずっと死ぬまで一緒だって思ってた。
別れを口に出したのは、ハルだったけど。
気持ちを切り離そうとしたのは、私だった。
ずっと、好きだよ。
ハルが言ってくれたように、私の中でも、あなたは永遠に特別だよ。
夜、うちの下に栄が来て。
20分くらい話す。
「初デートはどこに行きたい?」とか言われて。
私はやっぱり「分からない」って言う。
だって、本当に分からないんだもの。
どこに行きたいとか、誰と一緒にいたいとか。
考えていると、ぐちゃぐちゃになる。
なのに、私は普通に笑っていられる。
普通に「栄が考えておいて」なんて言える。
栄といても、どうしてもハルと比べてしまう。
ハルならこういう時に、こう言うのに、こういう時に、こうしてくれるのに。
悪い事とかは、思い出さない。
良かった事ばっかり、思い出す。
だから、悲しくなって。
何やってるんだか、とか思う。
そんなに急に、誰かを大好きにとかなれないし。
そんなに急に、大好きだった人を忘れることは出来ない。
だから、ゆっくり好きになってくれたらいい。
栄は、そんな風に言う。
ハルから電話が来て。
「別れて数日だけど、何もする気になれなくて。やっぱり、だめなんだなぁ」
なんて言われる。
私は、思わず泣きそうになる。
私だって、何食べても、何聴いても、あなたとの3年半に関連付けてしまっているよ。
なんて事は言えずに。
「でも、いつか風化するよ」
わざと、突き放す事を言ってしまう。
ハルが。
もう、私のことで悩まなくて済むように。
私も。
ハルの事を色々考えなくて済むように。
時間はきっとかかるけど。
いつか、そういう日が来る。
今朝は。
「おはよー」
ってメールが、ハルから来た。
「おはよ。別れたのに変だよね。こういうの」
って返したら、返事がない。
栄からは。
休憩のたびにメールが来る。
「今度休みの昼間、ドライブ行こう」
とか。
「うまいラーメン屋発見したから、行かない?」
とか。
二人きりで出掛けるのは、おかしいって前に言った。
でもその時は、私にはハルがいた。
今は、いない。
だから、行こうって言える。
栄のこと、知らない部分がたくさんある。
いっぱい話しているけど、知らない部分がたくさんある。
知りたい、とはまだ思わない。
でも、徐々に知っていくべきだ、とは思う。
社員会。
なんて言う名前の、結局飲み会じゃん。
ワインをグラスで3杯ほど。
それだけで、酔っ払った。
栄と一緒の帰り道。
「振られたよ」
なんて、酔った勢いで話して。
バカみたい。
私は何を期待していたんだろう。
酔った勢いで、なんて理由付けまでしちゃって。
だって、帰りの電車の中では、酔いは冷めてたはずだもの。
「りりか。俺のことをそういう目で見てくれない?ずっと一緒に俺がいるよ。ずっと、大事にするから。一緒にいよう」
ちょっと混んでいる電車の中で、小さな声で。
こんなふうに、ハルと電車の中で、小さな声で、色々話したことがあったな。
似てる。
栄とハルはなんか似てる。
よく、思うこと。
でも、全然似てない。
背だってね。
栄はハルより20センチ小さい。
私より3センチ、小さい。
それに、ハルよりもずいぶん大人だ。
そりゃ、そうか。
バツ一で、子持ちで、ハルより4つも上なんだから。
黙って、そんなことを考えていたら。
「愛してる」
やっぱり小さい声で。
「今日は、大好き、じゃ無いんだね(笑)酔っ払っちゃってるのね」
「まるきり酔ってないんだよね」
「じゃぁ、どうしちゃったのかしら?」
「本当に、そう思っているから。結婚前提で、付き合って行きたい」
「考えられない」
昨日の今日で、今は実感が無い。
でも、この先絶対に寂しくなる日も来るだろうと思う。
その時に「考えられない」なんて、強気な発言出来るかどうかなんて、分からない。
自信なんか、無い。
メールが来た。
ハルから。
「なー(次女)からメール来たよ。ハル君、土日遊びに来れる?って。俺、土日は無理かもなぁ。ごめんねって返した。言えなかったよ。ママとは別れたんだよ、なんて言えなかった」
このメール見て、別れてから初めて苦しくなった。
夜中。
ハルが寝たと思う時間に返した。
「ごめんね。子供たちには、私から言うから。ホントごめんなさい」
寝たと思ったのに、起きてたらしく。
「りりかが、謝ることじゃないから」
って、すぐに返事が来た。
何か、返そうと思ったんだけど、言葉なんか見つからなくて。
事務的に。
「土曜日ね」
とだけ。
私は、ハルを好きになったみたいに、栄の事を好きになれるのかなんて、自信ないよ。
結局、寂しいからっていう理由で、利用しちゃいそうだよ。
だから、ごめんなさい。
「最初は利用でもいいよ。でも最終的に、俺がいなきゃって思ってくれるようになるのなら。だから、一緒にいようよ」
一緒にいよう。
ハルも何度も言ってくれたのにね。
私は、それを拒んで。
大好きな人にそう言われたって、出来なかったことを。
これから先、他の人で出来るのかなんて、分からないよ。
いつもの夜の電話。
「来月の最初の土日、子供たち連れてきてよ」
「いいけど。どうした?」
「姉夫婦に子供たちをまだ紹介してなかったじゃん。夏からよろしくって事で紹介するんだよ」
「・・・。夏から」
「もう、待てないよ」
「来年の3月とかは無理?」
「一体どれだけ待たせるんだよ」
「・・・」
「・・・もう。別れるか。そうやってどんどん逃げて逃げて。疲れたよ」
私は、しばらく黙った後。
「そうだね」
と言った。
やっぱり。
彼のところに行くのは、不安で不安で。
私の親もやっぱり子供のことを考えた上で反対しているし。
あと二ヶ月くらいで彼のところに引っ越すなんて、考えられなかった。
彼のことは、好き。
大好き。
愛している。
でも、彼のところへ、夏からなんて行けない。
逃げてる?
そうかも。
でも、これで良かったんだと思ってる。
今度の土曜、彼に会って。
今まで預かっていたお金がすごい額になったので、それを返すのと。
ちゃんと会って、今までのお礼を言おうと思ってる。
ホントに、三年半もずっとずっと。
支えてくれた人だった。
大きな人だった。
でも、私はあいつにとって、何も出来ない、変わらない、無駄な時間を過ごさせた女だった。
なのに、あいつは。
「あなたのことは、一生特別で、この先誰かと結婚しても、多分忘れることは無いだろうね」
なんて言ってくれたけど。
私にとっては、絶対に無駄じゃなかった。
色々なことを教わった。
たくさんの物をもらった。
本当に、大事にしてもらった。
だから、ありがとう。
顔見て、言わなきゃね。
今日からEは東海地方に研修へ。
と言っても、明後日には帰って来るみたいだけど。
温泉に行ってきた、とメールが来た。
「露天の夜景がすごかった。りりか、こう言うの好きだよね」
って写真と一緒に。
ホントに綺麗だった。
「すごいね。いつか行って見る」
すかさず。
「誰と?」
「子供たちと」
「そうかぁ。俺とは?」
「行くはず無いじゃん」
「ですよね(汗)」
そのまま返事をしないでしばらくしてから。
「来週の社員会の時、帰りに東京タワーに行かない?」
とかメールが来た。
「意味が分からない。なぜ?」
「一緒に行きたいだけ」
「行かないよ」
「どこへなら、一緒に行こうって思ってくれる?」
「みんなと一緒ならまだしも、Eと二人で行くのは、どこにしてもおかしいでしょ」
うちとEの家は歩いて5分もかからない場所にある。
だからたまに、うちの下で立ち話をする。
最近、一緒に働くって言う事があまり無くなった。
向こうが出張だったり休みだったり、私が連休だったり。
立ち話の内容は、ほとんど仕事のことなんだけど。
それでも「楽しい」とか思ってしまうのは、きっといけないと思う。
だから、二人でどこかに行くなんて、もっともっといけないと思う。
だって、絶対に「楽しい」って思ってしまうから。
思ってしまった後で、ものすごい罪悪感が襲ってくるの、分かっているから。
立ち話をしているのが楽しいって思うこと自体、十分罪悪感があるんだから。
Hといるときに。
Eのことをふと考えてしまうときとか。
Eからメールが来てドキッとしたときとか。
「どうしようもない人間だ」
って、すごく思う。
立ち話をやめたらいい。
たまに職場で会っても、普通に仕事上の会話のみしかしなきゃいい。
メールも仕事のこと以外はしなきゃいい。
「絶対に良くないことだ」と頭では分かっているのに。
違うことを心では思う。
「楽しい」って。
どうしても、思ってしまう。
昨日から、あいつが来てた。
正確には一昨日から。
でも、一昨日は顔だけ出して元バイト仲間と飲みに行ったから、うちには泊まってない。
「りりかさんも一緒に行こうよ」って、あいつと一緒に行く子に言われたけど。
翌日の2日は子供たちが学校だから、やめて置いた。
あいつは明日から仕事で。
今さっき、帰ったところ。
昨日はカラオケに4時間も行って。
今日はボーリングと買い物へ行って。
たくさん5人で遊んできた。
はしゃぎ過ぎて咳き込む私の背中をさすってくれたり。
寝るときに手を握ってくれたり。
帰るときに子供たちから順番に、最後に私の頭を撫でてくれたり。
いつも通り。
あいつは優しい。
私は、何をしているんだ?と思う。
私も、彼の事は大好きだし。
一緒にいると安心するのに。
なのに、何をしているんだ?って。
「大好きで仕方ない。あなたは自分なんかいなくたって、十分幸せなのにね。自分は、あなたがいなくなったら幸せなんかじゃないです。すみません。酔ってるので、聞き流してください」
昨日の深夜、Eからきてたメール。
そうなの。
私は今、十分幸せなの。
なのにね。
だから、何をしてるんだ?って思う。
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