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鈴木君たちのシュールな一日
信井柚木
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2002年09月02日(月)
誤植。

『なにしろ、キミはがんものカタマリだからね』

「・・・はぁ?」
 鈴木から借りた文庫本を読んでいた佐藤は、世界的に有名な名探偵のセリフに目を疑った。
 黒い魔犬の伝説が息づく荒れ野で、探偵と親友の医師とが感動の(?)再会を果たしたシーンである・・・のだが。
「がんも?」
「ああ、誤植だろう。その出版社の同じ版は、どれをみてもそこの部分が同じようになっているぞ」
 疑いの眼差しを向けられた鈴木は、誤解だと言わんばかりの表情で顔をしかめる。
「ああ、そうなのか。悪い悪い。いや、いつものコトがあるからな」
「・・・だからといって、いつものことも俺が仕掛けているわけではないんだぞ」
 鈴木のささやかな苦情を聞き流しながら、
「多分、がんこの間違いだろうな。うん」
 佐藤はサクサク続きを読み進める。
「・・・なんなんだよ」
 が、じーっと自分に注がれ続ける視線に、うっとうしげに目を上げた。
「面白いことを教えてやろ――」
「いらねぇ」
 にべもなく答えを返し、文面に再び目を落とす。
 しかし、鈴木はめげていない。
「その本を一回閉じてだな」
「いらねぇって言ったろうが――人が読んでるものを勝手に閉じるな」
「で、もう一度開くんだ」
「人の話を聞け!」
 お前はいつも勝手に・・・と文句を言ってみるものの、通じるわけはないと経験から把握してはいる。
 把握はしているが、面白いことではない。
「・・・で?」
 諦めたように溜め息をつき、面倒くさそうに鈴木に視線を投げる。
「まぁ読んでみろ」
 鈴木の指し示す通り、文章に目を走らせる。
「・・・・・・はぁぁ?」

『なにより、キミはがんものカマタリだからね』

「・・・おい?」
「もう一度閉じて、開く」

『なにやら、キブンはがんものカマありだからね』

「面白いだろう。読むたびに内容が変わるんだ。この本だけのオプションだ」
 誇らしげな鈴木。
 佐藤はガックリ肩を落とす。
「お前・・・マトモな本は持ってねぇのか。
 ていうか、俺、読んでる途中だったんだぞ?! ホラみろ、もう話の筋がわかんねぇじゃねぇか!!」