「詩を書いています」と他人に堂々と語り出したのはいつ頃からだろう。 Nは自分が投稿を続けている雑誌から詩を切り取り、ファアイルをつくりながらふと考えた。
Nは思う。 高校の頃から書き始めていたが、「私は詩を書いています」と他者にいうことは面映ゆいことだった。 あれから30年が過ぎ、Nはいまだに詩を書こうと何度目かの発心をしているようだ。毎月、なにがしかの詩を書いているにもかかわらず、「発心」というのはあるらしい。
書かなければ生きていけなかったが、 書かなくても生きていけるようにならねばならなかった。
しかし、詩はそんなレベルで語り終えることなぞ許さなかった。 経験がNを変えたのかもしれない。 「私」から出て「私」を超えろ、とねがった。
Nは白紙を前に、周りから音も色も消す。 誰にも言わなかったことだけれど 別にもう、言っても良いのだろう、とNは思う。 「詩が私を書いています」と。
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