散歩主義

2005年01月11日(火) 鳥の歌…パブロ・カザルス




鳥の歌…パブロ・カザルス/A concert at White House

 ガザルスの、ホワイトハウスにおけるライヴ録音である。オリジナルは1961年に録音された。もちろんCD化に際しては、最新の技術によるリマスタリングが施され、カッティングも最高の技術によるものだ。
 しかし音はとても悪い。ノイズも多い。
 だがそれがなんだというのだろう。
 「記録」か「作品」かと問われたら、あえて「記録」、と答える。それにもかかわらず世紀の名演であるとも。

 たぶんカザルスたち三人の精魂込めた演奏の恩恵に浴したのは、主のケネディはじめ、この日ホワイトハウスに招かれ、耳を傾けた人たちだろう。その人たちに向けてカザルスたち三人の音は発せられている。しかしその音楽は記録され、その聴衆を射抜いたであろうベクトルはそのままに、こうしてスピーカーの前の私たちを射抜くのだ。

データーを挙げておく
on      1961,11,13
at      ホワイトハウス舞踏室
player  パブロ・カザルス…チェロ
        ミエチスラフ・ホルショフスキー…ピアノ
        アレクサンダー・シュナイダー…ヴァイオリン

list    メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第一番ニ短調 作品49
        クープラン:チェロとピアノのための演奏会用小品
        シューマン:アダージョとアレグロ変イ長調 作品70
        カタロニア民謡(カザルス編):鳥の歌

 当時、カザルスはスペインのフランコ独裁政権に対する反抗と拒絶を鮮明にし、スペインを後にしていた。そしてこのファシスト政権を承認している国では一切のコンサートを行わないことを表明していた。
 反ファシズムだからといって政治的な党派には属していない。
彼の言葉によれば「一人の人間として正しい道を歩みたい」ということである。だからこそ当時フランコ政権を承認していたアメリカの、それも大統領官邸で演奏するということの重みを感じたい。
 つまり彼は「自由」であったのだ。自由を選び、自由を訴えてきた人が、民主と自由を求める人のために、あるいはそう表明する人たちの前で演奏することに、何のためらうことがあるだろう。そのように彼は「自由」だったのだから。

 この演奏全体ではチェロの表現力の豊かさに驚かされる。「鳴り響く」という言葉がぴったりである。鳴り響きわたり、そして歌っている。自在である。
 全体のトーンは哀しい。そして優しい。 哀しみが溢れて止まらない印象がある。哀しみが部屋の空気にに浸みていくようだ。演奏は表情豊かで、力強く激しい部分も多いけれど、「鳥の歌」が終わったときに感じるものは、やはり「哀しみ」である。センチメンタルなものというより、号泣に近い感情をぼくは感じる。カザルスがどんな表情をしていたかわからないけれど、音そのものを聴いて感じるのは、こちらの心をがっしりと掴んで揺さぶってくる「力」だった。

 バッハの死後180年間、ほとんど眠っていた「無伴奏チェロ組曲」を発掘し、チェロの聖典にまでしたカザルス。チェロの奏法に一大革命をおこし、チェロという楽器の能力を一気に拡大させたカザルス。
 正しい道、そして自由を生きた人の音はどこまでも力強い。

鳥の歌/パブロ・カザルス sony classical SICC 322


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