| 2004年08月15日(日) |
「生きる歓び」を読む |
保坂和志さんの「生きる歓び」を読みました。 表題作「生きる歓び」と「小実昌さんのこと」の2編と、長くて読み応えのある「あとがき」からなっています。新潮文庫です。
「生きる歓び」は捨てられた仔猫の「花ちゃん」を引き受けて、育てていくという作品。ぼく自身何匹も野良の仔猫の面倒を見てきましたから、うむうむとうなずくことばかり。 「赤身」がうちの場合「ササミ」というぐらいで、対応のしかたがまったく一緒でした。
……「生きている歓び」とか「生きている苦しみ」という言い方があるけれど、「生きることが歓び」なのだ。世界にあるものを「善悪」という尺度で計ることは「人間的」な発想だという考え方があって、軽々しくなんでも「善悪」で分けてしまうことは相当うさん臭くて、この世界にあるものやこの世界で起きることを、「世界」の側を主体に置くかぎり、簡単にいいとも悪いともうれしいとも苦しいとも言えないと思うけれど、そうではなくて「生命」を主体に置いて考えるなら計ることは可能で、「生命」にとっては「生きる」ことはそのまま「歓び」であり「善」なのだ。ミルクを飲んで赤身を食べて、段ボールのなかを動き回りはじめた子猫を見て、それを実感した……
読んでいて、まさに「実感」がわかりました。まったく同じ(というのはぼくの勝手な推測です)感慨をなんどもなんども思いましたから。
細かなことかもしれないけれど、こないだテレビの、たぶん10chの朝の番組だったと思うけれど、野良猫に牛乳を飲ませる牧場を紹介していたんです。 牧場主や従業員がなんだか、「ほほえましいこと」のようにして実演していたけれど、これを見ていてはらはらしてしまったんですよ。猫に牛乳は禁忌なはずなんです。成猫でもその場ではよくてもアレルギーをおこすのではなかったかのでは。 ぼくは素人判断の哀しさの最たるものとして「猫に牛乳」というのを教えられてきましたから。
特に幼猫に無理に与えたりすると、最悪死んでしまうと教わりました。そのためにわざわざ「猫用ミルク」が販売されているわけですし。
オカシイなと思ってみていたら、「最初にミルクを飲んでいた猫は?」と問われて「どこかにいっちゃったんですよ」との答え。 いや、それはたぶん酷い下痢になってしまったんじゃないのか、と。死んでしまったかもしれないんじゃないかと、ぷりぷり怒っていたのです。
あの番組を見て弱った猫や捨てられた子猫に牛乳をやる人がでたら、どう責任を取るんでしょう。これ、絶対間違った「情報」だと思うんだけどな。
話がそれましたが、「小実昌さんのこと」も読み応えがあります。こないだ書いた感想文は「物語」に関することばかりだったけれど、内容に踏みこんでの保坂さんの「感想」には頷いてばかりでした。 で、未読の「地獄でアメン」を読みたくなりましたね。とても。 保坂さんと田中小実昌さんとのかかわりも、静かに読みました。そうだったんですね、と。
で、充実の「あとがき」。これは「あとがき」というタイトルの小説です。ぼくにとっては。そのくらいの気持ちになるというか、そうでなければ読めないほど面白いです。 何度も読み返すことになるでしょう。
*「生きる歓び」 保坂和志・著 新潮文庫 ¥362
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