散歩主義

2004年08月11日(水) N‘s jazz house  vol.7

N‘s jazz House vol.7
Cool Struttin‘/Sonny Clark




 ジャズには日本ではファンの間では「定番」と呼ばれるほど人気を博していながら、本国アメリカでは全く知られていなかったり、過去に埋もれてしまっているアーティストや作品があります。代表的なものとしてはバド・パウエルの「The Seane Changes/Ameizing Bud Powell」などがそうでしょう。このなかの「Cleopatra‘s Dream(クレオパトラの夢)」など、日本のジャズファンならまずほとんどの人が知っているし、聞いた事があるはずです。ところが日本に来日したある高名なジャズ・ピアニストがこの曲を知らなかったという有名な話があります。しかも彼がバドの熱烈なファンだったにもかかわらず、です。
 そして、もうひとつの典型がが今日紹介する「Cool Struttin‘」。ソニー・クラークの作品です。このジャケットなら見た事があるという人は多いだろうし、ジャズ喫茶で聞いたことがあるという人も多いと思います。60年代のジャズファンなら誰もが聴いていたでしょう。ところがこれもアメリカでは意外なほど知られていませんでした。今ではもうそんな事はありませんけれど。

 バド・パウエルはアメリカのジャズファンやアーティストの間ではその存在はあまねく知られてはいたものの、ジャズがバップというスタイル一辺倒だったころであり、情緒的なマイナーキーの曲は見過ごされたのでしょう。
 一方、やはりピアニストのソニー・クラークは当時のジャズのアーティストたちから、かなり注目されていたようです。僅かに残されたアルバムに集まったメンバーをみればその事はとてもよくわかるし、そして彼の作品もまた、とにかくスイングしまくるというバップから逸脱し、クールでアーバンな、当時で言えばかなり斬新なアイデアに満ちた演奏を展開していたのでした。

 ぼくがジャズ喫茶にせっせとかよい出した頃にはすでにブルー・ノートレーベルの国内プレスの許可は下りていたけれど、ぼくよりも一回りぐらい上の世代の人たちのころ、ブルーノートレーベルの国内プレスの許可は下りていませんでした。「聞き手を選ぶレーベル」だったのです。「ブルーノート」というジャズに特化したレーベルの自負やそことの契約アーティストになるということへの独特の「身構えかた」はいまだに根強く残っているように思えます。
 とまれ、先輩諸氏は高価な輸入盤でしかブルーノートのジャズは聴くことができず、おおかたのファンはそれをジャズ喫茶で聴くしかなかったのです。
 そんなブルーノートが全力で売り込んでいこうとした、若き天才的な才能がこのソニー・クラークだったのです。

 1958年の作品。(実は先述のバド・パウエルのものも同年制作です)
 お洒落なジャケットがいいです。この「足」はブルーノートレーベルの社長秘書嬢のもの。全体で4曲、37分。コンパクトなアルバム。曲もアレンジもイカしている。というか「あ、これがジャズ」と最初聴いて、ぴんときました。もう何十年も前になるけれどまだハイティーンでこれを聞いた時(70年代です)の第一印象はいまだに変わりません。

 参加しているトランペットのアート・ファーマーやアルトサックスのジャッキー・マクリーンといった大先輩も素晴らしい演奏を提供しています。で、ソニー・クラークの演奏の特徴はなんといっても「寛いでいること」と「メロディアス」ということだと思います。また曲そのものをとても大事にしていることも窺えます。一言で言えば「お洒落」。それも着飾っていたり、気取ったお洒落ではなくて、少し崩した大人のお洒落。強引なソロも、スイングを煽りまくることもない、まるで気の利いたおしゃべりでもしながら歩いているかのような感覚。少しダルで、茶目っ気があって、しかもスタイリッシュ。「都市」以外のなにものでもないイメージ。これは持って生まれたセンスとしかいいようがないですね。
 (クール・ストラッティンとは気取った歩きかたという意味があって、ジャズ流の読みかたをした演奏になっているわけです)

 さて、最初の話題に戻りましょう。それほどの彼が何故、アメリカでそれほど知られていなかったのか、ということ。新進気鋭のソニー・クラークに痺れたブルーノートレーベルはすぐに契約を結び、どんどんレコーディングをセットしていったのです。そして多くののテープが残り、それをチョイスしてアルバムを作っていきました。そして全てが順調に進行していた矢先、彼は急逝したのです。1963年1月13日、過度の麻薬使用が原因の心臓発作による死でした。そして全てはそこで永遠に止まってしまったわけです。

 とびきりのお洒落な作品を置き土産にして、さっさと旅立ってしまったソニー・クラーク。実は身を削るようにして取り組んでいたジャズの、なんと生き生きとした事か。
 今、書いているぼくの作品「温かい雨」に登場してくる「クール・ストラッティン」。よろしければ一度いかがですか。
 なお、ソニー・クラークには「ソニー・クラーク・トリオ」というもう一枚の名盤もあります。


 < 過去  INDEX  未来 >


にしはら ただし [MAIL] [HOMEPAGE]