散文を書いてみました。 ゴザンスにアップしたものと同じです。
参考CD サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード/ビル・エヴァンス・トリオ (これは名盤「ワルツ・フォー・デビイ」と同じ日のライブの録音です。これから10日後、ベースのスコット・ラファロは交通事故によってこの世を去りました。)
【散文】 猫と犬とぼくの夕暮れ
ある夕方、いつものように冷凍庫から一枚ずつラップされた鶏の胸肉一枚と2本ず つラップされたササミをとりす。それから細長い陶器のトレーに載せて、胸は3分、 ササミは2分、電子レンジで解凍し、加熱する。
そこで、部屋にさっきまで流れていたジャズピアノが消えているのに気がついて、 ビル・エヴァンスをかけにいく。キッチンに戻ると、電子レンジの回転音の向こうか らでさえ、スコット・ラファロのベースの音はくっきりと聞えてくる。どこにいても 彼の「天才」はこちらの耳を奪ってしまうのだなと感心しながら、直径20cmのフ ライパンをガスレンジに置く。 すると、カウンターの向こうの部屋でごろんと寝ていた犬たちが、いつもの自分た ちの場所に移動した。2匹の犬はあっちとこっちに別れてご飯を食べるのだ。
指先を水で冷やしてから、鶏肉を包むラップをはずし、胸肉の皮をとる。胸肉、皮、 ササミを中火で熱くなったフライパンに置いていく。同時にレンジ上のダクトのスイ ッチを入れる。 すると、その匂いなのか音なのか定かではないけれど、それを待っ ていたかのようにレンジの向こうの窓に猫たちの影が映る。猫たちは幼いころからう ちに住みついていて、外に置かれた猫トイレも使うし、こちらの用意した箱の中で眠 る。昼間は我が家の物干しか屋根の上にいるか、姿が見えなくても家から離れずにい るのだ。だから我が家では猫たちを「外猫」と呼んでいる。数年の厳しい環境と病気 をくぐりぬけ、現在6匹いる。
フライパンには強化ガラスの蓋をして、蒸し焼きにする。電子レンジで加熱してい るからそれほど時間はかからない。火はすぐにとおり、片側に焦げめをつけると裏返 す。
じゅわぁっ。
両側が焼けると、皮、胸、ササミと俎板の上に並べてまず皮をみじん切りにする。 これを「外猫」のご飯を作るタッパにいれる。 「外猫」がいれば「内猫」もいるわけで、ササミ二本は「内猫」4匹のためにみじ ん切りにする。
「内猫」とは、産まれてすぐに母猫から見捨てられた仔猫で、家の中で暮らしてい る猫の事である。そのうち二匹は天井裏に捨てられ、壁の隙間に落下したとろを救出 した。もう一匹は箱の中に置いてかれてしまい、泣き喚いているところを保護。もう 一匹は後一歩のところまで母猫に育てられたものの、目が開く直前に置いていかれた ところを保護した。彼らと違い「外猫」は少なくとも成猫になるまで母猫に育てられ た訳だから、果たしてどちらが幸せなのか、よくわからない。 火を消して、ダクトも消すと部屋からピアノトリオの音がふたたび聞えてくる。 ビル・エヴァンスのピアノが好きで何枚か作品を持っている。もちろんピアノが素 敵なのだけれど、このトリオは三人が不可分のように密接につながっているところが 魅力的だ。それぞれがそれぞれの音に反応して曲が深まっていく。とりわけスコット・ ラファロのペースの果たしている役割はとても大きい。 今、かかっているのは「Alice in wonderland」だ。
ササミ二本のみじん切りが終わると、それをアルミの小さなタッパーにいれる。そ して胸肉を薄く、細く、小さく切りわける。これを大きめの器に入れる。カウンター の向こうの犬たちのうち、ピレネーのジャンは舌なめずりを始めていて、雑種のハナ は知らん顔を決めこみながら耳がこちらに向いてピンとたっている。
それから、それぞのタッパーの鶏をそれぞれのドライフードと混ぜる。そして「外 猫」は木皿に、「内猫」はプラスチックのボウルに、犬たちはステンレスのボウルに それぞれ盛られる。 まず外猫。ブロックの塀の上と隣の屋根の上に皿を置く。不思議な事にこのなかの 黒い猫だけば手で少しづつ皿から取り出して食べるのだ。たぶん昔、かぶりついてな にかあったのだろう、おそろしいほど慎重である。 次に犬たち。ピレネーの老犬のジャンは立ち続けることが困難なため、寝たままで ぼくの手から食べる。まず離れたところにハナのボウルと水をセットし、それからジ ャンの口の下にタオルを敷き、その上にボウルを持ってきてそこで手から食べてもら うのだ。膝ど腰の関節の薬はべつに缶詰フードで団子にしておき、それから食べても らう。食欲は旺盛。気持ちいいぐらいにあっという間に食べ終える。ハナはジャンの ポリポリと食べる音が聞こえ出してから、自分の食事を始める。いつもそうだ。 最後に「内猫」たち。 犬から扉三枚向こうに4匹はいて、まずいちばん年上でまあるい猫のルルが来る。 続いてルルの姉のピピ。その間を駆けまわってやってくるのが、いちばんチビのチャ チャ。まだ生後4ヶ月である。チャチャが来てから突然「大人」になった、三番目に 保護された猫のキキは少し離れてクールに三匹を眺めていて、みんなが食べ終えてか ら食べはじめる。
ぱりぱりもぐもぐぼりぼりぱりぱりぽりぽりかきかきもぐもぐもぐもぐ
それから部屋に戻る。生活の基本は犬たちといつも一緒だ。それは犬が歳をとって 体の自由が利かなくなっているから。もはや介助なしでは危なくてみていられない。 見ていなくて何かあったら、たぶん後悔するだろうから、いられる時はずっと一緒で ある。もちろん寝るときも。
日々はこうして暮れていく。毎日、同じことの繰り返し。何匹もの野良猫たちの死 につきあい、新顔も引きうけ、犬たちの状態をみる。毎日、こちらの言葉に、あるい は外の状況に反応して存在全体で「表現」する犬と猫たち。ぼくらもあのトリオのよ うに心を通わせているのならとてもうれしいのだけれどね。
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