斜めうえ行く「オクノ総研 WEBLOG」
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2005年10月28日(金) |
コングロマリットディスカウント |
日本企業の企業価値の分析をしていると、行き詰まる事が多い。
企業価値の分析は企業単体だけで行うわけではない。 同業他社との比較によるベンチマークを行う。 国内企業だけでは、分析しきれないので、海外の同業他社との比較を行うことが必須である。
と、すると行き詰まるのである。
日本企業は、いわゆる「総合××」が多い。 総合電機だとか総合商社だとか総合化学だとか。 それに対して、海外企業には総合××は少ない。 ほとんどの場合、特定分野に特化している。 総合××企業など、GEくらいのものだ。
日本企業の場合、大昔からいわれているBCGのポートフォリオ理論(ポートフォリオ理論については、今更書く気にもなれないので適当に調べてください)に沿って企業が経営されていることが多い。 総合××であることによって、複数の事業のリスクヘッジを単一企業内で行っているわけだ。
だが、それは既に古い。
株式市場ではコングロマリットディスカウントという言葉がある。 総合××、ということは、すなわち、企業単体の内部でのリスクヘッジであり、投資家にとっては、自分でポートフォリオを組む事ができない。 例えば、日本の電機会社の場合、デジタルテレビ、携帯電話、パソコン、半導体、炊飯器、掃除機、エアコン等々、恐ろしく幅の広い事業領域を抱えている。 さらには金融事業やら住宅、不動産にまで手を広げていたりもする。 投資する側からすると、それぞれの事業は成長期であったり、成熟期であったりバラバラである。 それにもかかわらず、株式投資は、総合××企業全体にしかできない。 僕が、デジタルテレビは成長するから多めに投資して、炊飯器には少なめに投資しよう、と思ってもそれは無理。 総合××全体にしか投資できない。 俺様ポートフォリオは組めず、総合××にしか投資ができない。 半導体と炊飯器を作っている企業の価値評価は難しい。 結果的に、投資は辞めておこう、ということになる。 これがコングロマリットディスカウントである。 企業が特定領域に事業を絞ってくれていれば、自己判断でポートフォリオを組めるのにね。
海外の企業、特に米国系では、総合××という企業は少ない。 何らかの事業に特化している。 GEは例外的なコングロマリットだけど、業界で1位、2位の事業領域のみを残し、それ以外は、売却するなりしていて保有していない。 日本企業のように、何でもかんでも保有している単一企業完結型のポートフォリオ理論による経営は成立していない。
で、日本企業と海外企業とのベンチマークを行おうとすると、日本企業の場合は、総合××で事業領域が広すぎるがために、ベンチマークが難しくなる。 事業単位で分割すれば、事業価値の評価も容易に行えるのだけれど、コングロマリットの評価は難しい。 抱えているそれぞれの事業の価値が異なるのだから、総合××全体としての事業評価は困難になる。
企業の論理によるとシナジー効果がどうのこうの、ということになるのだろうけれど、企業価値を評価する側にとって、コングロマリット企業の評価は鬱陶しいことこのうえない。 投資家の立場でも、投資家自身でポートフォリオを組むことができず、コングロマリット企業の経営判断で、事業ポートフォリオを組まれてしまうので、投資には躊躇せざるを得なくなる。 そして、起こるのがコングロマリットディスカウント。
投資家にとって、リスクヘッジのために、関連性、連動性の低い事業に分散投資することは基本である。 そして、そのポートフォリオは自分で決める。 でも、コングロマリット企業、総合××企業では、企業側がポートフォリオを決めてしまう。 日本の大企業の経営者にとっては、自分達で事業ポートフォリオを設定することが経営なのだろう。 だけど、投資家の立場からすると、それは大きなお世話というか、迷惑な話だ。 単一事業だったら、事業の価値は評価し易いし、自分の判断でポートフォリオを組める。 だけどコングロマリット企業に対しては、ポートフォリオを経営者に委ねざるを得なくなる。 結果的に投資家は、総合××、コングロマリットへの投資は、避けることになる。 だって、自己の判断でポートフォリオを組めないし、リスクヘッジができないんだもの。
投資家にとってみれば、ポートフォリオ理論を企業内で完結させようとしている時点で時代遅れ、と言わざるを得ない。
日本の総合××と呼ばれる大企業のM&Aに関ると面倒なことこのうえない。 正確に企業価値の評価を行うことが非常に難しい。 予想DCFだけで、企業価値の評価はできない。 海外企業を含めたベンチマークが必須。 でも、それは難しい。 ポートフォリオ理論を企業内で使うことは既に時代からズレている。
さらに言えば、持株会社制度。 これも、僕には納得がいかない。 どう考えてもバラバラである事業を持株会社の傘下に設置する。 上場しているのは持株会社。 投資しようにも、バラバラの事業を抱えているので、持株会社に投資はできない。 事業評価が複雑で困難だからだ。
投資家の立場に立つと、持株会社とかコングロマリットだとか総合××には、投資は避けたいところである。
あ、これは企業価値評価を行う実務担当者の愚痴ではありません。 事業ポートフォリオは市場、マーケットで決める事であって、単一企業内で行うべきではない、と考える資本主義者の見解です。
・・・久しぶりに普通のことを書いたな。
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