あんなに体調悪いと言いながら。 練習は休まへんのがそうる。あほあほそうる。 でもそれは。ある意味では尊敬すべきとこやなって思う。
去年キャプテンやったときから。そうるはめったなことでは休まへん。 体調崩したときくらい。ええ加減休んどけばええのに。 そう思ったけど。まぁ言ったところでどうせ聞かんのは分かってる(苦笑)。 「無理はせーへんし。今日はコーチに徹するし。」そう言ってたから許した。 まぁ最後までプレーせんと終わることはないやろうなって思ったけど。 後輩のためにも。コーチはおった方がええかもなって思ったしね。
実際そうるはほんまにしんどそうやった。 もういい加減しんどそうとか書くのもどうかと思うんやけど。 遅れてきて。鼻水ズルズルやってて。グランドの端に座りこんで。 たまに転がってきたボールに対しても。普段からは想像もできんような鈍い反応で。 そんなにしんどいなら家で休んどけばええやんーって言いたくなるような感じやった。 それでも本人には。「家でじっとしとくほどではないねん。」とか言うし。 もう知らん。勝手にすればええやんって感じで。ほったらかしてみた。
でもそう言いつつも。あたしがそうるをほったらかせるはずもなく(苦笑)。 いつだって。意識の半分はそうるに向けられてたと思う。
みんなで輪になって反省してるとき。あたしの背中に隠れてズビズビ鼻をかみ。 「鼻くちょついてへんかな。」なんて。むかつくほどかわいいことを言い。 あたしがしゃがみこんで下からそうるの鼻を覗いて。「ついてへんでー。」って言うと。 「じゃあ鼻ほじろーっと。」なんて。殴りたいほどマヌケなことを言い。 なんてゆーか。どうしてこうもコイツはやりたい放題やねん。 そう思って呆れつつも。やっぱり悔しいほどに愛しかった。
コーチに徹するとか言いながら。やっぱり見てるだけじゃ不満やったらしく。 「やっぱりやっちゃおー。」とか言って。こっそり列に混じって走り始め。 全速力になってからスパイク履いてへんことに気づいて。ズリズリ滑り始めて。 「あかんー!スニーカーじゃこけるー!」とか絶叫して。急に減速したりして。 あほやなぁと思いながら見てたけど。それでもやっぱり幸せやった。
でもひとつ。ひとつだけ不機嫌になったこと。 そしてそれをちょっと表してもて。反省したこと。 それは。あたしの足絡みのことなんやけどね。
最後に6対6でやるメニューがあったんやけど。 そうる、まひろ、あたしを含むディフェンスは7人おって。 誰か1人だけが休憩できるって状況やった。 まぁそうるが体調悪いから。最初は当たり前のように休憩してたんやけど。 その3回目ぐらいやったかな。あたしの足はかなり痛くなってきて。 その前の2回をけっこう無理してやってたから。休みたいーって思った。
でもね。まひろも朝から足が痛いって言ってたんよね。 あたしと同じように。休み休みやってたりしたんやけど。 だからまひろも休みたいかもなーと思って。休みたいって言い出せんかった。 そうるもしんどいんやし。これは2人のうちどっちかが休憩やなと思ってた。
そうるは。まひろのことはちゃんと把握してたみたいやった。 「どうする?無理なら休憩しー。うち代わりに出るし。」そう言った。 「いや大丈夫。今はまだマシやから。」まひろはそう言って。休憩は断ってた。 「そうなん。無理せんときやー。」そうるはそれで。次も自分が休憩かなって思ったみたいやった。 で。あたしはそうるが出てもいいって言うなら。代わってほしかったから。 「あー。じゃああたし休憩していい?」って言った。
そしたらそうるは。いきなり吹きだして言った。 「なんやねん。おばちゃんは体力の限界かい(笑)。」
笑い流せばよかった。普通に聞き流せばよかった。 それはいつもの冗談のひとつかもしれんかったんやから。 「そうやねん。もうよぼよぼですわー。」とか。そうるが笑いそうな反応をすればよかった。 休憩の理由なんてそうるには関係ないっちゃないんやし。 足の痛みなんて。忘れられてても別にええことやったかもしれん。
でも。あたしはその言葉にかちーんときてもた。 まひろの痛みには気づいてあげてたのに。あたしの痛みは分かってへん。 今日痛いって言い出したまひろを思いやれて。前から痛いって言ってるあたしを忘れてる。 あぁそうか。やっぱりそうなんや。あたしは勝手にがっかりして。そしてむかついてもた。
だからあたしは。ちっちゃな声でやけど言ってもたんよね。 「なんで笑うねん。まじで足痛いっちゅーねん。」
そうるには聞こえてなかったみたいやった。でもまひろには聞こえてて。 そうるが自分だけを気遣ってくれたことに気づいたんやろう。しまったなーって顔を一瞬された。 その後で。「痛いなら無理せんとき。若い連中に任せとき(笑)。」って言われた。 さりげないフォローがまひろらしくて。あたしはまた救われた気がした。
そうるもまひろも同じように言った。笑って冗談みたいに言った。 でも。まひろの言葉は受け入れられたけど。そうるの言葉はむかついた。 まひろの言葉の中には優しさを感じられたけど。そうるの言葉には感じられんかった。 何が違うんか分からんかったけど。期待したものの大きさの違いかなって後から思った。
しんどそうなそうるを。あたしは忘れてなんかない。 いろんな場面で気になってたし。休憩も代わってーって言い出すのに迷ったし。 もしそうるが。あたしをちょっとでも見てくれてたんやったら。 休み休みやって。ストレッチして足を押さえてるあたしを分かってたら。 まひろと同じように。あたしにだって声をかけられたやろう。 少なくとも。あたしやったらそうする。
でも。この「あたしやったら」ってのが怖いんやと思う。 だってそうるはあたしじゃない。あたしが思うようには思わんかもしれん。 むしろ。あたしとそうるの思考過程なんて違いまくりやから。 あたしやったらこうする。なのにそうるはそうせーへん。それは当然かもしれん。 でもそーゆうことにいちいちひっかかって。あたしはイライラしてまう。 なんかあたしばっかり疲れてるような気がして。おもしろくない。
ねぇそうる。自分だけが正しいなんて絶対に思ってへんけど。 それだけまひろを思いやれるんなら。あたしのことも思いやってほしかった。 だってあたしは。あんたのこともまひろのことも同じように心配したもん。 ともすればそれは。あんたへの心配の方が強かったかもしれんのに。
あたしとまひろ。どっちがどれだけ痛いかなんて知らへん。 痛みなんて主観的なものなんやし。比べられるものじゃない。 もしかしたらまひろは激痛かもしれんけど。あたしだって激痛かもしれんやん。 でもあんたには。まひろは相当痛そうで。あたしは体力ないだけに見えたんやろ。
なんであたしだけ笑うかな。なんであたしだけバカにするかな。 バカにされても笑って許せるときもあるけど。許せんときだってある。 体力の限界ちゃうわ。本気で足痛いねん。ずっと我慢してやっててん。 なんやねん。ちょっとぐらい分かってくれてもええやん。なんやねん。
そーゆうのを全く分かってくれてへんかったあんたに。 がっかりしてまうあたしがわがままなだけなんかな。 あたしがいろいろ求めすぎなだけなんかな。
・・・あぁ。数えきれんくらいの愛情を。計りきれんくらいの優しさを。 確かにあたしはあんたからもらってるはずやのに。 どうしてこんなにイライラしてまうんやろう。どうしてこんなにトゲトゲしてまうんやろう。
ごめんそうる。あたしまたちょっと落ちぎみやわ。 |