昨日の日記の続きです。まだの方はそちらからどうぞ。
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最愛の人の涙を目の前にして。あたしは固まってしまった。 あたしが過去にそうるの涙を見たのは。片手で数えられるくらいやった。 泣き虫なあたしとは反対で。そうるはめったなことでは泣かんのに。 そんなそうるが。今あたしの言葉で何かを感じて涙を浮かべてる・・・。
涙は。そうるの瞳の中でユラユラ揺れてた。 最初はわずかやったその涙も。少しずつその粒を大きくしてた。 切れ長で大きな瞳と。長いまつ毛は。涙が溢れるのを止めてたけど。 零れ落ちるのは時間の問題かもしれんと思えた。
「・・・あぁ・・・なんか・・・ごめん・・・。」そう言って。そうるはすぐに指で涙を拭った。 そしてあたしを見つめ返したそうるは。いつものそうるの顔に戻ってた。
こんなにも真剣な話をしている時やのに。 そんなそうるを目の前にして。あたしの体は動きたがってた。 唇が。キスしたがってた。腕が。抱き締めたがってた。 そんなので流されたらあかんって分かってても。我慢できんくなってた。 触れたい感情を必死で抑えて。あたしはそうるの言葉を待った。
そうるは。ゆっくりゆっくり言葉を紡ぎながら話してくれた。
○○○○(←あの男の名前)のことは。全部うちのせいやねん。 あんたを苦しめてること。全然分かってないわけじゃなかった。 それでも。好きって言われたら嬉しかったし。断れんかった。 男と女で違うからええかって思って。自分の中で正当化してた。
そんなに深い付き合いじゃない。薄くて浅い付き合いなんやと思う。 頻繁に会ってるわけでもないし。熱く語り合ってるわけでもないし。 でも付き合ってるってことやと思う。体の関係は・・・あるわけやし。
我慢してた涙が。大粒の涙が。ポタポタ落ちた。 頬を伝うなんてものじゃなくて。うつむいた瞬間に一気に落ちた。 予想はしてても。そうるの口からは聞きたくない言葉やった。苦しかった。 痛い。痛い。胸が痛い。死ぬ。死んでしまう。そう思った。
そうるは。そんなあたしを見て。一瞬ほんまに辛そうな顔をして。 それから自嘲的に笑って言った。
うちはな。ほんまに最低なヤツねん。いつもいつもそうやねん。 前にも話したことあったやん。大事な人を大事に出来んって。 大事な人にほど。わがままで汚い自分になってまうって。 あんたとのことは。その典型やと思うねん。
あんたみたいに。根底に確かなものがあるわけじゃなくて。 求められたら簡単に流されるようなヤツやねん。 あんたはうちのことを買いかぶってる。うちはそんなに優しい人間じゃない。 あんたが思うようないい人間じゃない。もう嫌いになり。その方がラクやで。
瞬間的に。あたしの血が全て沸騰した。 頭で考えるより先に体が動いた。 あたしは。そうるの左頬を思いっきりひっぱたいた。
鋭くて。心の底まで裂くような。嫌な音がした。 その音で我に返って。あたしはまた泣きそうになった。 最愛の人を叩いたあたしの右手は。ジンジンして痛かった。 そんな痛みで納まらんかったあたしは。左手で右手の手のひらに爪を立てた。 痛かった。でも痛みでも与えんかったら。そうるを叩いた自分を許せんかった。
でも。そんな自分への怒り以上に。 あたしは。自分を傷つけてるそうるの発言が許せんかった。 そんなふうに自分を貶めるようなことを言ってほしくなかった。
「そんなこと言わんといて。」絞り出した声は。低くて掠れてた。 自分のことを最低やとか。いい人間じゃないとか。そんなこと言わんといて。 それに。あたしがあんたのことを。嫌いになんかなれるはずないやろ。 なんでそんなこと言うねん。なんでそんなひどいこと言うねん。
そうるは。びっくりした様子もなくて。ちゃんと受け入れてた。 あたしがひっぱたいた左頬は。少しずつ赤くなってたけど。 そこに手を当てて痛みを癒すわけでもなく。あたしの方をずっと見てた。 そして。不思議な笑みを浮かべて。予想もせんかったことを言った。
そうやん。それでええんやん。 思ったことそのまま出してええんやん。 今うちのこと嫌いやと思ったやろ。最悪やと思ったやろ。 それをそのまま出したらええんやん。 好きってことですべてを包まんでええんやん。
あんたはな。優しいからいろんなことを抱えすぎやねん。 うちに対してむかつくんやったら。むかつくって言ってええねん。 やめてほしいことがあるんやったら。そう言えばええねん。 してほしいことがあるんやったら。それも言えばええねん。 重いとか重くないとか。傷つけるとか傷つけへんとか。 そんなふうにうちのことばっかり考える前に。やりたいようにやればええねん。 うちを思ってくれるのは嬉しいけど。そんなんじゃあんたがもたへんやん。
あぁ。この人は。なんてことを言うんやろう。 なんでこんなに。あたしが欲しい言葉を知ってるんやろう。 そうるの話は。本題からはちょっと逸れてたけど。 でもそんなふうに思われてたなんて知らんかったあたしには。 そうるの言葉のひとつひとつが。じんわり沁み込んできた。
・・・我慢の限界やった。そうるへの愛しさはもう限界値を越えてた。 あたしは。手を伸ばして。そうるにしがみついて泣いた。
いつも言葉足らずのそうるが。 大事なことはあんまり言ってくれんそうるが。 こんなにもあたしのために言葉を紡いでくれた。 そして。あたしをまるごと受け入れてくれた。 こんなにも真正面から向き合ってくれた。 その事実だけでも。あたしには十分すぎた。
泣き出して止まらんくなってるあたしの背中を。そうるはポンポンって叩いてくれた。 まるで親が子供をあやすように。一定のリズムで。 それから。落ち着いてきたあたしの肩をつかんで。自分の体から離した。
なぁ。だからちゃんと言ってみ。今1番うちに言いたいことは何? 重いとかもうええから。考えんでええから。ちゃんと言ってみ。
そうるの瞳は。全部受け入れてくれる色やった。 あたしの両手を自分の両手で包んでくれたそうるは。 あたしの心まで。すっぽり包んでくれてるみたいやった。 あたしは。導かれるように口を開いて。そうると話した。
「・・・あの人と別れてほしい。」 「・・・・・・うん。それから?」 「・・・・・・・・・・・・。」 「それだけ?」 「・・・めちゃめちゃクサイこととかでもええん?」 「ええよ。」 「・・・笑わんと聞いてくれるん?」 「うん。」
「あたしのことどう思ってるか言ってほしい。」 「・・・どう思ってるか・・・?」 「うん。そういうのあんまり言ってくれんから。」 「・・・そういうのって?」 「・・・好きとか、愛してるとか、そーゆうの。」 「・・・・・・あぁ。」
顔から火が出そうなくらいに恥ずかしかったけど。あたしは言ってもた。 それは。いつもひそかにあたしが望んでるものやった。 言葉にされんくても。そういうのを教えてくれる行為はいっぱいあったけど。 やっぱりちゃんと伝えてほしい。時々は言葉にしてほしい。
そうるは。ちょっと困ってたけど。そうるらしい言葉で言ってくれた。
うちやったら。好きでもない相手と。こんなに熱く語らへんし。 好きでもない相手の前で。涙なんて絶対に見せへん。 好きでもない相手に叩かれたら。倍にして叩き返す(笑)。
愛とかよく分からんけど。そういうの言うキャラでもないし(笑)。 でもあんたのことは。めちゃめちゃ大事な存在やと思ってる。 気になるし。放っておけんし。なんだかんだで必要やし。 そういうのが愛なんやったら。うちはあんたのことを・・・愛してるんやと思う。
あぁ。あたし。もう何もいらんかもしれん。 満たされて。満たされすぎて。おかしくなりそう。
そうるがそういう甘いことを言わん性格やってことは。 あたしが1番知ってると思う。そんなそうるが言ってくれた。 だからこそ。言葉に重みがあって。ありすぎて。かなり痺れた。 「愛してるんやと思う。」って言い方も。断言を避けた言い方も。 なんか。ほんまにほんまにそうるらしくて。完全にやられた。
言ってほしかったくせに。言われたら言われたで照れくさくて。 「・・・ありがとう。」そう言うのが精一杯やった。 そして結局また。あたしは根底の気持ちに戻ってきた。
そうるが誰よりも愛しいって気持ちに。戻ってくることができた。
明日まで続きます。・・・長すぎやね。ほんま(苦笑)。 |