月曜は。ナイターの後でそうるが泊まりにきて。 火曜は。午前中そうるがあたしの部屋にいて。 けっこうな時間を一緒に過ごしていた。それなのに。 どうしてなのか。昨日の昼間会えなかっただけで。 やっぱりあたしはそうるに会いたくて仕方なかった。
困ったもんや。ほんまに。そう思って自分で苦しくなる。 いつからこんなにも首ったけになったんやろう。 目が合うだけで。笑いかけられるだけで。 いつでもあたしは。心を締め付けられてしょーがない。 そしてそういうものを。いつだって求めてる。 甘くてせつない痛みの虜になってる。あぁ。なんてことやろうか。
そうるのどこにそんな魅力があるんやろうね(苦笑)。 優しいばっかりじゃないし。わがままも言われるし。 気分次第で冷たい態度もとられるし。 (それどうなんよ。)ってむかつくこともいっぱいあるし。 ほんま。なんでこんなにも夢中になってるんやろうって。
それでも。あたしは知ってる。 そうるの体も心も。やわらかくて。暖かくて。たまらない。 あたしには。絶対に失えない存在。だから。 あたしの魂が。こんなにも求める。こんなにも欲しがる。 だから頭が制御しようとしても。止められんのやろうと思う。 とりあえず。分かりやすく言うなら「お手上げ」ってことで(苦笑)。
ナイター前に。練習場に向かう道でそうると一緒になる。 信号待ちで。バイクのタイヤにあたしの原チャをコツンとぶつける。 振り返ったそうるは。片手を上げるけど。ミラーシールドのせいで目が見えん(笑)。 シールドをスライドさせて。隙間から大好きなそうるの目が見えて。 (あー。そうるやー。)って感じで。恐ろしいほど単純に。あたしは幸せになる。 「おっすー。」「おはよー。」って。交わした言葉はそれだけ。 でも。それだけでいい。そういう空気でさえ。あたしには優しい。
グランドで用意をしてるときに。そうるが騒ぎ始める。 「ぎゃー。スパイク忘れたー(涙)。」って。 そうるが履いてきたのは。おニューのスニーカー。 スパイクがないってことは。それを履いてやるしかないってことで・・・。 「いややー。買ったばっかりやのにー(涙)。」 「こんなん絶対底とか磨り減るやーん(涙)。」 そうるはほんまに泣き出しそうな勢いで。スニーカーを触ってた。 そんなそうるを見てたら。なんかいじめたくなってきたあたし(笑)。
「ご愁傷様。せいぜい汚さんようにー。」って。まひろがイジワルく隣で笑って。 「大丈夫やって。穴は開かんって(笑)。」って。あたしも慰めにならん慰めをする。 「もー。あんたら。絶対しばく(涙)。」って。珍しくいじめられっこモードになって。 ギャーギャー言ってるそうるは。ほんまにかわいかった(笑)。
練習前に。みんなで集まって。キャプテンそうるが一声かける。 これはいつものこと。今日その時に。そうるが言った。 「この前の試合のビデオで1回生の応援がすごかった。」って。 「声がいっぱい聞こえてほんまに感動した。ありがとう。」って。 あたしたち上回生も。そうるの言葉で思い出して。ありがとうって言った。 1回生は。みんな嬉しそうに笑ってた。
そういう気持ちを。素直に言葉に出来るそうるは。やっぱりすごい。 あたしは。思ってても恥ずかしくて言えないような気がする。 そうるが。後輩から人気があるのが分かる気がした。 そういう声かけを。すごく大事にしてるそうるやから。 後輩も。そうるに気にかけてもらってることが分かって。 そうるのことを好きになるんちゃうかなーって思った。
練習が始まると。そうるはいつも通りやった。 月曜に。ちょっと気まずくなってただけに心配やったけど。 そこはやっぱり。スポーツやってる人間はサッパリしてる。 お互い気持ちよくプレーするために。言うことは言う。でも引きずらない。 でも忘れたりしないで。二度としないように自分を戒める。 引くべきところにちゃんと線を引いてる感じで。気持ちいい。
イキイキと走り回るそうるに。ナイスプレーの後で笑顔を零すそうるに。 あたしは。やっぱり幸せをもらって。笑顔になる。 調子に乗って。おもしろいプレーをやるそうるに。 みんなが笑って。そうるも笑って。あたしも笑って。 なんてゆーか。あたしを包むすべてが暖かかった。
ナイター後に。紙がいっぱい入った封筒があたしに回ってくる。 それは。夏に個人個人が目標を立てて紙に書いて、 それにみんなが達成度とかを判断して書いてあげて本人に返す、 いわゆる「評価シート」というものやった。
家に帰ってから。それに記入する。 後輩。同回生。みんないろんな目標を立ててた。 一人一人のプレーを思い返しながら。書き込んでいく。 「よくなってきたやん。」とか。「もうちょいやな。」とか。 えらそうなこと書いてるよなーと思いながらも書いた。 人の評価をするとき。自分のことはとりあえず置いておく(苦笑)。 そうでもしなきゃ。誰も何も言えなくなってまうし。 何もかもを完璧にこなせるプレーヤーなんていないもんね。 そのかわり。書きながら自分のことも思い返してみる。 うんうん、うちもこれ出来てないよな。次からもっと気をつけよう。 そんなことを思いながら。評価シートを埋めていった。
そうるは。だいたい誰の評価シートに対しても。 びっくりするぐらい長い長い返事を書いてた。 その内容には。あたしと同じような感想もあったけど。 あたしがその人を見てても気づかなかったことも書いてあって。 改めて。そうるのキャプテンとしての器の大きさとか。 視野の広さとかを思い知らされて。あたしは胸が熱くなる。
あたしは。けっこう昔からそうやけど。 人を好きになるとき。そこに必ず「尊敬の念」が生まれる。 人間的に尊敬できる人。純粋にすごいなぁと思える人。 そういう人を。あたしはいつも愛するようになってた。 逆に。そういう人じゃないと。あたしは愛せない。
そうるに対しても。最初は外見とか雰囲気から好きになったけど(笑)。 たぶんそれだけやったら。ただの憧れで終わってたと思う。 こんなふうに。そうるの心に触れて。その深さを知って。愛した。 後輩に対して「ありがとう」ってみんなの前でも素直に言えることとか。 チームメイトのプレーをいつも気にして見ていられるとことか。 そういうひとつひとつのそうるの中身を。あたしは尊敬してる。 だからずっと一緒にいられるんやと思う。
ねぇそうる。あたしはあんたの中で大好きな部分がいっぱいある。 キレイな瞳。長いまつ毛。柔らかい唇。全部大好き。 力こぶのできる腕も。引き締まった脚も。全部大好きやで。 でも1番好きなんは。あんたの心・・・なーんて言ったらクサイかな(笑)。 「やめろー。かゆいー。」なんて。あんたは言うんやろうか。
でもな。それはほんまのことやねんで。 もうつかめたと思っても。まだ全然つかみきれへん。 底が全然見えへん。深海みたいなあんたの心。 その1番深いところにたどり着いたら。何が見えるやろう。 そんなことを思うから。あたしはあんたから離れられへん。
ねぇそうる。あたしはあんたの心のどの辺にいる? まだ浅瀬でチャプチャプやってる程度なんかな?(苦笑) 息もできないくらいの。深い深い部分まで。あたしは潜ってみたい。
そして見たいねん。誰も見たことのない。あんたの1番深いところを。
|