心を殺してしまおう。 もう何も言わなくてすむように。 そうるを困らせたり苦しめたりする言葉を。 もう言ってしまうことがないように。
今日もナイターで。あたしはやっぱりそうるに会えるのが楽しみだった。 試合前ってこともあって。気合い入りまくってるそうるは。 やっぱりどうにもかっちょよくて。あたしはやっぱり幸せだった。
試合のことは考えないようにしてた。 オーダーがどうだとか。そんなことは忘れようと思ってた。 でも。少しずつ頭をよぎって。あたしの中に邪念が生まれてた。
ミスできない。認めてもらえなきゃスタメンになれない。 認められたい。必要とされたい。そうるに。 あたしは途中からそんなことばっかり考えてしまって。 ちっとも思い切ったことが出来ず。びくびくしながらプレーしてた。
そうるの視線を感じた。そうるがあたしを見てるのが分かった。 見守られている幸福感。そして。見定められている緊張感。 がんばれって言ってくれたそうるの気持ちに応えたかった。 あたしを見捨てないでいてくれたそうるに。がんばってるあたしを見せたかった。 あたしは。余計なことを考えすぎて。冷静さを失ってた。 決めなきゃと思いすぎてミスをした。ミスったことを引きずって。またミスをした。 どんどん自分からはまりこんでいって。ついには抜け出せなくなった。 がっかりしてるそうるの気持ちが。伝わってくるような気がした。
そして。練習後にスタメン発表があった。 嫌な予感がしてた。もしかしたら・・・と望んだ自分を笑いながら発表を待った。 あたしは。やっぱりスタメンから外されてた。
どんなにがんばってても。その時その時の自分には100%でも。 望んだ結果が得られなかったら。その時のことを悔やんでしまう。 もっとやれたんじゃないか。もっとがんばれたんじゃないか。 そう思っては。唇を噛む。自分を責める。悔しい。
そうるの気持ちを考えなきゃいけない。 いろんなことを考えたんだ。そうるは。 あたしの相談も。涙も。苦しみも。そうるはきっと忘れてない。 でも。そういうのだけにほだされてたら。チームは機能しない。 だからそうるは冷静な目で判断した。キャプテンとして厳しい目で。 分かってる。頭では。分かりすぎるほどに分かってる。 でも。気持ちがついていかない。悲しい。
そうるの無言の目は。あたしを責めてるわけじゃない。 キレイすぎるその目に。黙って見られるとあたしは。 どうしても何か思われて責められてるような気がしてしまうけど。 そんなことはない。そこはそうるを信じなきゃいけない。 被害妄想なんて捨てるべき。悲劇のヒロインなんて気取ったらあかん。。 甘えるな。腐るな。しっかりせなあかん。もっとがんばらなあかん。
そうやって自分を戒めて。泣きたいのも愚痴りたいのも必死で堪えて。 あたしはただひたすらに。テンションを上げて笑ってた。 自分勝手な涙や愚痴で。もうそうるを困らせたくなかった。 そんなものを見せて。もうそうるに嫌われたくなかった。 これ以上情けない姿ばっかり見せたくなかった。だから我慢した。
そうるは。やっぱり何も言ってこなかった。
甘い言葉を期待してるわけじゃない。あたしはここでも何度もそう言ってきた。 そうるの優しさを。甘いだけじゃない本当の意味での優しさを。 あたしはちゃんと分かってるはず。でもそれなら。 どうしてこんなにも。苦しい気持ちになるんやろう。 どうしてこんなにも。涙が止まらないんやろう。
あたしは。そうるにどうしてほしいんやろう。何を望んでるやろう。 甘い言葉はいらない。でも。分かってほしいと望んでしまう。 心と心のつながり。そういうのやろうか。あたしが欲しいのは。
欲しい。欲しいよ。心と心のつながり。でも。・・・違う。 もっと欲張るなら。あたしが本当にほしいのは。 きっとそうるみたいな才能。そういうのを手に入れて。 そうるにちゃんと必要とされるような自分になりたいんやと思う。 (これはサークルにおいての意味で。)
ねぇそうる。あたしは。時々あんたの才能に嫉妬する。 その広い視野とか。安定したプレーとか。そういうのすべてに。 どうしようもないくらいに憧れて。そして嫉妬する。 あたしあんたになりたかった。あんたみたいに。 自信に溢れてて。人を魅せられるプレーが出来るようでありたかった。 あんたが大好きだけど。あんたを見てると。 あたしはまだまだへなちょこな自分を思い知って。どうしようもなく痛い。
あたしは思う。きっと男と女だったら。 こんなにも相手の才能に嫉妬なんてしないんじゃないかと。 こんなにも相手に憧れて。相手みたいになりたいなんて思わないじゃないかと。 同性を好きになった苦しみは。こういうところにも潜んでる。
でもあたしはきっと最初から。そうる。あんたに憧れて。 あんたを好きになったんやと思ってる。 あんたをすごいって認めて。あんたに近づきたくて。 そういうところから始まった「好き」やったように思う。 だからこんな思いを抱くことは。最初から分かってたはず。 それが辛いなら。好きになんかならなきゃよかったのに。
・・・あぁ。思考が乱れる。あんたを好きになったことにまで及ぶなんて。 そんなところを揺るがせてどうする。しっかりしろ。あたし。
大丈夫。そうる。あたしもう何も言わない。 あんたを困らせることは絶対に言わない。 「試合前にそんな話は聞きたくなかった。」なんて。もう言わせない。 あんなにも悲しそうな目なんて。もう絶対にさせない。 もうあんたを苦しめない。ごめん。ごめんね。
わがままばっかり言ってあんたに甘えてるような。 弱くて情けないあたしを殺すから。 痛いけど。痛すぎるけど。ちゃんと殺すから。
だから安心して。あんたは試合のことだけ考えて。 あたしはもうあんたの足枷にはならないから。 |