100の言葉を交わすより。ただ抱き合うことが。 気持ちを伝えられることもある。 あたしはそうるにそれを教えられた。 そして。今日もそうやった。
「今日空いてる?」そう聞いてきたのはそうるやった。 あたしは言いたいことがいっぱいあって。でも結局何も言えないままで。 うまく笑えばいいのに。今日はそれさえ出来なかった。 そんなあたしに。昼練の後でそうるが声をかけてきた。
「うん。今日はもう講義終わりやねん。」あたしはそう答える。 精一杯明るい声を出した。そうるにどう届いたかは分からないけど。 そうるはそんなあたしに向かって。顔を見ないで言った。 「うち3限あるから、それが終わったら部屋行くわ。」って。 「・・・んー。分かった。じゃあ待ってる。」あたしは答えた。
なんやろう。なんか話があるんかな。 やっぱりサークルのことやろうか。 またあたしの中のぐちゃぐちゃを見抜かれたんやろうか。 思いはいろいろ交錯したけど。 とりあえずあたしは部屋に帰ってそうるを待つことにした。
何も食べるものがなくて。とりあえずドーナツ購入。 お湯を沸かして。色違いのマグカップを並べる。 なんやろう。なんやろう。怖い。なんか怖い。
でももう決めたし。そうるの前で暗くなんかならんようにせな。 そうるの重荷になりたくないし。めいっぱい明るくしとこう。 そう思いながら。わざと明るいBGMなんか流して。そうるを待った。
3時過ぎ。チャイムが鳴る。あたしはドアを開ける。 そこには。愛しい人が立っていた。 「早かったなぁ。講義早く終わったん?」あたしは言う。 「んー。今日はラッキーやった。」そうるも普通に答える。 大丈夫。いつもと何も変わらない。あたしは自分に言い聞かせる。
あたしがコーヒーを入れてる間。そうるは何も言わなかった。 沈黙が。あたしを追い詰める。心臓の音が聞こえる。 何か言って。そうる。黙ってないで。お願い。・・・そう祈った。
ドーナツとコーヒーをトレイに載せて。あたしは部屋に入る。 テーブルの上にトレイを載せて。なぜか。そこに座れずにいた。 座ったら。メインイベントが始まってしまう。そうるの話が始まってしまう。 それが怖くて。あたしは立ったままでいた。 そうるはあたしの方を黙って見上げてた。そして。 あたしが想像すらしなかった意外なことを言った。 「なぁ。抱き締めてもいい?」
「・・・へ?」あたしはワケが分からなくて。まぬけな返事をしてしまった。 こんなときに。何を言い出すんや。そうるは。 試合のこと。オーダーのこと。何を言われるかビクビクしてたあたしに。 抱き締めていいかとか。なんで聞くんや。意味が分からん。
すっかり目が点になってるあたしに。そうるは言葉を続ける。 「明日からは試合モードやから。今日はあんたモード。」 そして。ちょっと笑って立ち上がると。あたしのことをぎゅって抱き締めた。
「・・・なんで?」あたしは思わず言ってしまった。 「そんなことのために来たん?」って。 あぁ。自分から話題をそっちに持っていってどうする。 そう思ったけど。もう止められなかった。 そうるはあたしを抱き締めたままで言った。 「・・・そんなこととか言いなや。」って。そしてあたしを抱く腕に力を込めた。 つぶされそうなくらいに。そうるに体を押し付けられる。 「違うやろ。なんか言いたいことあったから来たんやろ?」 「ちゃんと言ってや。もう大丈夫やから。」あたしは言った。 泣きそうになったけど。絶対泣くまいと思って堪えた。
そうるは言った。笑って言った。 「普通にあんたのこと抱き締めたかっただけやで。」って。 「なんでよ。そんなわけないやん。」あたしは言った。 「ううん。ほんまにそれだけ。」そうるはそう言って。キスしようとした。 「はぐらかさんといて。」あたしは言って。背を向ける。 思ってるやろ。ほんまは。あたしに。言いたいことあるやろ。 情けないとか。弱いとか。全然がんばれてないとか。思ってるんやろ。 ・・・ドロドロした気持ちが。溢れて止まらなかった。
そうるは。あたしを背中から抱き締めて。諭すように言った。
サークルはサークルやで。分かってるやろ。 がんばってるあんたのこと見てないわけじゃない。 がんばってないなんか思ってへんよ。 悔しい気持ちとかもちゃんと分かってる。 全部分かってる。だから心配せんでええって。 うちはな。単純にあんたのこと抱き締めたいって思ってん。 がんばってるあんたのこと見てたら。どうしようもなく抱き締めたくなってん。 それだけやで。ほんまにそれだけ。それでもあかんの?
「・・・あかんくなんかない。」それがあたしの答えやった。
だめだ。あたしには。この人は愛しすぎる。 やっぱり。触れたい。触れられたい。抱きたい。抱かれたい。 最後には結局。そういう欲望が止められなくなってしまう。 そうるも同じ欲望を抱えてるんだと思うとたまらない。
それは自分を。そうるを。最も動物的だと思い知る瞬間。 そんな自分も。そうるも。少し怖いけど。キライじゃない。
そうるはあたしを押し倒して。服を脱がせて。 首筋から。全身に。優しく唇を這わせていく。 あたしもそうるを脱がせて。首に腕を絡める。 柔らかくて好きだと。そうるが言ってくれるあたしの胸は。 そうるに触れられて。幸せで。大きく波打つ。 ぽってりして好きだと。そうるが言ってくれるあたしの唇は。 そうるに吸われて。幸せで。濡れた声を漏らす。 そうるは。時折あたしと目があって。少し笑って。 すぐにまたマジな顔をしてあたしを貪る。 そして。あたしは。身を捩じらせて。喘ぎ続ける。
快感は押し寄せて。あたしの中で思考が消し飛ぶ。 なにかを話し合うはずが。どうしてこんなことになってるのか。 分からない。分からないけど。もう何も考えられない。 この快感に。そうるに。身を委ねていたい。
もっと。もっと近くにきて。そうる。 2人の間には何もいらない。 あんたの熱で。あたしの中の不安を溶かして。
抱かれながら。あたしはずっと謝ってた。 ごめん。ごめんね。無意識の中で。そう言い続けてた。 「ごめんじゃないって。」そうるはそのたびに。首を振って。 あたしの言葉を吸い取るように。唇を重ねてきた。
ねぇそうる。あたしはどうして謝ったんやろう。 なにがあたしをそうさせたんやろう。 よく分からんけど。久しぶりにあんたに抱かれて。 あたしは何も考えられんくなってた。 あんたの肌とか。熱とか。そういうのに溺れて。 あたしは。息も出来んくて。死んでしまうかと思った。 頭の奥が真っ白になって。一瞬あたしは「無」になってた。
そうる。快感って幸せやけど。時に怖いもんやね。
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