昨日浮上したら。今日また沈む。 そんなもんです。幸せなんて。儚いもんです。
昨日あたしは。そうるに救われて幸せやったけど。 今朝起きたら目がえらいことになってた。 めばちこ?ものもらい?なんでしょう。とりあえず。 右の瞼が腫れあがってて、目が開かない状態で。 ぎゃーと思いながら眼科に駆け込んだ。
40歳後半ぐらいかな。おじさんドクターに。 「自分で思い当たることはありますか?」って聞かれて。 「ここ数日めちゃめちゃ泣いてたんですけど・・・。」って答えたら。 「あぁー。汚い手で擦ったんじゃない?」とか言われた。 そしてさらに。にやーっと笑って言った。 「恋人とケンカでもしたの?」って。
ケンカというかですね。軽くこじれたんですけどね。 てゆーかそんなことあなたに関係ないじゃないですか。 あたしは適当に笑って流して。むかつきながら病院を出た。
今日は講義はなかったけど。あたしは大学に行った。 昼練に向かうあたしは。再びブルーになってた。 昨日はあんなにもそうるに元気をもらったのに。 明日が試合となると。いろんなことを考えてへこんでた。 物分かりのいいフリをしたって。やっぱり試合に出たい。 やっぱりそうるに認められたい。そう思ってしまった。
昼練の後で。そうると2人きりになった。 正確には。あたしがそうなるように図った。 いつも一緒に学部まで帰る友達に。寄るところがあるって嘘をついて。 バイクと原チャのとこでそうると2人きりになった。
講義がもう終わって。そうるは家に帰るところで。 バイクに荷物をくくって。メットをかぶったそうるをあたしは引き止める。
あたしは何を話しただろう。よく思い出せない。 たぶん愚痴っぽい話になったんだと思う。 優しいそうるをはけ口にして。あたしはいろんなことを言った。 そうるは話を聞いてくれたけど。バイクにまたがったままで。 メットもかぶったままで。何度もエンジンを噴かしたりしてた。
あたしはそんなそうるの聞く姿勢にむかついてた。 人の話を聞く態度やと思えん。なんでそんなふうなんやろう。 家に帰りたい態度を全面に出してるそうるに逆ギレして。あたしは言った。 「帰りたいんやろ。もうええで。」って。
「まだなんか思うことあったらメールして。」って。 「最後になんか言いたいことあったら聞くけど。」って。 そうるは言った。その言葉もあたしの神経を逆なでした。 あたしはまだ話し足りんのに。なんでそうるはそうなんやろう。 ばかそうる。なんで。なんで。
自虐的にあたしは笑って言った。 「そんなに帰りたいんなら帰ってええで。」って。 最低。引き止めたのはあたしのクセに。 でも。いったん溢れ出した汚い感情は止められなかった。
そうるはため息をひとつついて。あたしをじっと見て言った。 冷たい凍りつくような視線が。低い声が。あたしを貫いた。 「明日試合やろ。テンション下げたくないねん。」 「あんたも早く寝なあかんで。治るもんも治らんで。」 そして。エンジンを噴かす。そしてあたしの方を見ずに。 「じゃあ。」って言って。バイクで去って行った。
5メートルほど行ったところで。友達に会ったらしくて。 そうるのしゃべってる声が聞こえた。 あたしは。その声を背にして。泣いた。限界やった。 戻ってきてくれるそうるをちょっとだけ期待した。 でも。1度止まったバイクのエンジン音は。再び聞こえてきて。 そして。どんどん遠くに行ってしまった。 そうるは。あたしのところに戻ってはくれなかった。
人目もはばからずに。あたしは泣いた。 寂しかった。苦しかった。やりきれなかった。 一緒にいてほしい気持ちを。そうるは分かってくれなかった。 分かってくれると望んでた自分が。救ってもらえると期待してた自分が。 どうしようもなく惨めで。情けなかった。
横を通り過ぎてく教授に声をかけられる。 顔見知りの教授。でも。馴れ馴れしくて大キライな教授。 「どうしたん?さっきの恋人か?泣かされたんか?」 そう言ってにやっと笑って立ち去って行く。
泣かされたわけじゃない。そうるが悪いわけじゃない。 なによ。医者も。教授も。そうるは悪くなんかない。 あたしが悪いんやって。あたしが勝手なだけなんやって。 あたしの恋人は。何も悪くなんかないんやって。
あたしはどうして。自分の力で這い上がろうとしないんやろう。 どうして。そうるに救われることばっかり求めるんやろう。 そして。どうしていつも自分のことしか見えなくなるんやろう。 そうるの言うことは正しい。明日は試合やのに。 あたしのこんな情けない話とかでテンション下げさせてもた。 なんで。そうるのことをもっと考えられんのやろう。 自分のことを思いやってほしいと望むのなら。 どうして同じだけ相手のことを思いやれないんやろう。
ねぇそうる。あたしは。こんな自分が嫌い。 あんたに求めるばっかりで。あんたを縛ってしまう。 チームにおいて。あたしだけが特別なわけじゃないのに。 分かっているといいながら。あたしはきっと分かってないんや。 ほんまに分かってたら。あんたにこんなに寄りかかったりせーへん。
ごめん。そうる。面倒なあたしでごめん。 明日は。絶対勝とうね。もうあたし。余計なことは考えへんから。
あぁ・・・零れるな。涙。しっかりしろ。あたし。 |