昨日酔いつぶれてあたしの部屋に泊まったそうる。 ベッドで寝息をたてるそうるに、あたしは寄り添った。 いつもそうしてもらうようにそうるを抱き締めた。
そうるの寝顔を見て。髪を撫でて。口づけて。 あたしは複雑な気持ちだった。 愛してるけど許せなくて。憎らしいけど愛しくて。 そんな自分でも理解しきれない感情を抱えて眠った。
あたしは9時半に目覚めて。そうるはまだ眠ってた。 あたしはここに昨日の分の日記を書いてからごはんを作った。 和食派のそうるのために。お味噌汁と玉子焼き。 それからそうるの好きな大根おろしを添えた納豆も用意しなきゃ。 冷蔵庫に鮭があったから焼いてもいいかな。 朝&昼一緒になりそうだし、これぐらい量があってもいい。
苦しい気持ちを忘れるように。何も考えないように。 コトコト音を立てながらキッチンに立ってたら。 そうるはようやく起きてきた。
「・・・んー。おはよう。」眠そうに目をこするそうる。 ベッドの上で伸びをして布団をたたむそうる。 あたしの大好きなそうる。
言いたいことがいっぱいあった。 気持ちのすべてをぶちまけてやりたいと思った。 昨日あたしが感じてたこと。 不安とか。嫉妬とか。独占欲とか。 そういう汚い感情のすべてをぶつけたいと思った。
あたしだけが苦しくて。そうるだけが平気で。 そんなのやっぱりおかしい。 あたしだけが我慢して。そうるだけが自由で。 そんなのもう辛すぎる。
言うことはそうるを傷つけるだろうけど。 そうるを傷つけた事実であたしも傷つくけど。 もうこれ以上は抱えられないと思った。
どうやって切り出すべきか考えながら。 あたしは黙ってお味噌汁に入れる玉ねぎを切ってた。 そうるはあたしの背後に来て。覗き込んで言った。 「あ。玉ねぎの味噌汁や。うれし。ありがと。」 そう言って。あたしの頭をポンポンって叩いて。 そうるは顔を洗いに洗面所に行った。
あたしは。涙が出た。
あたしは不満すら言えない。 そうるの前で。ちょっと触れられただけで。 言いたいことはすべて飲み込まれてしまった。 そんな自分が情けなくて。涙が出た。
こんな小さな「ポンポン」でも。 あたしには絶対に失いたくないもの。 今の気持ちを伝えることで。もしこれを失うことになったら。 それ以上に。もしそうる自身を失うことになったら。 あたしはきっともう心が壊れて生きていけない。
そう思ったら。やっぱりどうしても言えなかった。
ねぇそうる。あんたを疑ってるわけじゃない。 あたしの今抱えてるちょっと重い感情をを知ったからって、 あんたはあたしをキライにはならへん。そう信じたい。 でも。でも。どこかで信じきれへんあたしがいて。 もしかしたら。もしかしたら。終わってしまうかもしれへんって。 怖くて怖くてたまらへんあたしがいて。
やっぱりやめよう。心の中に閉まっておこう。 そう思ってあんたが顔を洗ってるうちに涙を拭いた。 もしもバレたら玉ねぎのせいにすればいい。 あたしは泣いてなんかいない。大丈夫。まだ笑える。 がんばらんと。ちゃんとせんと。そう思ってた。 ・・・そんなあたしのこと、あんたは知るはずもないけど。
一緒にごはんを食べて、昼過ぎにそうるは家に帰った。 「来週は試験週間やし、ちゃんと勉強せなー。」って言うそうるに。 「よっしゃ。寂しくなったらあたしを思い出しー。」なんて。 いつものように冗談を言う。そして短いキスをひとつもらう。 いろんなことをぐちゃぐちゃと考えてた頭だったけど。 やっぱりそうるのキスはあたしをちょっと幸せにした。 そんな事実に。あたしはまた苦しくなった。
そうるが帰った後で。あたしはひとりで泣いた。
我慢した。ぶちまけなかった。 でもあたしはちっともえらくなんかない。 言いたいこともまともに言えない。ただの弱虫だ。 キライ。こんな自分は大キライ。 |