ミドルエイジのビジネスマン
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2006年06月04日(日) ミコちゃんとの再会(3)

父の妹に当たる叔母はこの家に後妻として嫁いで来た。小柄で華奢な体つきの叔母にとっては労働力として期待される農家の嫁の役割は過酷であったに違いない。

読経が始まった。それは尼僧の木魚に合わせたご詠歌の詠唱であった。人々はそれぞれに経本を手にしていたが、ありがたいお経もひらがなで書かれてしまっては意味も解るまい。なんとなく意味が分ったのは西国の三十三ヵ寺を描写したご詠歌であった。

どこそこのお寺は庭の花がそれはそれは美しいとか、なにやらという寺は松林を吹き抜ける風が読経のようだとか、また、ある寺のそばを流れる川のせせらぎもお経のように聞こえるという単調なメロディの詠唱は村の女性たちによって延々と繰り返された。なにせ、三十三番まであるのだ。

女性たちのハーモニーは妙になまめかしくもあり、もしこれが薄暗い宗堂の中で行われれば次第に心は高揚し、ついには宗教上の恍惚に至ることも不可能ではないだろうと思った。長いご詠歌もようやく終わり、膳が運ばれてきた。隣に座ったのは、今もミコちゃんと暮らし、地元の堅い会社に車で通っているという三十歳くらいの息子と最近結婚したばかりだという、その妹だった。

ニコニコ笑っている娘の容姿はミコちゃんと、うりふたつと言ってもいいくらいだ。海辺の町で割烹を開いていた旦那さんは5年ほど前に亡くなったという。親父の夢であり形見でもあった割烹は何年も空き家にした後、今はお蕎麦屋さんに貸していると、息子はもの静かに語った。


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