ミドルエイジのビジネスマン
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2006年06月11日(日) ミコちゃんとの再会(最終回)

親戚中が集まったその場の格好の話題は専ら、三十になった息子に誰かいい娘はいないか、ということであったが、ミコちゃん自身は、特に大げさな話し振りをするでもなく昔のようにただ微笑んでいた。そうして、お膳の向こうから何度かビールを注いでくれた。

子供には重すぎて開けることも難しかった、幅の広い大きな引き戸は座敷の入口に今もそのままあり、かつてその向こうにあった土間は、もうなくなっていた。その土間に渡された、長い簾の子(すのこ)の上を走ると床のコンクリートに当たってカタンカタンと音がしたものだった。そのまた奥にあったお風呂は薄暗くて怖かった。

あるものは時を超えてそのまま残り、あるものはいつの間にか姿を消す。叔母は静かにこの世から姿を消し、ミコちゃんは昔の面影を残しながら、もの静かな息子と自らに生き写しの娘とともにそこにいる。

叔母の家に来るために乗った2両連結のディーゼル・カーはもう走っていない。周りに何もない田んぼの中の道を、蒸し暑い日中に母に手を引かれて駅から延々と歩いたことは幼児期のかすかな記憶として残っているだけだ。もう暗くなった帰りの乗換え駅で、待合わせの合い間に母がペコちゃんポコちゃんの絵のついたキャラメルを買ってくれたことも。

帰り際、そのうち手紙を出すからとミコちゃんの息子に無理やり住所を書かせた。どうしたの、と覗き込むように優しく微笑んでくれたミコちゃんの笑顔が、どうしていつも淋しそうに見えたのか、いつか聞いてみたいとずっと思っていたのだが、手紙はまだ、一行も書いていない。


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