レプリカントな日々。

2002年11月21日(木) 紅葉と気配と暗闇と・・・

 いやはや、長いこと生きてると色んな事に出くわすもので。

 先だってのウィークディに、仕事の合間を縫って午前中に紅葉を撮りに行こうと計画しまして、ついでにしし座流星群なぞも撮影しちゃおうと、徹夜覚悟の深夜に出発して、いつものお山の湖に行ったんですよ。
 そのお山の湖に流れ込む川沿いに、元は小学校の校庭らしき広場がありまして、去年も一昨年もその前の年もずっとそこで撮影してまして、かなりお気に入りの場所なんです。ギャラリーにある落ち葉の絨毯はそこで撮影したものです。今は小さな公園のようになってまして、鄙びたトイレなんかもあったりして、水道がありますからコーヒーなんかも淹れられちゃうんですね。
 民家からはかなり離れてますから、夜は真っ暗闇なんですが。
 ところがどっこいしょ。
 その夜はいくら走っても見つからないんですよ。
 既に家を出て三時間近くが経ってましたし、湖の周回も二度目になってて・・・あのですね、基本的に夜のお山だのなんだのといった場所はかなりの好みでして、わざわざそんな場所に一人で静寂を楽しみに行ったりする怪しいオヤジですから、そうした場所で「怖い」と感じたことはほとんど無いんですね。
 ただ、その夜は湖の周回道路に乗ったあたりから、どうしても鳥肌が立って仕方がなかったんです。街灯すらない真っ暗闇ですから、車のライトが当たった所だけが見えているという「トンネル」の中を走っている感覚はいつものことなんですが。
 後部座席に色んな気配も感じますし、なんかやばいなぁと感じつつ、あの校庭?さえ見つかれば大丈夫だと自分に言い聞かせて走ってました。
 湖の周回道路には、そこここに車を停めることの出来るスペースがありまして、少し空が開けた場所では車を停めてオリオン座なぞを確認しておりました。オリオン座の左下に獅子座がありますから。まぁ、お山に行くと稜線で低緯度は見えなくなりますから、オリオン座あたりが限界だったりします。
 え〜、情けないことに怖くて車のライトを消せなかったんですけどね、そうしたら枯葉が私に向かって渦を巻きながら集まってきたり、子供の足音みたいな音を立てて「タタタタタ」って一枚だけ大きな葉っぱが風に逆らって私に向かってきたり・・・。
 まぁ、車の熱で、車を中心に風が起きているんだろうし、大きな葉っぱなんかは周りと違う動きもするだろう、くらいに考えてました。その時は。

 肝心の紅葉は全体の7〜8割くらいが染まってたんですけど、それがもうその湖の周りだけ血の色に見えて仕方ないんですよ。
 車のライトに照らされるその色がですね、とっても怖いんです。(笑)
 参ったなぁと、今夜は降参しようと、二度目の周回を打ち切って引き返したんですね。
 その湖の周回道路から出る時にですね、ちょっとした強い勾配の坂道になるんですが、その坂道を下っている時に「どかっ」と左前のタイヤに衝撃を感じたんです。
 何か道路の段差のようなものに乗り上げた、硬い感覚でした。
 すると、ハンドルが左に取られ始めたんですね。
 すぐにパンクだとわかりました。
 うわ〜と思いながらふと見ると、左右に開けた場所があったんです。
 まぁ、取りあえずそこに退避しようと車を乗り入れました。
 相変わらずの真っ暗闇ですから、山側の斜面から川に向かって開けていることはわかっても、何があるのかはわからなかったんですよ。

 ライトに照らされている所を見る限りでは奇麗な芝生だったので、こりゃあジャッキが支えられないなぁと、ジャッキを支える平たい大きな石でもないかとふと見ると、まぁ!好都合なことに車を停めたすぐ側にそんな石が埋まってるじゃないですか。少しだけ車をバックさせて、幅80センチ奥行き30センチくらいの石の上に、車の左前部を寄せまして、さて、タイヤ交換です。
 山の中の暗闇って、ライトに照らされた場所以外はなーんも見えないんですよ。知らない人が10mも離れて立ってたら絶対見つかりませんね。月夜ではあったんですけど、背の高い木に覆われた一帯ですから、空と稜線を見分けるのもちょっと難しいくらいで。夜目はかなり利く方ですけど、その夜は怖さに目がくらんでいたようで・・・。
 後部のハッチを開けて荷物を放り出し、非常用タイヤを引きずり出します。
 しかしっ。
 んまぁ!どこを探してもジャッキが無いじゃないですかっ。懐中電灯が無かったんで、隅々まで見られなくて見つからないのかと思ってましたけど、どう探しても無いんですね。 斜面に停めてありますからね。開けておいた助手席のドアがいきなり閉まったりもするんですよ。えらく大きな音を立てて。
 参ったなぁ、ここまでJAFを呼んだらいくらかかるんだろう等と思案にくれつつ、あまりの怖さに外に出ていることもままならず・・・。
 仕方がないと、出がけに淹れてきたコーヒーを飲んだり、お気に入りのCDを聞いたりして夜明けを待ってました。
 その時気がつきました。そうです。マニュアルです。ダッシュボードの中にあったはずです。早速取り出してタイヤ交換のページを・・・。
 をを、なんてこったい! この車は助手席のシートの下にジャッキが収納してあることが判明しちゃったんですね。
 もー、なんてお洒落な車なんでしょ。
 早速ジャッキを取り出してうんこらしょっとタイヤ交換ですね。
 交換そのものは数分で終わったんですけど、芝生の上に荷物をほうり投げてましたから、それを回収するのに時間がかかりましてね。おバカなオヤジです。
 荷物は整理整頓して積んでおきましょう。
 丁度その頃に夜が明け始めまして、うっすらと周りが見えるようになってきました。

 んでもって。
 そのジャッキの支えにした石が「階段」であることに気がつきました。
 その階段を目でたどっていくと。
 大きな石碑が立ってまして「慰霊碑」と刻んであるのがわかりました。
 30mくらい離れてましたけど、しっかりその文字が読めるほど、大きな慰霊碑でした。
 うわ〜、ごめんなさいごめんなさい。
 礎石をジャッキの支えにしてしまいましたぁ。
 手を洗い口をゆすいで、ちゃんと手を合わせにいきましたよ。

 幅が30m、山の斜面に向かって奥行き80mくらいの自然の庭のような霊園で、脇には小さな川が流れている、とても奇麗な場所です。道の下側にも、奇麗な芝生を敷いたちょっとした広場もある、元々の起伏をそのまま利用した霊園でした。おどろおどろしい感じは全く無く、不思議と心が落ち着く空間でした。
 椿の木が一本だけありまして、一輪だけ真っ赤に咲いていました。

 引き返した途端にパンクしたタイヤ、私は「何かを踏んだ」という感覚しか無かったんですけど、接地する面ではなく、真横に大きな亀裂が入ってました。すっぱりと。
 修理不能だそうで、新しいタイヤを買いました。
 「縁石の角に横滑りでぶつけたんですか?」と聞かれましたけど「山の中でやったんでよくわからないんですよおお」としか答えられませんでした。
 周回二回、引き返したのも合わせると、そこを通るのは三回目なんですけどね。
 一体何が起きたんでしょう・・・。
 単なる偶然の重なりでしかないといえばないんですけど。
 周回道路を走っている時のあの感覚、パンクをしたタイミング。
 寂しがり屋さんに呼ばれたのかな?とふと思いました。
 次に行く時はお供えと線香を持参します。
 






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