note「マリア」 2002年01月05日(土)
もうすぐ、マリア試験が来てしまう。 あたしは暦を見て少しだけあせり、それから鏡の前で自分の顔を確かめる。 髪の毛は、綺麗なストレートで肩までの長さ。 華美な化粧はだめ。 笑うときは上品に、白い歯を少しだけ見せるように。 隣人を含めて全ての人間に対する慈愛が、最大のポイント。 ──闇で売られている教本の内容が、頭の中をぐるぐるする。 だけど、それが本当にあてになるのか、あたしには解らない。 マリア試験の実態は、合格したごく少数の「貴種」にしか解らない。 不合格になった人間は、皆試験の内容すら覚えていないという。 ああ。 あたしは自分の身体を抱きしめ、嘆息した。 マリア試験を受ける資格を得ただけでも、本当なら行幸なのだ。 普通は申請すら受理されず、工場や農場での労働者になるために、 この未成年ゾーンを追い出されてしまう。 試験資格を得たあたしは、たとえ不合格になっても、 少なくとも管理局の受付くらいの仕事に就くことが出来るのだ。 でも マリアじゃなきゃ駄目。 マリアになって、タワーのてっぺんにある楽園に行くのよ。 白いドレスを許されて、一切の労働から開放されて。 感謝祭の日には、パレードの中心に華々しく並ぶの。 あたしは合格した自分の姿を、一生懸命思い浮かべた。 イメージトレーニングも重要だと、教本にあったから。 もうすぐ、マリア試験が来る。 合格するのは、身も心も清いと認められた少女だけ。 あたしなら、なれるはず。 鏡の中で少しだけ不安そうにしている自分に、あたしはそう囁いた。 |
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