今日もガサゴソ
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2002年11月24日(日) |
砕け散る、季節 17歳 |
私の少女期は、氷の世界に閉じこめられている 純粋な恋は、ただ、ふたりの漆黒の瞳の中で語られていた その感動を再現する言葉を私は知らない そして、いかなる悦びも あの無垢な魂の交歓が生み出した揺れを 呼び起こしはしない
様々な選択や時の流れが、いつかふたりを別々の岸に運んだ どんな恋もいつかは終わる それを演出するために、それぞれが用意したシナリオは 残酷なものだった お互いにそれを選ぶしかなかったのだった
少年は語りはじめる
誰もいない校庭を見つめていたんだ、と 踏み固まった雪が凍って、風が吹いて、僕は凍えそうだった 校庭に、いつも君はいたから、僕は見てしまう でも、君はいない いつだって、僕を置き去りにして 君の不在は僕の心を凍てつかせた 風景から色彩を奪ったんだ
語りはじめた少年の瞳を映している苦い珈琲 その少年を前にして いつも私は言葉を見失う あらゆる時、少年の面影は私を満たしていた 信じるとか許すとか そのような言葉の印象が私を苛立たせる それに比べて この少年は短い言葉でなんと多くの思いを語ることだろう
少年は、君のせいだ、と続ける 君がオレを捨てたのだ 弄び、嘲笑し、見下しながら、そうやって悲しげに微笑して その挙げ句、放り出したんだ 俺に抱かれて我を忘れなかったのは、唯、君ひとりなのだ、と叫ぶ 本当は、愛などありはしなかったのだ、と叫ぶ
鮮やかに、胸が痛いほど鮮やかに、 少年はあどけない無垢を脱ぎ去り男になる そういう瞬間を私は愛する たとえそれが私の肉体や精神を焼くものであっても 誰にとっても短い季節の痛み
慈しみや未練 憎しみや自己憐憫 喪失感や記憶
ふたりがお互いを認めあったときから育んできた 透明で硬質なものが砕け散る
隠されていた感情が奔流となって渦巻き 襲いかかるのを 黙って受け止めていた
私の用意したシナリオは 未だに語られてはいない
言葉ははじめから見失っていた そして その時、涙のかわりに私の頬に浮かんだ微笑について ずっと考えている
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