2002年10月28日(月) >> 業。
ご帰宅されただりんは
すぐさま「ぴことぽぽは?」と、聞いた。
「どこにもいなくて。呼んでも、出てこなくて。
お掃除して嫌がらせしたら怒って出てくるかとも思ったんだけど、でも」
云いかけたあたしの頭を引き寄せて、イツモのように抱きしめてくれた。
涙があふれた。
彼に抱きしめられると、イツモ感情が丸裸になってしまう。
「もういないのが、オマエには“判った”んだろう?
ぴことぽぽは、もう実体なく歩き始めてるんだろう?」
その通りだった。
昨夜聞いたぴこちゃんの鳴き声が、今でも耳元でしていた。
ちょろちょろ走り回っている“影”が
もういないハズのソコに、こんなにも見え隠れしていた。
幻覚やナンかなんかじゃなく
あたしには時折、そういったモノが目に映る。
「ぶたねずみ見に行くぞ。」
「・・・は?」
「ぶたねずみ」とは、だりん云うトコロのハムスターである。(ひでェ。)
「ヤツらの“匂い”が消えない内に、後継者を捜して来るんだ。」
「デモ」
自信がなかった。
「ウチのぶたねずみの歴史は、途絶えさせちゃイケナイんだよ。」
彼があたしに新しい責務を与える事で
コレ以上の後悔と自己嫌悪を重ねさせないようにしている事は理解っていた。
けれどあたしには
そんな気持ちが立ち上がるマデのセッティングが整ってなかった。
不意に
ベッド裏の別荘を確認しようと乱雑にしていたベッドサイドから、シーツを引っ張ってみた。
何となく、「お洗濯しなきゃ。」って思えたのだ。
別荘側に落としていたシーツの端に、トテモ小さな血痕を見つけた。
何とも捕らえようのない声を上げたろうなあたしに、彼は駆け寄ってきた。
シーツを目の前に出して見せると
あたしを引き寄せて強く抱きしめながら、彼はこう云った。
「コレは、ぴこだろうな。ぽぽは多分、ケージの側で。」
うん。そう。
ダカラ、ケージはあんなにズレていた。
「絶対許さねェ。」
彼は繰り返し繰り返し、何度も云った。
苦しかった。ただただ苦しかった。
ぴこちゃんとぽぽちゃんがいなくなった事が苦しかった。
野良猫にとっても生きて行く術なヒトツなんだと判っているのも苦しかった。
あたしの不注意によって引き起こしてしまった事件への後悔が、どうしようもなく苦しかった。
だけど何より
彼がまた何かに対して憎しみを持ってしまう事の方が、イチバン苦しかった。
なのに、ペットショップには行く事にした。
目の当たりにした生命ならば、何か変わるだろうかと思えたから。
ソコには
ちょろちょろと小さな生命が、トテモ大きな生きるチカラに溢れていた。
あちこちのショップをハシゴして
結局は普段ゴハンを購入していたショップから
3匹のジャンガリアンハムスターを連れて帰ってきた。
沢山いたジャンガリアンの中でイチバン大っきいコと、イチバン爆睡してたコと
夜行性なハズのハムスターなクセして昼間っカラ元気だった、イチバン落ち着きのないコ。
今回も全員女の子。
洗いたてのプラケージに買ってきたばっかりのコーヒーベッドを敷き詰めて
3匹を放してみた。
ゴハンを用意してあげると、早速もりもり食べ始めた。
かわいい。
冷蔵庫からキャベツを取り出して
ヤっパり洗いたてなキャベツ用の器に用意していると
急に苦しくなった。
ぴこちゃんもぽぽちゃんもいなくなったのに。
あたしの不注意で何の確認すら取れない状況だってゆうのに。
ハムスターのゴハンを用意して、キャベツをちぎって、体調や体重も確認して。
あたしの生活は、なにヒトツ変わってない。
もし今ぴこちゃんとぽぽちゃんが帰ってきたら
ベッド材がカラっぽなケージと見慣れないハムスターのいる遊び場に
どれだけビっクりする事だろうか。
そんな事を考えていたら
覚悟していた以上の痛みが胸に突き刺さってきて
息が、出来なくなった。
はっきりした別れ方をしていない相手との関係を自分の中に埋め込むのに
どれだけの確かめる時間とこれだけの認める努力が必要な事は
きっと、必要以上にわかっている。
そんな状況を回避する為にも、新しい家族を迎えに行った。
目の前で自分に確認させる為にも、始まった環境をココに作った。
なのに
痛くて苦しくて耐えられなくって
気づけば丸一日中食事を摂っていなかったあたしに
「ちゃんと食べて元気だして、ぴことぽぽを安心させなさい?」
なんて云ってゴハンを口元まで運んでくれた彼に対して
自分の辛さよりもあたしの傷みを気遣ってくれた彼に対して
あたしの目に触れないトコロで涙する彼に対して
八つ当たりをして、自分のコトばっかゆって、些細な事にも耐えられなくなって
ケンカを、してしまった。
小さなカラダの新しい家族のケージには
ついつい
必要以上にてんこ盛りなキャベツを用意してしまっていた。
◇◆◇ めぐ。 |