こんなに好きでもいいですか? すみれ 【MAIL】【HOME】
- 2003年01月14日(火) ツキが巡る
ここ何ヶ月の間で今日ほど素敵な日は無かった。
本当にそう思えるほど最高の一日。
忙しい仕事の合間を縫って、やっと休みが貰えた。
朝から遣りたい事が色々あったけれど、ちょっと寝坊してしまった。
子供を保育園に送ると家に戻って掃除と洗濯。
それが終ると、やっと待ち望んでいた自分だけの時間。
これから夕方まで自分だけの時間だ・・・
そう思うと自然に含み笑いさえ出て来る。
今朝の彼は何時もの検診で病院へ向っているとの事。
お昼頃までに終るので、又その頃に連絡を取り合おうという事になった。
その間、この前トライしてもこなせなかった事を終らせようと思い
私はデスクに座っていた。
彼とランチを一緒に摂ったのは先月の話だったから、
今年に入ってランチを共にするのは今日が初めての事。
私は急いで色々な事をこなしたけれど、
とうとう彼の診察が終るまでには間に合わなかった。
「ごめん・・・終りそうにないんだ」
彼にそう伝えると、
「いいよ。すみれの家の近くまで行くから、
着いたら電話するね」
彼がそう言ってくれた。
そして、15分後には家のチャイムが鳴った。
彼の片手には沢山のSandwicheが入った袋を提げていた。
私が「どうしたの?」
と尋ねると、彼は私が遣りたい事がなかなか出来ないのを知って、
一緒に問題を解決してくれようと、
嫌だった私の自宅に足を踏み入れてくれたのだった。
電話では近くのレストランで昼食を摂ろうと提案した彼だったが、
何よりも一緒に問題を解決してくれようとしているその態度が嬉しくて、
まるで外国映画のワンシーンのように私は彼に飛付いてしまった。
私達は直ぐにSandwicheを頬張った、
本当は白ワインを飲みたい気分だったけれど、
彼はまるっきりお酒が駄目な人なので、それは諦めた。
それから彼がデスクに座ってアレコレと私の遣っている事を見直してくれた。
私は食卓テーブルの椅子を彼の横に置いて、彼の作業を黙って見ていた。
「僕もよく解らないけれど・・・」
そういう割には何でもテキパキとこなしてくれて、ただ私は感服するだけだった。
結果的には人に色々聞く事となってしまったけれど、
彼と一緒にそれをクリア出来た事が何よりも嬉しかった。
最後にずっと使いたいと思っていたソフトをPCにインストールしてくれて、
私の課題は終わりを告げた。
私も遣りたい事がこの何時間であっと言う間に片付いた事が嬉しかったし、
彼の満足気な表情にも喜びを感じていた。
何時も何時も彼と色々な事をしたいと思っていた。
それは彼も同じだった。
御互いに前から「一緒に色々な事を勉強したいね」と合言葉の様に口にしていたし、
今日の様に一緒に何かを達成した充実感を味わいたいと考えて居た。
只・・・二人には時間が無く、それ相応の場所も無かった。
だから今日まで色々な事を諦めてきた気がする。
それが、今日・・・念願だった事が叶った気がした。
本当はもっと色々な事・・・・
例えば好きな日曜大工を彼に習ったり、写真を撮りに出掛けたり、
それから彼の好きな映画を見て二人で朝まで感想を論議したいと思っているけれど
それを考えると又時間が無い事を嘆いたり、
自由に家を空けたり出来ない憂鬱さが遣って来そうだったので
高望みするのをやめた。
とにかく・・・今日は本当に嬉しかった。
彼と一緒に味わう充実感は今までの何よりも変え難い物だった。
「今日の問題解かった?すみれ・・・僕も、もうそろそろ行くね?」
彼がそう言ってここから帰って行くのが少し切なくて、
別段ここに同居人が帰宅したって良いのに・・・とさえ思った。
ここは私の家だし、グルリとそこら辺を見回しても
同居人の物等ほんの少ししか無い。
この家には少し大き過ぎるテレビもオーディオもタンスさえも全部私の物だし、
自分の洋服と僅かな漫画本とCD・・・それが、この家での同居人の財産。
後は私が独身の頃、買い揃えた物達に囲まれながら生活している。
光熱費は滞納し、食費さえも入れてくれない同居人なんて居ない方がマシだ・・・。
「ここから同居人が出て行ってくれれば・・・・」
もうずっと前から思っていた。
只、彼の家族には迷惑を掛けられない。
以前は狂言で終った同居人の失態も、今度こそ現実のものになるだろう。
同居人が土足で彼の家庭を踏み荒らすのは避けたい。
だから、仕方無しに私はチェーンを掛けた。
家を二人で後にしたのは夕方。
別々の車に乗り込んで途中で彼が後ろからパッシングをして別れた。
私は子供を迎えに行き、
その足で先月から同居人の支払いのせいで延び延びになってしまった
インフルエンザの予防接種に向かう所だった。
子供を抱いて保育園を出てフッと玄関前に目をやると、
彼の車と同じ車種が停まっていた。
「やっぱり良いな〜この車・・・」
暢気な事を考えていると、徐にその車のドアが開き人が降りてきた。
それはさっきまで一緒に居た彼だった。
「えっ?なんでここに居るの?」
「どうしたの?」
私はびっくりして咄嗟に彼に質問ばかり浴びさせた。
彼はそれよりも私の子供が大きくなった事に驚いた様子だった。
そういえば彼は随分と私の子供と顔を合わせていなかった・・・。
そう言った。
私も可笑しくて大笑いしながら、
「わざわざ言いに来なくても良かったのに〜
後で電話かメールしてくれれば・・・・」
そう言ってみたものの、
「だって、すみれ達が予防接種に行ってる間に
旦那が帰ってきたらマズイでしょ?」
彼のその言葉でハッとした。
私達はやっぱり、いけない事をしているのだろうか?
好きな人と抱き合う事がそんなにいけない事なのだろうか?
又大きな憂鬱が遣って来ようとしていたので、
「じゃ〜もう行くね」と私は早々にその場を立ち去った。
車の中で、良い方向へ考えようと思った。
今日は沢山彼に逢えたし、
一度別れた後に又彼が私に逢いたくて引き返してくれたと
思えば良いや・・・と方向転換した。
インフルエンザの注射は大人の私でも痛かったので、
子供が大声で泣くのは仕方ないと思う。
去年はあっと言う間に終って本人も何事が起こったのだろう?
と不思議顔だったのが、今年は大泣きしていた。
きっと色々と理解できる年頃になって来た証拠・・・・。
「お兄ちゃんになったんだね」
彼もそう言っていた。
子供が大きくなる頃、
私はどんな生活をしているだろう・・・。
せめて、「ママは正直に生きて来たよ」
そう言って胸を張って居たい・・・・。