いぬぶし秀一の激辛活動日誌

2012年04月10日(火) 聴覚障害者(ろう重複者)支援施設「たましろの郷」

 今日は毎週火曜日朝恒例の「経営者モーニングセミナー」で、橋本聖子参議院議員の講話を聴いた。単なるメダリストが議員になったと思っていたが、そうではなかった。なかなかの苦労人。講演も上手である。これは、また後日書くとして、その後、東京都青梅市にある「聴覚障害者(ろう重複者)生活就労支援施設たましろの郷」にうかがった。先の大田区議会議員選挙で手話通訳をつけたご縁で、今回の視察にお誘いいただいたのだ。

 ここは、聴覚障害(ろう)と、別の障害を重複して持つ方々が共同生活をしながら、作業を行っている施設が。聴覚障害と視覚障害、知的障害、身体障害などを併せて持つ方々が対象で、同様の施設は全国に5ケ所しかないとのことだった。

 蒲田から片道約2時間、JR東青梅駅からさらに奥に入った場所に施設は建っている。この施設の建設にあたっては聴覚障害者の保護者ら、なんと1200人が後援会を組織して2億5千万円を出資して社会福祉法人を設立したとのこと。そして、現在でも毎年1000万円の資金援助が後援会からされているのだという。

 さらに驚きは、その後援会員が誰なのか、すべて匿名で施設ではわからないし、後援会員の子弟であっても、優先的に入所できることはないという点である。あくまで「ろう重複障害者」の希望の施設を未来に残そう、との想いだけで後援会に参加しているとの説明があった。すばらしい!


 自らも聴覚障害者である施設長からは、国の障害者政策がコロコロ変わり、その度に現場が苦労しているお話をうかがった。これは障害者政策だけではなく、あらゆる政策において「現場感覚の欠落」した「賢い官僚」と、それに操られている国会議員によっておこっている現象である。

 当初の障害者政策は「施設型」だった。施設を作り入所、通所をしていただくという考え方だ。ところが、財政的にそれが立ち行かなくなると、今度は「障害者を施設から地域に戻そう」と変わってきた。

 その結果、受け入れ体制が整っていない地域や家庭に、施設で生活した障害者をいきなり戻して、障害者ご本人はもとより、家族や地元の行政にも戸惑いがおきてしまうのだと言う。施設長からは、この施設を退所して地域に戻って不幸な結果になった二つの事例が紹介された。そのうちの一例は、大田区在住の聴覚障害者だった。「地域に戻さずに、この施設で暮らしていれば…」と、施設長は涙を浮かべながら悔しそうに訴えられた。

 現在は31名(最高齢74歳)の入所者が暮らしていて、15名の待機者がいるとのこと。実際にには、都内に約3万5千人いる聴覚障害者のうち3000人が、このような施設利用の対象者と推測されるらしい。とすれば、都内で、ここだけというのは、あまりにも心細い数である。

 しかし、国や都に定員増を要求しても「現在の入所者を地域へ戻せ」と言われるだけで埒があかないと施設長は嘆かれる。また、国や都は「生活の場と作業の場を別にしろ」と法律改正を行った。(現在は同じ建物内)が、その予算措置はないのだそうだ。したがって、現在の状況は法律違反なのだという。


 素晴らしいのは、この施設に入所、通所している障害者の方々の作業は、一切企業の下請けはしていに点だ。公共施設や企業の清掃作業では、様々な失敗を繰り返しながら、いまではみんなプロ並の清掃技術を持つまでになったそうだ。その結果、もっとも高い給与を取る方は月額六万円になるそうだ。

 昼食は障害者のみなさんと共に食堂でいただいた。多くの障害者の方が声(実際には手話や動作で)をかけてくる。手話初級最下位修了生としては、なんとかしなければならない。必死に手話を出していると、傍らから大田区で顔見知りの手話通訳者の方が見ている。曰く「犬伏さんの手話能力をチェックしなくちゃ」と。お願い勘弁して!

 ある入所者の女性が声をかけてきた。「どこから来たの?」肉声でである。あれ?と思ったが、手話で「おおたくから」と出したところ「手話がわからないから筆談で」と言われた。

 事情をうかがうと、彼女は44歳を超えたころから聴力が落ち始め、現在ではまったく聞こえないのだそうだ。手話はわからないので、入所者とは筆談で話すから、あまりコミュニケーションが取れないそうだ。中途失聴者で手話がわからないと大変だろうな、と最近聴力が落ちてきた自分とダブってしまった。

 「午後はお掃除頑張るの!」とうれしそうに手話で何度も話しかけてくる女性、お茶飲めば?とか、いろいろと気を使ってくれる男の子等、みんな明るく優しい。

 まだ山桜の蕾も見られない高台のこの地での生活が、楽しいものであるよう願って施設を後にした。


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