2006年07月21日(金) |
大田区無防備平和条例直接請求否決 |
先日来書いている「無防備都市宣言」を大田区がせよ、との条例制定の住民直接請求の審議が今日あった。まずは、本会議場において、請求代表者ら2名による意見陳述各10分。一人目は、前回の区議選に立候補落選したO氏。情実に訴える学生平和作文コンクールのような印象だった。二人目は、この運動の大田区の事務局長M氏。内容には賛同できないが、論点を整理していて、いい陳述だった。マスクもいいし、区議選にでも出馬したら当選するのでは、とは、彼よりもマスクのいい(?)荒木秀樹議員の言葉だ。
その後、防災・安全委員会に付託されたが、傍聴者50人、議員傍聴10人、議会事務局長、担当係長、さらには議長と、3方向から見られている委員会は初めての経験だった。
途中、議会規則により認められている「委員外議員の発言」を利用して、野呂恵子議員が質問。事前に委員会で打ち合わせたとおり、これを認めたが、答弁を含めて3分という時間制限はいかにも短かった。さらに、内田秀子議員が、同じく委員外で質問を要求したが、委員長は「認めません」と。同じ部屋にいること、また、議員には発言の機会を保証すべきとの思いから、「いいじゃないか」と発言したが、委員会の雰囲気はNO。理由は二つ。 1.同じ会派から委員が出ている(但し、この会派は賛否が分かれている) 2.事前に通告がなかった 自分達と反対の言論は、発言を制限するとの態度には、残念だった。
最後に、各会派態度表明と討論を行い、委員全員の反対で否決。本会議では、予想通り生活者ネットワーク2名、緑の党1名のみが賛成で、最終的に条例案は否決された。私の討論は以下のとおり。
私は、ただ今上程されました、第86号議案大田区無防備平和条例につき、所管委員長報告に賛成、すなわち条例案に反対の立場から討論いたします。 私は、航空予備自衛官として、防衛庁長官より訓練招集命令を受け、さる7月7日より5日間、茨城県百里基地に所在する第7航空団において訓練を受けてまいりました。その訓練の中、さる4月にロシアの偵察機に対し、一日6回もの緊急発進通称スクランブルがかけられた事実を教えられました。さらには、この日をもって、スクランブル回数が、なんと2万回に及んだというのです。特に、最近はロシア、中国の経済が好調に転換したようで、冷戦構造後激減していた領空侵犯事案が増加傾向にあるそうです。また、国民的注目を集めた、犯罪集団北朝鮮によるテポドンミサイル発射など、我が国を取り巻く国際情勢は、日々緊張の中にあると言っても過言ではないのです。 そのような現実を見るにつけ、今回の条例がいかに非現実的なものか、また、このような行為の審査に、区民の貴重な税金100万円余りを費やしていることは如何なものでありましょうか。ただ、付け加えるならば、その方法や目的には到底賛同しないまでも、15000人もの区民に対し「直接請求」という、住民自治についての啓蒙活動をして頂いたご努力には、敬意を表したいと思います。 さて、それでは、この条例案がいかに不適切なものかを述べてまいります。まず第1点目は、地方自治体がこの条例を制定することができないという点であります。地方自治法第1条の2において、「国際社会における国家の存立にかかわる事務、(中略)全国的な視点にたっておこなわなければならない施策」は国が担う、と書かれております。当然のことながら、国家の防衛については、これに相当し、国が所管するものと考えられます。そして、同法14条では、地方公共団体は法令に違反しない限り条例を制定することが出来る、と述べております。すなわち、本条例案は、地方自治法第1条により、国の事務とされることにつき、大田区で条例を制定する、との趣旨でありますので、14条に違反することになります。また、さきに公布された、国民保護法により、地方自治体は国の方針に基づき、国民保護について措置を推進する責務があり、この法律にも違反する条例となってしまうのです。さらには、ジュネーブ条約第1追加議定書第59条により、無防備都市宣言に必要な4条件にある戦闘員、移動兵器の撤去や、軍用の施設を敵対目的に使用しない等の決定は、自衛隊法に基づき内閣総理大臣の所管事務となり、大田区長によって、これらの条件を満たすことは出来ないのです。 次に、宣言そのものが出来ないという問題について述べたいと思います。 先ほど述べましたように、ジュネーブ条約第一追加議定書第59条には、宣言をするための4つの条件をあげています。
1.すべての戦闘員並びに移動用兵器及び移動軍用設備が撤去されていること。 2.固定した軍用の施設又は営造物が敵対目的に使用されていないこと。 3.当局または住民により敵対行為が行われていないこと。 4.軍事行動を支援する活動が行われていないこと。
1,2については、国の権限に属するもので、大田区の権限により行うことはできないものであります。3.についても、66万区民に対し、占領軍に対し敵対行為をするな、と大田区が命令を出すことは非現実的であり、少なくとも、私は最後まで敵対行為を維持するつもりでおります。 4については、国民保護法、武力事態対処法など関連法規により、大田区は支援協力が義務付けられており、これを拒否することはできないのです。 以上、4条件いずれも、大田区の権限では達成できず、たとえ条例が制定されたとしても、宣言の条件が揃わないことになるのです。 また、赤十字国際委員会のコメンタール(解説集)2283には次のように書かれております。
原則として宣言はその内容を確実に遵守できる当局によって発せられるべきである。一般的にはこれは政府自身となるだろうが、困難な状況において宣言は地域の軍指揮官、または市長や知事といった文民当局によってされることもあり得る。もちろん、文民当局により宣言が発せられる場合は、宣言条件の遵守を確実にする手段を唯一持っている軍当局との完全な合意のもとになされなければならない。 つまり、宣言を発するのは政府であると述べており、それが困難な状況、例えば有事にあって、もはや無政府状態であるような場合には文民当局、すなわち自治体にも宣言が出来ると規定されているのです。しかし、その場合であっても、軍当局との完全な合意が必要であると示されており、我が国における軍当局とは国際的に自衛隊でありますから、自衛隊の合意がなければ宣言ができないのであります。同様の理由から、平成16年6月24日国立市長の「自治体において宣言は出来ないか」との質問に、政府は公式に「出来ない」と回答しております。 このように、条例制定は法令違反であること、万一制定したとしても、宣言が発せられない、この2点から本条例案はまったくその制定の意味をなさないものであります。 以上申し述べました理由から、日本国を、大田区を、そして家族を愛してやまない私は、このような国家を捨て、白旗降伏宣言を大田区に強制する条例案には到底賛同することはできないのであります。 大田区においては、今後も日本国憲法や大田区平和都市宣言の精神を遵守し、区民が安心して生活できる平和な街を守っていくこと、それこそが、今回署名した15720人の平和を願う区民の思いに応える方法であると思います。今、この瞬間にも、このような不毛な議論など気にも留めず我が国の平和と独立を守ってくれている全国24万人の陸海空自衛官に感謝しつつ、私の原案に反対する討論と致します。
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