人妻の裏心 『皮肉な幸せ 3』 - 2005年06月22日(水) 車は高速道路を快適に飛ばしていた。 「ほら、向こうのほうに小さくみえる山あるでしょ? あそこだよ。」 彼が指差したのは、遠くの景色の中にかすかに見える小さな山。 「えっー!遠すぎない?時間までに帰れるの?」 「そう思うでしょ?でも案外、近いんだよ。」 実際、彼の言うとおり遠くて小さかった山は1時間もしないうちに どんどん大きくなって近づいてきた。 車をとめて外にでる。 澄み切った空気がなんとも清々しい。 ときおり聞こえる鳥の声が、夫に対してうしろめたいアタシの気持ちを かき消してくれる。 「この上に、すごくいい場所があるんだ。ちょっと登ってみる?」 「うん!」 山に登るにはあまりにも不釣合いなアタシの格好ではあったが・・・。 ヒールのサンダルにスカートではねぇ。 けれども、好奇心いっぱいのアタシは彼のあとについて登りはじめた。 途中滑りそうになって、はじめて彼と手を繋いだ。 いい年なのだから、手を繋いでドキドキするなんてことはないけれど、 若い頃を想い出し懐かしさを感じて心地いい。 突然、今までの暗く細い道を歩き続けたアタシの目の前に まるで聖域みたいな場所がひらけてきた。 周りは山の木々で囲まれているのに、天からスポットライト があたるように真ん中だけ開けていて、周りは白い砂利に 囲まれたその中央には10メートルほどの底まで見通せそうな ライトグリーンの池がひっそりと佇んでいた。 「わぁ!素敵。。。。」 素直に感動が口にでる。 山からの湧き水が小川となってこの池に流れこんでいるらしい。 そして、この池はダムの役目もはたしているのか、 池の端にはコンクリートで塀ができていて、その中央から 池の水が数十メートル下まで落ちている。 「そうでしょ?こっちにきてごらん。もっとすごいよ。」 彼はそういいながら、わずか30センチ程の横幅の塀の上を渡りだした。 「怖いよ。足がすくんでいけないし。」 万がいち30センチの塀を一歩踏み外せば、谷へと真っ逆さまへと 落ちて助かることはないだろう。 「大丈夫。すごい景色がみれるから、来てごらん。」 ここまできて、さらに素晴らしい景色を眺めずに帰るのも もったいないかなと、恐る恐るその細い塀の上を歩き出した。 ほぼ半分ほどいったところに2人は立った。 「すごい・・・・・・」 それ以上の言葉は出ないくらいに素晴らしい眺めだった。 遠くのほうに、彼がすんでいる街の巨大なビルがかすかに見える。 あんなゴミゴミした街なのに、あんなにちっぽけに、 まるで、アタシ達は宙にういているみたいに感じた。 アタシの後ろには波紋ひとつないひっそりとした穏やかな池。 アタシの前には無限大にひろがっているかと思わせるような 壮大な景色。 けれど、一歩前へ踏み出せば奈落の底に落ちてしまう危険な境の上に アタシはいる。 足が震えた・・・。 まるで、今のアタシの状況をあらわしているようで。 穏やかな池のように波紋ひとつない夫との生活を抜け出して、 危険を伴うと知りつつも自分の好奇心を満足させるためだけに 未知なる世界にこのまま突き進んでいいのだろうか? 遥かかなたの海を見ながら、そんなことを考えていると 彼がアタシのほうを向いて言った。 はぁ?あなたは一体どこの人ですか?(笑) -
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