パラダイムチェンジ

2006年07月30日(日) 朝まで生テレビ

金曜日の深夜、夜更かしをしたついでに「朝まで生テレビ」の、
「靖国、A級戦犯合祀問題」を途中まで見た。

その中で感じたのは、司会の田原総一郎をはじめとして、靖国問題や
東京裁判の問題を論じるときに、どこか、「あの時敗戦しなかった
日本」もしくは、「そもそも戦争を起こさなかった日本」という、もう
一つの日本というものを思い描いているのかな、という気がしたので
ある。

つまり改憲論や、「普通の国」を目指せという人たちにとっては、
今の日本のおかれた状況というのは、未だ占領下の日本であり、真の
独立というか、日本の歴史をやり直したい、という欲望が隠されて
いるような気がするのだ。

ただ、そこには一つ、抜け落ちているものがあると思う。
もしも61年前、日本が敗けなかったら、もしくはその時、戦争放棄を
うたった第9条を持つ日本国憲法を、連合国の言いなりで制定しない
日本がいたとして、その日本が、現在の様に同じく繁栄しているか
どうかはわからない、という事である。

内田樹が以前、9条に絡んで書いていた話に、もしも戦後の日本が
普通の国として、朝鮮戦争、ベトナム戦争に出兵し、現地で沢山の
現地人を殺していた場合と、今のように9条があるが故に世界の中で
は例外的に一滴の血も流さない「特殊な国」であることと、どちらが
日本の国益にかなっていたか、という話があったと思う。

日本が今のように繁栄できたのは、冷戦構造の高まる中、隣の朝鮮
半島で戦争が起こり、アメリカの核の傘の下でアジアにおける米軍の
戦略拠点、前線基地の役割を果たしながらも、日本はいっさい戦争に
巻き込まれず、経済発展にいそしんできたからだと思うし、その経済
発展にしたって、日本の敗戦を目にした日本の国民たちが、物の豊か
さこそが幸福なのだ、とある意味転向したからこその様な気がするし。

すなわち、日本が今日経済発展を遂げられたのは必然ではなく、様々
な要因が絡まったが故にこうなれたんだと思うのだ。


今現在は、かつての冷戦構造はすでに崩壊し、今まで極東アジアでは
戦争が起きずに済んでいたのが、確かに段々ときな臭くはなってきて
地域間紛争が将来起きるかもしれない、という可能性は増してきて
いると思う。

その時に、現在の政府は日本が「普通の国」になって、国連や世界に
対して金だけではなく血も流せるが故に、自立した国として発言権を
増したい、という気持ちがあるのは、まあわかる。

ただ逆に言えば、少なくとも中国にとっては、それであるが故に、
日本が普通の国になるのは好ましくない、と感じるのだろうと思う。
だって、この先自分達も実力をつけてきて、イニシアチブを取りたい
と思っているときに、日本の発言権がアジアや世界で増してくるのは
好ましくないだろうし。

だから、という形で今がラストチャンス、みたいな気分を盛り上げて
日本を普通の国にしたい、戦後の日本をやり直したい、と思うのは、
わからなくはないが、でもちょっと待って、という気もするのだ。


私自身が、改憲だったり、日本が普通の国になることに、今違和感を
感じるのは、日本で60年前の反省と総括がなされていない、と思う
ことに関係がある。

この話題は、今回の「朝まで生テレビ」でも取り上げられていて、
戦争を始めた責任は、いったい誰にあったのか、という形で取り上げ
られていたんだけど、そこで印象的だったのは、ハルノートがつき
つけられた時、日本の資源量からいって、日本が戦争を起こせば敗け
るのは自明の理だったんだけど、その時、政府も軍の上層部も、軍の
下部組織や、国民の好戦論という雰囲気を抑えることができなくて、
日本は戦争に突入したのだ、という意見だった。

もしもその時、アメリカの要求どおりに、満州をあきらめることが
出来れば、戦争に突入することはなかったとしても、とてもそれが
出来る雰囲気ではなかった、というのが、この番組に出ている政治家
および元外交官の一致した意見だったことにビックリしたのである。

確かに、日露戦争で日本が有利な条件で講和した時でも、新たな領土
を獲得できなかったとして、それを不満に思った民衆によって、日比
谷で焼き討ち事件が起きたのは知っている。

もしもハルノートを受け入れたら、当時の日本の政権は持たなかった
のかもしれないし、クーデターが起きていたのかもしれない。
日本国民自体が、結局痛い目を見なければ、わからなかった事なの
かもしれない。
それにしてはあまりに多くの血が流されたと思うのだが。

でもね、本当の日本の国益を考えるのなら、あそこで踏みとどまると
いうか、時代の雰囲気だけに流されない事ができなきゃいけないと
思うし、それについてあの時は仕方がなかったでは済まされない問題
だと思うんだよね。

その結果として、どこに責任の所在があるのか明確にならないまま、
陸軍と海軍ではそれぞれ別の方向を向いていたずらに戦線を拡大した
挙句に、敗戦を迎えてしまったのが戦前の体制だとするならば、
もしも、今の日本で同じ状況になったとしても、同じことが繰り返さ
れるんじゃないのかな、という懸念をどうしても拭い去ることが、
(今回の国会議員や元外交官の意見を聞いていても)できないのだ。

だって、国境付近の緊張がどんどん高めておいて、それに呼応して
国民の感情が高まっていった場合に、政府の中枢がそれをコントロー
ルすることができずに、自動的もしくはある一定の確率で暴発して
しまうというシステムに対して、安心して命を預けようという気
には、あまりならないと思うのである。

だったら、今回の番組でも姜尚中が言っていたように、日本が普通の
国になるよりは、立場をはっきりさせるのではなく、まだ曖昧な立場
で、特殊な国でいられる内は戦争を放棄した憲法を持つ特殊な国で
あっていいような気がする。
というより普通の国になるためには、その辺のシステムの瑕疵みたい
なものをまず是正しないとまずいんじゃないかと思うし。


そもそも、戦後の日本って、そんなに恥じ入るほどの悪い国だったの
かな。60年間戦争に巻き込まれなかった国というのが、近代史上でも
稀な国で、敗戦後ゼロの状態から、たった30年くらいで世界第2位の
経済力を身につけた国が他にないとするならば、それは安部晋太郎が
自分の著書の副題に「自信と誇りの持てる日本に」なんて書く以前に、
充分私たちが誇りに思っていいことなんじゃないのかな、と思うので
ある。


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