Number613号は、欧州サッカー特集なんだけど、262安打を打った イチロー選手のインタビュー記事も載っている。
そこで、シスラーの257安打に並ぶ直前の、イチロー自身の記録達成に 対するプレッシャーについて、イチローが語っているのが興味深い。
「あの日、1打席目の打席に入る前、すごく緊張している状態で、自分で 普通じゃないというのがわかったんです。オークランドであと1本に なってからの3つの打席でヒットが出なかった、そのことがプレッシャ ーを与えるであろうことは明らかでした。ですから、シアトルでの1打 席目がすべてを決めると思っていたんです。そこでもし1本がでなけれ ば、どんどん苦しくなる。ひょっとしたら、3試合で1本出るかどうかも わからない・・・そこまで思っていましたから、その1打席目というのは、 普通ではいられませんでした」
果たしてイチローは、その1打席目であっさりシスラーに並んだ訳だが その打席について、それがどれだけ苦しかったのかを語っているので ある。詳しくは雑誌を手にとっていただくとして。 やっぱりイチローも人の子なんだよなあ、という当たり前の事を思った わけですね。
ちなみに今季のイチロー選手、7月以前の打率が.315に対して、7月以降 が.423。 その好調の原因について、7月にバッティングフォームを変えたことに あると指摘したインタビュアーの石田雄太に対して、イチローがこう 答えている。
最初はスタンスだった。 7月1日、シアトルでのレンジャース戦。試合前のバッティング練習でバ ットを握ったとき、イチローの体が、突然、ある試みを要求してきた。 「球場に着いて、バットを握って、ケージの近くにいった時、ふと、右 足を少し引いた状態で構えてみようと思いました。そうしたら懐が広が って、ピッチャーとバッター、ボールの三角形を今までよりも立体に見 ることができた。新鮮な感覚でしたね。そこで、右足を引いた状態のま ま、今までのように背筋を伸ばそうとすると、スタンスが狭くなる。 最初はそこだったんです。僕はボールを線で捉えるバッターなので、そ の線にいかに早く入れるかどうかということが大事になってきます。 頭ではその線に入っているはずなのに、体とバットがその線にキッチリ と入ってこられない。それがミスの原因になっていた。それが、その三 角形を立体的に見ることで、線に早く入ることができる感覚を得たんです」(略)
「最初にその感覚を得た7月から、僕の中では何も変わっていない。でも その頃とシーズンの最後の頃は全然形が違うんです。ビデオで見ました けど、明らかに違う。でも、僕の中ではまったく変わらない。とにかく 構えた時、気持ちいいんです。おもしろいのは、今の自分のフォームを 見たら、子どもの時に戻っているんですよ。小学生の時のフォームに戻 ってる。感覚もそれに近いんです。子どもの頃はストレートしか投げて こなかったし、そういう感覚も当然だったかもしれませんけど、プロに 入ってからはどの球もヒットにできるなんて感覚にはなかなかなれませ んよね。なぜそうなったかというのは、想像でしかないんですけど、 子どもの時って、純粋に自分の体を使っているんです。余計なものは 何もない。自分が一番気持ちいい形でバットを振っている。それが大人 になるにつれて、純粋じゃなくなってくる。それによっていろんな思考 も生まれてきてしまうんでしょう。(略)」
子供の頃の感覚が今でもわかるというイチロー選手はスゴイという気も するが、でもそういう感覚って、ある時突然思い出したりするものなの かもしれないな、と思うのである。
でも、イチロー選手って、元々自分の型にこだわる選手なんだけど、 それがバッティングフォームではなく、気持ちの型とでも言うべき ものに変化しているっていうのは、興味深い。 つまり、自分自身の中にしっかりとした芯が通っているって感じなの かもなあ、とも思うのだ。
ちなみに自分の今後について、最後にこんな言葉も残している。
上り詰めれば、孤独が待っている。 30歳にしてこれだけのことを成し遂げてしまった今、イチローはいった い、どこを目指していけばいいのだろう。
「すぐそうやって言われますけど、何かを追いかけてた時も、きっと 凄いんだろうな思ったものが本当に凄かったことって、あまりないん ですよ。(略)
だから、人と比較をするという価値観は僕の中からはもう消えていま す。僕は僕の能力を知っていますから、いくらでも先はあるんですよ。 人の数字を目標にしている時というのは、自分の限界より遥か手前を 目指している可能性がありますけど、自分の数字を目指すというのは、 常に限界への挑戦ですから。メジャーで感じる孤独感なんて、最高じゃ ないですか(笑)。
一つだけ言えるとしたら、メシのタネに野球をやっている選手では、 絶対にここまでは来られないと思います。野球が生活の手段になって しまったら、もっと前に進みたいという気持ちは消えてしまいますから ね。こちらでも、野球が生活の手段になってしまっている選手はムチャ クチャ多い。そうなないと感じさせてくれるのは、ティム・ハドソン、 マイク・スウィニー、マイケル・ヤング、バーニー・ウィリアムス。日本 なら松坂大輔、上原浩治、あとは坪井智哉・・・・・・順不同で(笑)」
うーん、メシのタネというのは、耳が痛いところではあるが。 でも、そういう気持ちを持ち続けていけるというのも、才能なんだと 思うのである。 イチローになれることはできなくても、そういう気持ちで仕事にあたる 人間でいたいものである。
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