パラダイムチェンジ

2004年08月04日(水) サッカーアジアカップとブーイング

サッカー日本代表が、アジアカップ準決勝でバーレーンと死闘の末、
勝ち残って決勝へのキップを見事手にした。

対バーレーン戦は、TV中継をずっと見ていたんだけど、目の離せない
展開で、手に汗を握る試合展開だったと思う。
序盤早々に相手に先取点を取られるは、追いついて逆転したら追いつか
れるは、そして終盤にふたたび相手に点を取られた時にはもうダメか、
と思ったら、試合終了間際に中沢のヘッドで見事同点においつき、延長
戦へ。

そして延長前半早々に玉田が今日2点目を入れ、その後は選手の疲労も
ピークに達しながらも、見事に勝ちを拾う事に成功したのである。
いや、本当にお疲れ様でした。

とにかく連戦で疲労がたまり、試合間隔も狭く試合会場では日本に
対するブーイングの吹き荒れ、ピッチコンディションも悪い中、
当たり前だが勝ちにこだわり、粘りに粘って手にすることのできた
この勝利は、選手や監督のジーコにとってはとっても貴重な体験に
なるんだろうと思う。

久保、高原、中田、小野、稲本などの選手抜きでも決定力を持つことが
できるほど、日本代表全体のレベルアップも図れているんだろうし。
逆に選手たちにとっては、自分たちがここまでやれているというのは、
すごい自信につながるんだろうなあ、と思うのだ。


その反面、今回のアジアカップでは外野の声が騒がしいらしい。
すなわち、重慶、そして今回の済南と、試合を見に来ている中国人サポ
ーターのブーイングが、やかましいらしいのである。

その勢いはそのことについて述べた内田樹のBlogにまで飛び火して、
コメント欄で賛否両論を巻き起こしているらしい。
詳しい内容はリンク先に飛んでもらうとして、それを読んだ私の意見と
しては、一つのものの見方として有効、だと思うのである。

内田樹がそこで述べているのは、
1)中国は江沢民時代に、愛国・反日教育を行なっていた事
2)そして今の中国は、地域格差、所得格差により、13億の国民を「大
中国」としてまとめあげる事が困難になりつつあるという事
3)そしてその中国をまとめあげるための方便として、政府は反日とい
うナショナリズムのカードを切ったという事
4)それ自体は不愉快な事だが、中国が統御不能になった場合の周辺に
対する影響を考えれば、まだましであるという事。

この意見の全てに賛成するわけでもないが、中国という国を考える上で
の、一つのものの見方になるんじゃないかな、と思うのだ。


そしてこの日記がウェブ上で物議を醸し出した時と同じくして、
東京新聞の8/1特報欄に、同じくアジアカップでのブーイングの記事が
載っていた。
こちらで気になったのは、現地におもむいているサッカージャーナリス
ト、大住良之の意見である。以下引用すると、


「日本人だからといって競技場の外で嫌がらせを受けたことはない。
日本人サポーターも同じことを言っていた。競技場の内と外があまりに
違うので不思議な感じすらする」


すなわち、あの反日的ブーイングは、競技場にわざわざ足を運んでいる
中国人たちによって行なわれているものであり、重慶全体が反日的は
不穏な空気になっているわけではない、という事である。

こちらの紙面でも、やはり識者の意見を引いて、江沢民時代から行なわ
れた愛国主義教育の延長上に今回の反日感情があり、社会主義イデオロ
ギーが実質的に廃れていく中国で愛国主義は13億の人民を束ねる求心力
として働いてきた、と指摘する。

でもその一方で、重慶は現在経済発展の真っ最中であり、その大部分を
日本からの円借款に頼っている側面もあることから、中国共産主義青年
団の機関紙では、その反日的行動を強く諌める論調もあるらしい。

曰く、「もし日本チームが選手とサポーターの安全のためにアジアカッ
プから引き上げることになれば、アジアのサッカー史上最大のスキャン
ダルとなり、中国にとっても恥ずべき1ページともなる。2008年の北京
五輪が待っていることを忘れてはいけない」


だから必ずしも中国人民が一体となって日本人を排斥しようと躍起に
なっているわけでもないらしい。
でも、これって考えてみれば当たり前の事だと思うのである。

なぜなら、たとえば北京、上海で日本企業と提携して商売を成功させて
いる中国の超リッチ層は、内心で反日だと思っていてもそれはおくびに
も出さないだろうし、また、日本人との接点が増えれば増えるほど、
その気持ちは薄れてくるんじゃないかな、と思うのだ。

私自身、数年前に北京に旅行に行ったことがあったが、その時に嫌な
ことをされた経験はほとんどない。
それも当たり前の話で、彼らにとっての私はいいお客さんだったから
だと思うのである。ま、そんなに金は落としてないけど。

それは日本人だって同様で、2002年の日韓ワールドカップ以降、韓流
ブームも手伝って、韓国や韓国人に対しては、今まで以上に親しい
気持ちをいだく人もいれば、その一方で相変わらず2ちゃんねるの書き
込みで、韓国・朝鮮系の人を毛嫌いし、差別する人間もいる。

今回のこの騒動は、そんな風に今まで日本とほとんど接点を持たずに
日本に対する反感教育を受けてきた中国人たちと、日本人が大きな
競技場で一気に出会ってしまったが故に起きた出来事なんじゃないの
かな、と思うのだ。

で、個人的には差別に関しては、差別をすることで得ることのできる
優越感と、そのことによって失うものを考えれば、差別をしない事の
方が賢明であると思う。

だから今回のように日本がおもむいた先で反日運動が今後も行なわれる
可能性はあると思うが、そのことに対して日本が過敏に反応して反中国
に傾いてしまうのも、ちょっと違うんじゃないのかな、と思うのだ。

なぜならもうすでに日本にとっても中国との関係を一方的に切ることは
考えられないほど、両国の関係は深まっていると思うからである。

そしてそうであるならば、今後の日本はただ叩かれるだけではなく、
たとえば韓国が韓流ドラマや映画を輸出してイメージを変えたように、
日本流文化を中国に浸透させていく、という方法だってあると思うの
である。

だって、いくら経済援助をしたってそれだけではあまり尊敬されない、
という事は今回の重慶で明らかになったわけだし。

それに、これは以前日韓ワールドカップの時の韓国についても 書いた
事だけど、今まで中国の普通の一般人が海外と接点を持つことって
あまりなかったことだと思うんだよね。

だから彼らも世界から自分たちがどう見られているのか、という視点を
北京五輪などで持たざるを得なくなれば、ただナショナリズムに燃えれ
てればいい、という立場から自然と変わっていくんじゃないのかな。


でも、今回の騒動に限らず、日本と中国の関係って、最近ニュースに
なりやすいような気がする。
逆にいえば、今回の騒動も、そういう中国との関係がちょっとギクシャ
クしているように見えているからこそ、これだけのニュースバリューが
生まれているともいえるのかもしれない。

多分石原慎太郎あたりは、なんて発言しているのかは知らないけれど、
それ見たことか、と気炎を上げているんだろうなあ。









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