2004年06月21日(月) |
「上司は思いつきでものを言う」 |
という事で今回は読書ネタ。 今回取り上げるのは、橋本治の「上司は思いつきでものを言う」 この本、とても面白くて、一気に読んでしまった。
この本でいう所の「上司」とは会社の上司である。 私は、会社員経験は一度もない。それでもなお、何故この本が面白 かったかといえば、「上司が思いつきでものを言う」事が問題になる 位、停滞している日本という社会の現状について、橋本治がどう考えて いるのか、わかったような気がしたからである。
この上司を例えば小泉首相に代えて「総理は思いつきでものをいう」 でも、「政治家は思いつきでものを言う」でも、「官僚は思いつきで ものを言う」に代えて、例えば今回の年金議論を考えてみると、何かが 見えてくるような気がするのだ。
で、この本で橋本治は何故「上司は思いつきでものを言う」と書いて いるのか。
それは上司には現場がなく、ただ上司というピラミッド組織の一員に なってしまっているからだ、と書いている。そして何故、上司には現場 がないのか、といえば日本の高度成長で会社という組織が大きくなり すぎ、また収益を上げてくれた現場がやせ衰えてしまったからだ、と 説く。
そして更におそろしい事には「官僚という組織は常に上意下達がある のみで、下からの声が上に上がる事がなく、現場が必要ないからだ」 と書いている。
と、いうかこれだけ読んだら「何のこっちゃ」ですわね。
でも、これに小泉首相や政治家や官僚がなぜ、思いつき(のような) 発言を繰り返すのか、と当てはめてみると、「彼らには現場がない」 すなわち当事者意識がないからだ、という仮説にたどりつくわけだ。
そしてそれは養老孟司の「政治家は果たして本気でものを考えている のか」という話と重なってくると思うのである。
では、そういう思いつきでものを言う上司や政治家に囲まれた私たちは どうすればいいと橋本治は言っているのか。
それは、人間的に「本気ですか?」とあきれてみせればいい、らしい。 その部分を引用すると、
簡単です。あきれればいいのです。「ええーっ?!」と言えばいいので す。途中でイントネーションをぐちゃぐちゃにして、語尾をすっとん きょうに上げてください(略)。
あなたが内心でいくらあきれても、それは、上司に伝わっていません。 上司には、「部下にテキトーな思いつきでものを言って、部下からあき れられた」という経験がないのです。
「批判される―そのことによって"してはならないことをした"と学習す る」という機会を奪われているのです。しつけのない犬と同じですか ら、もう、思いつきでものは言いっ放しでしょう。
と、いう事である。
いや、でもマジでそろそろ、あきれてみせないと、この国の「上司」 たちは、思いつきで、さらに事態を混乱させていきそうな気もするよ なあ、と思うのである。
また、この本には他にも、面白い部分があって、特に面白かったのは、 「よーく考えて」の罠である。
大人になったあなたが「よく考えて下さい」という決断を迫られる時 は、あまりいい時じゃありません。悪いセールスマンは、「よくお考え 下さい」と言います。悪くなくても、自分の利益を考えるような人は、 「よく考えてください」と言って、相手を説得します。どうしてかと いうと、「よく考えて下さい」と言って相手に決断を迫る側は、自分の 都合のいいように、相手の思考の方向をあらかじめ設定してしまって いるからです。「我々の誘導通りにお考えになれば、あなたは損をし ないのです」というガイドラインが設定されているからこそ、「よく お考えになって下さい」という勧誘が成り立つのです。
問題を出す側が、あらかじめその答えを知っている―だから、「よく 考えて」は勧誘の言葉になるのです。
そう思って、あの「♪よーく考えよー♪」のCMを見ると、CMとしては、 私たちの無意識に働きかける希求力はすごいんだなあ、と思ったり。
個人的にこの本がなぜ、そんなに面白かったのかというと、この本が 一つの物語の形式をとっているからだろうと思う。
それは養老孟司の「バカの壁」も同じだと思うけど、物語の形式で書か れているからこそ、読む人、つまり私の物語も動かされて感動するんだ と思うのだ。
そう思うと、これからこういう物語形式で何かを語る本は、もっと増え ていくような気がする。
参考リンク 東京新聞 6/9特報欄「重大事件のたびナゼ?政治家失言」
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