窪塚洋介がマンションから飛び降りた、と聞いて、映画ピンポンの 冒頭のシーンが真っ先に思い浮かんだ。
窪塚洋介演じる主人公「ペコ」が川にかかる橋の欄干に立ち、 「I can fly!」と叫んで、警官役の松尾スズキの目の前で飛び込む シーンである。
さて、とっさ的に飛び降りたくなる衝動は、そんなに珍しい?ものでは ないのかも、しれない。
今年の2月に行なわれた舞台「ハルシオンデイズ」のごあいさつの中で 鴻上尚史は、自分が今まで飛び降りず、生きてこれたのは「素敵な 屋上つきのペントハウスに住まなかったのも救われた原因で、15階以上 の高層マンションに住まなかったことも大きいと思います」と書いて いるし、ちょうど今読んでいる本、「庵野秀明のフタリシバイ」の中で 庵野秀明は、田口ランディ相手にこう書いている。
庵野 屋上のへりギリギリに足を出して、飛び降りられるかどうか 確認したんです。飛び降りればそれまでだし、飛び降りなきゃ またしばらく大丈夫と酒の勢いもあって、ブラブラしたんです。
でも会社の屋上って3階とちょっとしかなくて、下がはっきり 見えるんです。のぞくとかなりリアルな映像で痛そうなんです よ。それが思いとどまる最大の理由でしたね(略)
田口 今おっしゃていた「これで飛び降りたら痛そう」という、それが まさに身体感覚だと思うんです。痛そうだと思える、自分の体に 痛みが走るというリアリティ。実際は今痛くないけれど、痛い ときはいやだろうなと感じる体の言語なんですね。それが今は 希薄になっちゃってるんですよね。飛び降りても痛いと想像でき ない人が、飛び降りるんですよねぇ。
庵野 じゃないと飛び降りられないですよね。後先考えない状態じゃ ないと。
鴻上尚史自身も書いているけど、飛び降りなかったのは「けれどこれら はすべて偶然」なのかもしれない。
私の中にも、時々、飛び降りたくなるような衝動はある。だけど、そこ で実際に実行に移さないのは「想像するだけで相当痛い」からである。 その代わり、想像(妄想)の中の私はもう何回も屋上のフェンスを越え ているし、電車の中にも飛び込んでいる。逆に言えば、そういう想像力 があったからこそ、私は今、こうして生きている、のかもしれない。
映画ピンポンの話に戻れば、衝動的に川の中に飛び込んだペコは、 溺れそうになる中で「何か」をつかみ、ずぶ濡れの姿のまま、オババの 元に来て、猛特訓に励むようになる。
今回、幸い一命をとりとめる事ができた窪塚洋介は、自分の身を投げ だした代償に、果たして「何か」を掴むことはできたんだろうか。
ま、両足大腿骨折だと、脊髄損傷がなかったとしても創外固定やら なんやらでリハビリ含めて全治3ヶ月で復帰は結構大変だと思うが 元々、好きな俳優なので、「何か」を掴んで役者として復帰する日が やってくる事を願ってやまない。
|