つくづく、日本人は初物が好きなんだなあ、と思う。 何の話かといえば、平山相太の事である。
全国高校サッカー選手権の得点王(になったんだっけ?@爆)で、 本来はユース組であったのが、U23に飛び級で抜擢され、その緒戦の イラン戦で、いきなり結果を出してしまう。そりゃ、マスコミは こぞって平山という素材に飛びつくだろう。結果、彼には「怪物」 の異名がついた。
確かに、彼は怪物のごとき才能の持ち主に違いない。ただのウドの 大木ではなく、190cmという身長でポストプレイをこなすだけではなく ペナルティエリアでのポジショニング、トラップした時の柔らかさ など、彼に関しては手放しと言ってもいいほどの賛辞の声が集まって いる。素人目に見たって、今までのU23チームの得点シーンの多くに 彼が絡んでいることを考えれば、彼が18歳としては並外れた才能を 持っているんだろうなあ、と思うし。
ただ、彼はまだ高校を出たばかりの18歳の少年である。 同じく、飛び級でU23代表入りし、アトランタオリンピックの予選ラウ ンド以降、徐々に頭角を現してきた中田英寿も、この時期にはまだ そんなに期待されていなかったことを考えれば、今の段階で過度の 期待をかけてしまうよりは、今後彼がどういった形で成長をとげて いくのか、といった方が興味が湧いてくる気がする。
その意味では、オリンピック最終予選第2戦、対レバノン戦で、平山の 放ったゴールがことごとくゴールに嫌われ、その一方で他のU23の選手 たち、田中達也、鈴木、高松、石川が決めたのはよかったんじゃない かな、と思うのだ。 これで平山だけが脚光を浴びることなく、他の選手たちにも注目が 集まるようになったんじゃないだろうか。
私が、サッカーを見るようになった直接のきっかけとなった一冊の本 がある。金子達仁著、「28年目のハーフタイム」。アトランタオリンピック U23代表を追ったノンフィクションである。
この中に確か、マスコミがあまりに前園や城などのFW陣を取り上げる ものだから、それに振り回される形でDF陣と攻撃陣の間に亀裂が生ま れ、結果チームは内部崩壊しかけた、という話があったのを思い出した。 まあ、今のU23代表たちは、そこまでマスコミに振り回されたりは しないと思うけれど。
でも、今まで何試合か見てきて、このチームは個々人を見ても、本当 に実力の伯仲したいい緊張感のあるチームだなあと思うから、できれ ば、選手の一人一人にスポットライトが当たって欲しいなあ、と思う のだ。
普段は下がり気味の位置にいながら(それだけ動きのあるという事か もしれないが)決める時はズバンと決める高松とか、格好いいなあ と思うし。田中達也にしても、FWがゴールを決めるチームってやっぱ りいいなあ、と思うし。
また、これで平山ももっと伸び伸びとプレイできるようになって、 結果ゴールシーンも増えてくるんじゃないだろうか。
話を平山相太に戻す。 マスコミの「平山マンセー」記事に限らず、やはり彼の存在は、スポ ーツライターたちの好奇心を刺激するようだ。
最近、家でとっている東京新聞には、毎週火曜日、元新体操の山崎 浩子が、コラムを書いている。 毎回、その着眼点が結構面白いのだが、これは2月24日の記事。
そしてなんといっても素晴らしいのは、彼の"ボーっとした顔"であ る。頬の筋肉がだらりと下がり、口はたいてい開いている。下唇の あたりの筋肉がゆるんでいるために、口がぽかーんと開いている 状態である。もともと、それほど覇気を感じさせる顔ではないのだ ろうが、試合になってもこれほど顔は変わらないのは珍しいことで ある。
普通は、「さあ、やるぞ」と意気込んだり、緊張したりすると、通常 より目が開いてしまう。そうすると頬の筋肉が上がり勇ましい"闘う 顔"になるのである。しかし、その度が過ぎると、頬の筋肉が上がると 同時に首の筋肉や肩の筋肉まで固まることがある。いわゆる「肩に 力が入る」状態である。
こうなると重心が肩や胸の辺りになってしまい、また筋肉が固まって いるのだから、思い通りの動きができずにバランスも崩しがちになる。
重心はおへその辺りにあり、上半身はリラックスさせるのがベスト。 そうすれば安定した動きと、俊敏な動きの両方を兼ね備えることが できる。平山も、重心は下半身にしっかりと置き、上半身を軽やかに 使っていた。つまり平山のように、必要以上に目を開かないことは 大事。また歯を食いしばらないことも重要というわけである。
今年の大阪国際女子マラソンを制した坂本直子も、きつい場面では 口をすぼめて軽く息を吐くことで、歯を食いしばらずにすんでいた。 二番手、三番手の選手は必死で追いつこうとするがあまりに歯を食い しばってしまい、かえって筋肉を硬直させていた。(略)
平山の"ボーっとした顔"はリラックスしている証し。そういう顔を できるのは、精神的な強さもあるからこそである。(以下略)
また、ナンバー596号「アテネ五輪サッカー アジア最終予選プレビュ ー」 には、「平山相太は中田英寿の再来である」という記事が載って おり、今までに彼を指導した指導者たちのコメントが興味深い。
以下、抜粋してみると 「平山相太はね、本当にゆっくり丁寧にドリブルをするんですよ。 こっちからすれば、もう少しスピードをつければいいじゃないか、と 思う。でも、速くやろうとすればできるんでしょうけど、ゆっくり やるんです。私は20年、このチームを指導していますが、あんな子は 初めてです。子供は少しできるようになると、急ぎ過ぎて、ミスが 多くなる。相太はまったくそんなところがなかった。丁寧さ、確実さ が成長する最大のコツだということを、あの子を見て感じましたね」
小学生時代の恩師である永井が中学3年の平山とばったり会ったとき、 意外な言葉が返ってくる。 「僕は個人的には今ひとつだと思います。だから、鍛えてくれる国見 に行こうと思うんです。戦術的なことはプロに行っても教えてもらえ るから」
それを聞いた永井は、驚愕したのと同時に心から感心したという。 「この子はしっかりと考えて選んだんですから。この子に任せていれ ば、大丈夫だと思いました」
国見高1年から注目し、獲得に動いたFC東京の霜田正浩強化部長代理は 言う。 「彼と話しているとすごく頭がいい子だな、と思う。考える力がある。 どんな場面でも試合中に焦っているところをみたことがないでしょ う。それは彼が常に考えているから。ヒデのようにね」
平山に接する指導者は、その底知れない可能性に魅了されていく。
最初に、飛び級を後押しした大熊は、彼のすごさをこんな風に表現 している。 「あいつは自分を、過大評価も過小評価もしない。自分の高さは絶対 通用するんだと過信もしないし、通用しないのではという不安も抱か ない。だから、自分の力をそのまま大舞台で発揮できる。ああいうメ ンタリティーは今後ももち続けて欲しいですね」
以上、彼を指導してきた人々の意見をつなぎ合わせてみた。 そこから感じるものは、やはり「非凡」の一言であるといえるのかも しれない。
同じような匂いは中田英寿だけでなく、やはり「怪物」の松阪大輔 にも通じるような気がするのだ。
ただ、まあ松坂は4年連続最多勝投手、という栄誉を手にしているが、 それでも多くの「怪物呼ばわり」されてきた早熟の才能を持った人々 は、周囲の過度の期待には応えられずに来た事が多かったように思う。 「怪物」江川卓しかり、今にいたるも無冠の清原しかり。
だから、今この時期に過度の期待をかけてしまうよりは、やはり今後 彼がどんな風に成長してくれるのか、を期待した方がより楽しめる ような気がするのだ。
彼は今春、あまたのJリーグチームのオファーを断り、筑波大学へと 進学するらしい。その進路に関しては、賛否両論があるようだが、 「頭のいい」彼のこと。そこには今まで同様、彼なりの計算がある のかもしれない。
でも、少なくともJリーグチームで、いきなりプロとしてもてはやされ 、客寄せパンダの如く扱われてしまうよりは、まだこの時期はじっくり と自分のフィジカルを鍛える方がいいのかもしれない。
だって、彼は2008年の北京大会でも、まだ23歳なのだから。
おまけ ナンバー594号平山相太「国見育ちの真髄」
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