パラダイムチェンジ

2004年02月23日(月) ドラマの行方

そんな訳でドラマ受難の理由を、勝手ながら考えてきた。
で、個人的にTVドラマの視聴率が振るわなくなってきている原因には
もう一つ、理由が挙げられるんじゃないかなと思うのだ。

それは現代、視聴者の価値観がバラバラである、という事である。

今となっては大昔、一家にTVが一台しかなかった時代は、家族みんな
でわいわいと盛り上がる番組が当然ながら人気を占め、視聴率も
とっていたと思う。また、家族で共有される物語も、現代ほど複雑で
はなかったからこそ、一つの物語で皆が盛り上がることができたんだ
と思うのだ。

またTVが一家に一台から一人に一台になった時代。
それでもドラマはまだ力を持っていた。

なぜなら一人に一台となった分、今度は見る視聴者の世代に合わせた
番組を作りさえすれば(例えば20代女性とか)、20%位の視聴率は
簡単に稼ぐ事ができたんじゃないかと思う。


そして、現代。
一人に一台の時代から、今度は一人に複数のモニターがある時代に
なった。
すなわち、TVだけでなく、インターネット画面、そして携帯電話の
画面が周りを取り囲む時代がやってきた。

その結果、どういうことが起こったか。
今まではある世代では共有されていた価値観や物語さえ、分解されて
しまう時代がやってきたんだと思うのだ。

これはTVドラマにとっては、どういうことを意味するかといえば、
ある世代を意識したドラマ作りをしたとしても、必ずしもそのターゲ
ット層が確実にその番組を見てくれるわけではないという事を指すと
思うのだ。

確実なターゲットとして見込めるのは、水戸黄門や渡鬼好きな年配層
か、その願望の掴みやすいオタク層になる。
だから、例えばTVアニメなんかはどんどんオタクよりの作品が登場し
てきて、私なんかはさっぱりついていけなくなってしまった。


でも、例えば同年代で集まったときでも、昔だったら共通して見て
そうなTV番組を挙げさえすれば話は盛り上がったのが、同じ価値観を
持っていない人同士では、例えばTVドラマの話題は上りにくくなった
んじゃないかな、と思うのだ。

だって、そのTVドラマの物語が自分達と重なる部分があればこそ、
盛り上がるのに、そもそもその価値観自体が大きく異なったりする
訳だから。

だからそういった時代に家族みんなで楽しめて、大当たりするオリジ
ナルで独創的なドラマを量産しなさい、という要求を出す事自体が
難しいんじゃないだろうか。


だからこそ、最近では漫画や小説を原作としたドラマや、リメイク物
が増えているのかもしれない。
これらは、それぞれ分野ではヒットした話題作であり、すなわち多く
の人に支持されたという実績を持ち、作品自体に力がある。

TVドラマ化することでその作品を知らなかった人たちに見せれば
やはりある一定の支持を得られるか、安定した視聴率は稼げるかも
しれないって事なのかも。

だけどその一方で、例えば「白い巨搭」について、以前のTVシリーズ
で里見助教授役を演じていた山本学が、「今ではこんなに大袈裟な
演技をしなければならないのか」と驚いていたように、視聴者に
キャッチアップされやすい演技や演出に傾きやすいのかもしれない。

だって、ちょっとした瞬間にチャンネルを変えられてしまったり、
インターネットや携帯に目を奪われてしまう時代なんだから。


で、以上を踏まえた上で、結局私が何を言いたかったのかといえば、
ドラマの(というよりTVの)面白さを測る基準や数値として、視聴率
はあまり意味を成さないんじゃないかな、と思うのだ。

このことは二つのことを意味すると思う。

一つは、広告主が自社のCM枠を買うために、多額の番組制作費を出す
意味がなくなっていく、という意味とその結果、この先更に番組作り
がしょぼくなっていく可能性がある、という事である。
というより、もうそういう時代になっているんだろうけれど。
そう考えると、あの日テレの視聴率買収事件は、最後のあがきと
いうか時代の変わる一つの象徴みたいな事件だったのかも。


じゃあ、この先ドラマに未来はないのか?というとそんな事はないと
思う。
どんなにドラマ枠が少なくなろうといい作品を作ろうとする人がいる
限り、年に数本は良作が生み出されていくだろうし、その評判はイン
ターネットなり口コミで広がっていくんだろうと思う。

例えば、「木更津キャッツアイ」は本放送の視聴率は芳しくは
なかったが、その後DVD、レンタル共に人気を博した事で(ジャニーズ
事務所のバックアップがあったにせよ)映画化され、ロングラン上映
をされるにいたった。
でも、全国民で考えたら、この作品の事を知っている人は20%には
満たないかもしれない。

そんな風に良作のドラマは結局、DVDなりレンタルなどで「買う」時代
なんだろうなあ、と思うのである。
また、自分が偶々見たドラマが、自分にとっての良作であれば、
やっぱり毎週見るのを楽しみにすると思うし。
ドラマはそんな風に、偶然性を楽しむメディアに変わったのかも
しれない。


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harry [MAIL] [HOMEPAGE]

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