パラダイムチェンジ

2003年04月30日(水) 対決より対話

さて、今回は前回の続き。
ここしばらく、やたらと固い話が続いているけど、まあ、そんな気分だ
ということでご容赦を。

前回のおさらいを簡単にしておくと、雑誌に載ったインリンのインタ
ビュー記事に始まり、ブルーハーツの『青空』の中の歌詞に半ば強引?
に結びつけたところで終わったんだった。

でね、なんでそんなことをしたかというと、頭の片隅には、北朝鮮と、
そして今現在、ワイドショーとニュースを賑わせている「白装束」の
集団のことが頭に浮かんだからである。
白装束の集団に関しては、今現在、どうにもコメントのしようがないか
ら、触れるにしてもまたそのうちに。

前回のインリンの発言を端的に言えば、「対決より対話」という事だと
思う。

でもね、例えば北朝鮮の問題やら、そしてまた白装束の集団の、とりつ
くしまのないさま、を見るにつけ、そんな事いっても、ああいう集団と
対話なんてできないだろうし、したって何も結論なんか出ないんじゃな
いの?と思う人もいると思う。
というより、同様の思いは、実は自分の中にも存在していたりする。

でも、それでもやはり、個人的には「対決より対話」だと思うのだ。
それは例えば、学級委員長のように「みんな仲良くしなきゃだめだよ」
なんて杓子定規な意見を言いたいわけではなく。

なぜ、そんなことを思うのか、理由は二つある。

一つは、人が何を考えているのか、見た目ではわからないということ。
そして、人は対話をすることで変わっていく、ということである。

まず、人は何を考えているのか、見た目ではわからない、という事。
その例として、河合隼雄と、吉本ばななの対談本「なるほどの対話」
らこんなエピソードを引いてみる。


河合 聞いた話にこういうのがあります。いま、スクールカウンセラー
   という人がいますね。あるカウンセラーが地方の学校へ行ったら
   ば、そこに茶髪でピアスの「おたずね者」がいた。

吉本 おたずね者とまで言う(笑)。

河合 中学校なんですけどね。その「おたずね者」は無理やりカウンセ
   ラーのところに連れてこられたわけです。で、話をしているうち
   にその子はわかったんでしょうね、パッと正面を向いて、「先生
   はなんのために生きているんですか」と訊くわけです。カウンセ
   ラーはたじたじとしてね。すぐには答えられないでしょ。「うー
   ん、それはすごく大事なことだと思う。自分も一生懸命考えてる
   んだけど、あなたにいますぐ言葉で伝えられるほど、まだわかっ
   てはいない」と、こう言った。

   そしたらその子は「私はそのことが話したいんだ」と。ところが
   自分の同級生は、誰もそのことについて話をしないと言うんです。
   彼らはアイドルの話とかしてるわけでしょ。「それができるんだ
   ったら、ここに来る」ということになって、そのカウンセラーの
   ところにしゃべりに来るようになった。そのときに、「みんなは
   アイドルの話とかしてるけど、自分は違う。違うことを明らかに
   するために髪の毛の色を変えているんだ」と言うたそうです。

   すごいですね。そんなもん、わかってくれればいいけれど、親も
   先生も、ぜんぜんわからないわけですから。親は「うちの子は変
   な子だ」と思っているわけでしょ。ところがその子は、人生に真っ
   直ぐに向き合っている。そういう年齢の子たちからもファンレター
   が来るわけですよね。

吉本 でも、そういう子たちは、「親とは口をききません」とか、「誰
   もわかってくれません」とか、「いま病院に入院していて、そこ
   で書いています」と書いてくる。みんなたいへんなんだな、と肌
   身で感じています。(略)



この「おたずね者」さんの場合、おそらくそばにいて、普通にアイドル
の話をしている限り、その子が本当はどんな風に思っているのかは、
わからない。もちろん、他人の気持ちなんてわかるわけない、という
一見クールに見える考え方もあると思う。

だけど、この子を自分たちとは違う、と遠巻きにしていたり、校則違反
だと頭ごなしに決め付けている限り、おそらく本人も、そして周囲も
何も変わらないまま、終わっちゃうんじゃないかな、と思うのだ。


そしてもう一つの理由、人は対話をしていくことで変わっていく、
ということ。

それは今例としてあげた、「おたずね者」さんの場合もそうだけど、
もう一つの例として、適切かどうかはわからないけれど、あえて取り上
げてみたいことがある。
それはあの「オウム真理教」の問題。

オウム真理教、現在はアーレフだっけ、はついこの間元教祖が死刑を求
刑されたことで、再びニュースに登場してきたが、この2、3年、各地で
地元住民による、信者移住拒否運動が起こされてきたことを覚えている
だろうか。

まあ、もちろんいきなり隣にオウム信者を名乗る人が引っ越してきたら、
自分だって嫌かもしれない。さすがにサリンを造る事はないだろうけど、
社会ルールを守らなかったり、なんか変な匂いがしてきたら、地元住民
としては嫌だろうと思うのだ。

そんな感じで、ほんの2、3年前まではオウム真理教と地元の反対運動
のような話が、ニュースに取り上げられていたように思うけど、そう言
えば、最近はそういう話題、なくなってきたなあ、そういえばその後は
どうなったんだろう、とか思いません?


実は、これはもちろん一部の地域の話かもしれないけど、オウム信者た
ちと、地元住民たちの中には、対決姿勢から対話の姿勢へと、その関係
性を変化させていった地域が、何箇所か存在するのだ。

私がたまたま以前、ニュースで見たのは千葉県の松戸市の話だったけど、
最初はお互いに対決姿勢だったのが、話し合いを進めるうちに、段々と
場が和やかになっていき、最終的にオウム信者たちは拠点を引き上げる
ことになったんだけど、その時はオウム監視小屋を、信者と地元住民の
協力によって、取り壊したらしい。
そして、同様の話は例えば吹田市などでもあるらしい。

今現在、オウム信者たちがどこに住んでいるのか、別に個人的には知り
たくはないけれど、彼らがそんな風に地元住民たちとの話し合いを数多
く持つことで、彼らは地元と対立しないで和解をしていく道を探り出そ
うとしているような気もするのだ。

もちろんオウム真理教にしろ、そして北朝鮮にしろ、過去に彼らが犯し
た罪は許されるものではないと思う。もしも私の知り合いに、被害者が
いたら、私は彼らを一生許さないかもしれない。

でも、だからといって彼らと一切の接点を持たず、遠巻きにしている限
り、やはり何も変わらないと思うのだ。


私たちは対話とか、議論をするというと、結論を早く出したいと思う
からか、どうしても対決する姿勢というのを想像してしまう。
だから、変な話、議論が終わるとお互いの土俵の違いだけが浮き彫りに
なって、その後もわだかまりを残してしまう事って多いような気がする。

でもね、対話をする本当の目的って、急いで結論を出すことではなく、
むしろすぐに結論が出なくてもいいんじゃないかな、と思うのだ。

お互いに譲れないところがあるにせよ、そんな風に対話をし続ける内に
お互いの理解が深まり、単なる妥協ではない、今までよりよい解決策が
思いつく可能性だってあるわけだし。

またお互いに対話をするということは、自分の意見を相手に理解しやす
い形に加工したほうが、より伝わりやすいということだから、相手の立
場に立って物を考えたり、自分が本当はどんなことが言いたかったのか、
見直すチャンスに恵まれるということでもある。


そして最後にもう一つ、対話を続ける事の効用は、相手や自分について
いる思い込みという名の色を変えられるということだろう。

普段私たちは意識的にせよ、無意識的にせよ、相手を宙ぶらりんのまま
にはせず、ある一定の枠に当てはめたくなる傾向がある。それは、オウ
ム真理教みたいな集団に限らず、シンプルに自分の敵か味方か、はっき
りとさせた方が、気持ち的に楽になるからかもしれない。

特にマスメディアの取り上げ方にはこの傾向が強いと思う。
すなわち、彼らはその場で結論を出したがるし、一度貼ったレッテルは
容易な事でははがそうとはしない。だって、その方が面倒くさくなくて
便利だし。

だから、一度不倫をした女優は、スキャンダル女優のレッテルをはがす
事はできないし、どんなに恋愛がうまくいっていても、一度何か些細な
事が起これば、あ、やっぱりと思われてしまうのかもしれない。

でもね、その一方でこんな経験はないだろうか。
初めはそんなに好きじゃなくて、この人とは付き合わないだろうなあ、
と思っていた相手と気がついたらつき合っていたとか、結婚していた
とか。
これは最初に自分がつけた色、すなわち思い込みが、つき合って対話を
しているうちに変わっていったって事なんじゃないかな、と思うのだ。

でね、私たちは普段、どうしても同じ色あいを持つ人たちで固まりやす
い傾向があるのかもしれない。
でも、実は小さな差異なんて大した問題ではなく、むしろ様々な多様性
を楽しめるような人生のほうが楽しい人生なんじゃないだろうか。

そして対話をすることは、相手や自分に勝手についた思い込みという名
のレッテルを、少なくとも対話している瞬間はお互いに棚上げすること
になるんじゃないかな、と思うのである。

逆にいえば、自分と同じ土俵の上に立つ人間だけで固まることが、不幸
を呼んでいる場合もあるわけで。
この続きは、また近いうちにでも。


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