パラダイムチェンジ

2003年04月26日(土) 本当に患者の事を考えるのなら

と、ちょっと刺激的なタイトルになってしまった今回。
金曜日にOAされたTVドラマ、 「ブラックジャックによろしく」を見た
事が原因である。

んー、基本的に青すぎだよ。斎藤先生。

私は大学病院で働いた事はなくて、しかもそもそも医師ではなくて
ついでに言ってしまえば、たかがドラマにわざわざ突っ込み入れる
のもどうかと思うんだけど、一応医療関係者として、あんまりだと
思うことがあったので、あえてつっこみを入れてみる。

一応、ドラマのアウトラインを書いておけば、「ブラックジャック
によろしく」は現在も週刊モーニング誌で好評連載中の漫画
を原作としたTVドラマ。

原作は現在の医療問題に関して提起する、リアルさが受けている
漫画。実は自分も、さすがに単行本までは買ってはいないけど、
例えば中華料理屋さんなんかに行った時にモーニング誌があれば
ついつい読んでしまう程度のファンである。

研修医さんに関しては実際に一緒に仕事した事はなくても、
実際、どんな感じか、っていうのは聞いたりしているし、そうで
なくても、新人でぺーぺーの研修医さんが、患者さんの死に接して
しまう時の感情とか、あー、そんな感じかもなんて思いながら読ん
でいたりする。
でも、このエピソードはまだ読んでなかった。

詳しいストーリー は、公式サイトを見て頂くとして、
個人的にどこに違和感を感じたのか。

もちろんこの作品は、実際の医療現場を基にしたフィクションだか
ら、当然実際とは違った話の展開になるのは当たり前だと思うし
主人公である斎藤先生は、医療現場の人間と言うよりは、より一般
人に近い立場で、医療現場のおかしい所を見せていく作品だと思う
けど、今回のエピソードでは、斎藤先生自身が医療人としては、
やってはいけないことをやってしまっていると思う。

それは、ガッツ石松扮する患者さんに、「ここではあなたは助かりませんよ」と感情的に言ってしまったこと。
なぜなら、その瞬間、彼は医療のプロとしての立場から、ただの一般
人の立場に降りてしまったと思うから。

それは、斎藤先生自身が、というよりこのエピソードで問題にしてい
る、患者さんに本当の事を言わなくていいんですか、という「正しい
嘘」の問題よりも罪は重いと思う。

なぜなら、彼はそういう事を患者さんに告げる事で、ただ単に自分が
背負いきれなくなった重荷を一方的に下ろしただけで、それを告げら
れた患者さんの方は、それを告げられた段階では、何をどうする事も
できず、ただ単に不安感を増すだけだと思うからである。

このエピソードを見た人の中には、斎藤先生のオーベン(指導教官)
である、甲本雅裕扮する先生よりも、斎藤先生の方が正しいと思う
かもしれない。

でも、個人的には甲本雅裕扮する先生の方が正しいと思う。
そりゃ、いくら心臓外科と仲が悪いからって、まだ研修医なりたての
人間に、人工心肺の手術に耐えられるのかな、なんてうかつにしゃべ
っちゃうのは考えもんだし、そもそもそういう研修医にいきなりそういう患者さんあてがっちゃうのはオーベンとしてはどうよ?とは思う
けど、彼は医療スタッフとして、自分の考えられる中でのベストと
思われる選択をしていると思う。

だって、いつ心臓の冠動脈がつまるかわからない、手術がすぐにも
必要だと思われる患者さんだからだと言って、「あなたの容態は、一
刻を争いますが、ここは心臓外科との力関係があるので、しばらくは
手術待ちです」なんて事を言って、患者さんの血圧を上げてしまう
よりは、いま自分ができうる最善の方法を患者さんに提供していく事
の方が重要だろうと思うのだ。

ここで一つはっきりさせておかなきゃいけないのは、医療に絶対は
ないって事だ。
最先端の医療を迅速に行なえば、誰でも助かるわけではない。
もちろん、誰もが最先端の医療をすぐに受けられれば文句はないと
思うけど、患者さんは一人じゃないし、最先端医療と言うのは技術が
確立しているわけではないので、中には失敗してしまうリスクも持つ。

繰り返し言えば、医療に絶対はない。
だから、この永大の医療スタッフが絶対にあの患者さんの命を助けら
れないと決まっているわけでは決してない。

現状で生き残る確率より、手術を行なうことで生き残る確率があると
思えばこそ、医師は手術の選択をすると思うような気がするのだ。


個人的に病院で働いている時に思ったことが一つある。
それはプロとして患者さんの命を預かる上で、
言いわけはしちゃいけない、
って事である。

そしてそれは今、仕事をしている時でも変わらない。
言い訳をするということ、それは自分のいたらなさの原因を何かに
押し付けると言うことだと思う。

誰か他人のせいにしたり、自分に言い訳をして甘やかしている限り、
ミスが起こる可能性は高くなるし、なかなか成長することはない。

じゃあ、言い訳しないためにはどうするのか。
その時点で可能な、自分のできうるベストを尽くすしかないのである。

自分の技術が足りないと思うんであれば、ひたすら勉強し続けなきゃ
いけないし、ミスをおかしそうなリスクファクターは極力なくす努力
をしていかなきゃならない。
そして相手がどんなに気に食わない相手であったとしても、それが患者
さんの利益になるんなら、つまらないプライドは捨てて、自分の頭を
下げなきゃいけない時もある。

そんな風にしていたって、小さなミスやエラーは必ず起こる。
その場合は素直に謝罪するしかないと思う。

そうはいっても、自分の実力が足りなくて悔しい思いをした事は
何度もあるし、その度に俺って向いてないのかな、と思った事も
何度もある。

でもだからこそ、謝罪する機会がなるべく起こらないように、
その時点での自分のベストを尽くすしかない。
大げさな話、それが患者さんの命を預かると言うことだと思うし、
プロとしてその技術にお金を払ってもらっているって事だと思うのだ。


だから、もし私がドラマの中の斎藤先生の先輩だったり、同僚だったら
やっぱり斎藤先生の行動は叱ると思う。

そしてその上でこう言うと思う。

もしも出る杭になりたいんだったら、周りにしょうがないと納得させる
だけの行動をとれるようになりなさいと。

今回の場合で言えば、斎藤先生が本当に、自分の大学の心臓外科
が信用できないんだったら、何も看護婦の話を鵜呑みにするだけ
じゃなくて、セカンドオピニオンの可能性をもっと調べるべきだと
思う。

そして本当にそれしかない、と思うんだったら、患者さんに告知する
前に、その先生をたずね、話を聞き、勉強すべきだと思う。

そしてもしも、その手術の方が助かる可能性が高く、リスクも少ないと
判断され、その先生も受け入れを了承してはじめて、患者さんやその
家族に告知するのがベストだと思う。

というより、そこまでやってはじめて「本当に患者さんの事を考えた」
といえるんじゃないだろうか。

ただし、そんな事を勝手にやった研修医は、自分の大学ではろくに
学ばせてもらえず、結果自分が本当の意味で「患者さんの役に立つ
技術のある医師」になるチャンスをふいにする事を意味するのかも
しれないけど。

「踊る大捜査線」のいかりや長介扮する和久さんじゃないけれど、
「正しい事をやりたいんだったら、偉くなれ」っていうのが、やっぱり
一番の近道なんじゃないかな、って気がするのである。


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