パラダイムチェンジ

2003年01月23日(木) 日本というソフト

さて、数回に渡り大相撲について勝手に考えてきた
わけだけど、ここで日本のビジネスの特殊性について
考えてみる。

映画監督岩井俊二と、庵野秀明が対談した本で、
「マジックランチャー」 (デジタルハリウッド出版)という本がある。
その対談の中で岩井俊二が、こんな事を言っていた。

岩井 でもそれは日本がそこそこのマーケットになるくらい、人口が
    多すぎなのが問題なんでしょうね

庵野 ああ、そうですね

岩井 日本国内でマーケットがすんでしまったのが問題で。香港とか台湾
とかオーストラリアの話を聞くと、まず輸出しないと元がとれない
から、輸出が制作の前提条件になってる。
でも、日本の映画とか、国内で採算とろうとしますよね(略)

庵野 基本的には内需拡大ですからね。

岩井 人口がいまの100分の1くらいしかなかったら、まず無理っていう。

庵野 こんな狭い所に、アメリカの半分の人口がひしめいているわけです
よ。しかもお金持ちだし。これはいい市場ですよ。国内市場だけで
すみますからね。とくにアニメーション、ビデオのアニメとか
だったら、もう2万人いりゃすみますから(以下略)



ほめる訳でもなく、そしてけなす訳でもなく、日本ってやっぱり
特殊な環境なのかもしれないと思う。

当たり前の話だが、日本人は日本語を話す。
そして日本語を話す人種は日本人だけである。

世界の中でみれば日本語を話す人数なんて、世界人口50億と
考えれば、たったの2%にしかすぎない訳だ。
でもこの1億の人々が経済力を持った結果、外を意識せず内だけを
意識してもやっていけるようになってしまった。

だから日本で暮らしている限り、英語を覚える必要性を感じなくても
よかったし、世界でも有数の経済力を持っているから、明治時代の
ように海外に留学して優れた技術を学ぶ必然性もあまり感じられ
なくなってしまった。

例えばこれが半分の人口の5千万人しかいなかったらどうだろう。
日本語だけで通用する市場は約半分。そうなったら結局はもっと
日本語以外の言語を必死になって覚える必要があったかもしれない。

いうまでもなく言語という壁は結構大きな問題なんだと思う。
日本の工業製品の場合、その優秀さを語る上で、日本語は関係ない。
だから世界に輸出しても売れるし、今までそうやって繁栄してきた。

海外の人向けに製品のコンセプトを絞り込まなくても、とりあえず
日本国内1億人に売れれば、すでにペイ出来てしまうわけだから、
国内生産の延長で今まではOKだったわけだ。

また、ゲーム機やアニメなんかも同様だろう。
言語が直接は関係しないから、全世界でヒット出来たわけだ。
その国の子供にとって、ポケモンが日本のアニメであるって事は
どうでもいいことでもあるわけで。

その一方で、例えば日本のシンガーで今まで海外で商業的に大成功を
した人がいなかったり、日本の文学でハリーポッターのように全世界
でヒットした作品がなかったりと、言語に依存した文化の輸出は
難しかったりするわけだ。

だから日本人はエコノミックアニマルで、製品の輸出ばかりをして
何を考えているかわからない、といった意見や日本人には哲学が
ない、なんて言われ続けた時代もあったんだと思う。

すなわち、日本人(だけ)は英語という世界共通の文法と土俵に
乗らなくても、やっていけるだけの経済力を持ってしまった極めて
希有な存在であったのかもしれない。

まあ自国の内側だけを意識しているのは日本に限らず、米国なんて
のは、その最たる国であるわけだけど。
おそらくイラクに対する攻撃もアメリカ国民にとっては国内問題の
延長でしかないのかもしれない。

ただ、今後は一体どうなるんだろう?
おそらく日本が行なってきたことと同様の事を、もっと人口の多い
中国はやってくるだろう。

そして彼らが本当に経済力を身につけたとしたら、今度は彼らが
内向きを志向して、それに日本が追随していく時代になるのかも
しれない。

また日本国内に目を転じてみれば、おそらくは2極化していくような
気がする。
一つは冒頭の庵野秀明の発言のように、とりあえず2万本売れれば
いいや、とあくまで国内向きの経済に目を向ける方法。

最近のアニメ事情に対して詳しくはないんだけど、以前に比べて
よりオタク指向が深まっている印象がある。つまり1万人のアニメ
ファンにだけ向けた作品を作ればいいという方法論なんだと思う。

そのためには、より顧客のニーズに応えようと、どんどんジャンルが
細分化されていくから、そのニッチをつかむことが最大の課題になる。

そしてもう一つは海外を意識したビジネスに目を向ける方法。
もちろん今まで日本の第2次産業は海外を意識して、製品を輸出する
事で繁栄を行なってきた。
ただし、それだけでは限界があるとも思う。先程の中国など、同様の
コンセプトで迫ってくる国は今後の方が増えてくるだろうから。

だから、今後輸出として伸びる可能性があるのは日本というソフト
なんじゃないかな、とも思う。

すなわち日本的な思考の輸出。
でも耳タコではないけれど、この考え方もすでに何度も言われてきた事
かもしれない。
また、例えば世界の自動車メーカーでトヨタのカイゼンやカンバン方式
が取り入れられているように、もうそんなに目新しいものはないのかも
しれない。

でもね、まだまだ実はチャンスはあると思うのだ。
何故ならソフトの分野では、ブランド品など、海外のものを受け入れる
事はあっても、海外を意識した事業展開はしてこなかったのが日本
という国なんだから。

でも例えば台湾やら香港で、日本の若者文化を真似したいと思う人
達が出てきたり、ヨーロッパでは空前の回転寿司ブームだったり。
(だから高原はスシボンバーなるニックネームをもらった訳だが)

今まで注目されなかった分、日本の文化を海外に持ち込むことは
充分立派なビジネスになりえるんじゃないだろうか。

もちろん、今までのビジネスに比べれば、日本語を外国語に翻訳
し、そして相手に伝えなければならないという、今までと比べ物
にはならない手間も生まれるわけだけど。

そこには日本語という言語の壁があるっていう事で放置してきた
フロンティアが存在しているような気もするのだ。


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