2002年06月23日(日) |
ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ |
さて、 ・ゲイが主人公 ・ハードロックバンドの話 ・しかもミュージカル の映画があったとして、あなたは見に行くだろうか?
面白そうだから見に行くと答えたあなたは、どうぞそのまま、 映画館に行って楽しんでください。面白かったですよ。
でも実は、個人的に見てほしいと思うのは、最初に嫌悪感を 抱いたあなたの方である。 おそらくは、あなたの予想を裏切る面白さがあるはずだ。
映画の題名は、「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」 もともとは、オフブロードウェイのミュージカルだったのを 映画化したもの。
主演・脚本・監督は、おそらく舞台版と同じ。 キャストの大半も、おそらくは同じようだ。
とりあえず、ここでストーリーを細かく語るのはやめておこう。 東ベルリンで生まれた主人公が、いかにして性転換手術を受け、 アングリーインチというバンドを組むことになったかは、劇中の ミュージカルを見た方が、おそらくは楽しめると思うから。
この映画は、ある意味でとても幸福な映画なんじゃないかな、 と思う。 一つは、舞台のオリジナルキャストでそのまま映画化されたこと。
おそらくは、舞台そのままを映画化することに成功し、尚かつ 舞台の魅力を、映画の世界で拡大することに成功した映画のような 気がするのだ。
劇中、主人公達はアメリカの各地をまわる。その風景は、まるで ツアーのメイキング映像であるかのようなリアルさをもって 私たちの心に届く。 また、劇中時々流れる独特のアニメーションの挿入もこの映画に マッチした表現になっている。
二つ目は、いい曲にめぐりあえたこと。 劇中で流れる曲は、この劇オリジナルの楽曲らしいのだが、 手放しでカッコイイ。
ジャンル的にはちょっと懐かしいハードロックなのだが、 バラードがなんと言ってもいい曲である。 おそらくハードロックに嫌悪感をいだく人でも、この曲は 名曲だと思うんじゃないかな。
楽曲がよければよいほど、その画を引き受けることができる。 ちょっとお茶目な歌詞であっても、曲がよければメッセージは 感動を与えることができるのだ。
三つ目は、主人公が自分に正直に生き続けていること。 前回触れた、「トーチソングトリロジー」でもそうなんだけど ゲイの人を描いた映画が、何故、ノン気の自分たちの心にHit するのか。 それは、自分に正直に生きている主人公の姿に感動を覚えるから なんじゃないだろうか?
パートナーがいればそうではないかもしれないが、彼らはある意味 孤独だといえるかもしれない。 自分が好きになった人が、必ずしも自分を受け入れてくれるとは 限らない。 それでも、たくましく生きている姿は、ゲイであるとか、 そういうことを抜きにして、自分の心に響いてくるものがある。 これは、ゲイの人に限ったことではなく、自分たち自身にも いえる事なのかもしれないけれど。
そして、最後。 ストーリー的に結末が幸せな結末なんじゃないかな、って 思えること。 あらかじめことわっておくと、いわゆるハリウッド映画的な、 ハッピーエンドのラスト、という訳ではない。 その解釈はいろいろあると思う。
だが個人的には、これは幸せな結末だったんじゃないか、 って気がするのだ。 そこには表現する、ってことと許すってことの大切さが 語られていると思うのだ。
相手を許すということは、勇気のいることである。 許す、ということを受け入れた途端、自分が拠り所としていた ものは、消えてなくなってしまうかもしれない、というリスクを もつ。
でも許す、という行為は、自分がとらわれていたものから、 自分を解放してくれる可能性をもつ。 そして、その事はあらたな表現の地平をひらいてくれるような 気がするのだ。
英語で、許す、はforgiveと書くが、許す、という行為は 相手にだけ何かを与えているわけではなく、同時に自分も 何かを得ることが出来る。
これは恋愛関係にもあてはまりそうな気がする。 よく言われることだけど、恋はいつか終わってしまう。 そして恋が終わってしまうと、熱かったふたりの距離も段々と 冷めて遠ざかっていく。
でも、恋が終わった後、見えてきた素の相手を受け入れることが 出来るなら、つまり相手の存在を許すことができるなら、 その恋は愛へと化学変化を起こすような気がするのだ。
それは例えば、ノーメークの相手の顔も好きだと思ってしまう ようなものかもしれないけれど。ってちょっと違うかも。
例え、大金が手に入らなかったとしても、自分の表現する場が 与えられ、それを支持する観客がいて、一緒に闘える仲間が いること。 そしてその事に気がつくこと。
人は何をもって、成功と思うかはそれぞれだと思うが、これも 一つの幸せな結末といえるんじゃないだろうか?
「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」は6月28日まで 渋谷シネマライズにて公開中。7:15からの回は1000円で 見られます。 また、6月29日以降は、新宿にて公開予定。
できれば、この映画は、何らかの表現をしたいと思っている人には 見てほしい映画である。
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