掛川奮闘記

2008年07月10日(木) 080710_環境問題の解決には海と鉄

 時々参加しているローカルデザイン研究会が今日も開催されました。

 今日の講師は、山に木を植えた漁師として教科書にも載ったまちづくり漁師の畠山重篤さんです。

 畠山さんは、気仙沼湾で家業としてホタテと牡蛎の養殖を行いながら、湾に注ぐ大川上流の室根山に広葉樹の植樹を続けてきたのでした。合い言葉は「森は海の恋人」。

  
 
 山に沢山の木を植えた結果、海の養殖環境は改善が進んだのですが、ご本人の言葉を借りると「それは単なる植樹ではなく、流域の住民の心に木を植える作業だった」というのです。

 木を植える過程で、上流の小学校を訪ねて、校長先生に「子供達に海の体験学習をさせたい」と直談判してそれを実行しました。海水浴くらいは来たことがあるものの、漁師船に乗り、海中のプランクトンを採取してはそれを飲んでみたり、ホタテの稚貝をテグスに結びつけて養殖の準備作業をしてみるなど、子供達には強烈な海の体験をさせたのです。

 その結果帰ってきたお礼の感想文には「使っているシャンプーや洗剤の量を少なくした」とか「農家のお父さんに農薬を減らしてくれるように頼んだ」などと言ったことが書かれていて、感動ものだったとか。強烈な原体験こそが教育そのものではないか、というのが畠山さんの言葉です。

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 畠山さんがすごいところは、そうして山に木を植え始めた頃から、「なぜ山に木を植えると海が豊かになってくるのだろうか」と考えて、その理由を探り続けてきたこと。

 そこで山と海を結ぶような研究を誰かしていないものか、とあちこちの大学を探し回り、やっとのことで北大水産学部の松永勝彦教授に出会います。そしてそこで、鉄(Fe)という成分こそが海への元気を取り戻す要素なのではないか、という仮説にたどり着いたのでした。

 これにはアメリカの海洋学者ジョン・マーチンの研究が大きな影響を与えています。ジョン・マーチンは海水の中に栄養素があるのにプランクトンの発生が多いところと少ないところがある理由を研究していて、どうやらそれに鉄が関わっているという大発見をしました。実際に、そうした海域に鉄を撒くとプランクトンが発生したのです。

 山に話を戻すと、いろいろな研究の結果、山の広葉樹が葉っぱを落とし腐葉土が形成されると、土の中に酸素が足りなくなる状態ができあがり、酸素と一緒だと参加されて安定する鉄がイオン化するのだと言うことが分かりました。
 そして、そのイオン化した鉄に酸が加わると、キレートと呼ばれる安定した状態になり、生物に吸収されやすくなります。その結果、植物プランクトンが成育旺盛となり、いきおい動物性プランクトン、それを食べる小魚などの食物連鎖も力を増してくるということがわかってきたのだそうです。

 釣り人の間では、沈船がある近くでは魚が釣れるという経験則が語られているのだそうですが、これまでの理解は魚礁として隠れ家になるから、というものでしたが、これからは鉄が溶けるから、ということも大きな要素なのかも知れません。

 しかも日本の沿岸は鉄分が割と濃いのですが、その理由の一つは中国から飛んでくる黄砂だとも言われ始めているのだとか。黄砂って単なる嫌われ者ではないのかもしれません。

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 畠山さんは、「磯焼けを修復するのにも鉄を使うと良いという確信を得るに至りました」と語り、日本が出す二酸化炭素は「海草など海の森で十分に吸収できる。海こそ二酸化炭素問題の切り札なんですよ」と熱く熱く語られました。

 「漁業者なんて、士農工商にも入れてもらえていないのに、いよいよお役に立つときが来たかも知れませんよ」とも。

 環境問題のブレークスルーに海と鉄とは考えが及びませんでした。

 うーん、もっと勉強しなくては。


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こままさ